POP2*5

過去にはてなダイヤリーで連載してた連載コラムのアーカイヴです。

一風堂CD BOX『MAGIC VOX 一風堂 ERA1980-1984』との関連について、あくまで私感として。

MAGIC VOX 一風堂 ERA1980-1984(DVD付)

MAGIC VOX 一風堂 ERA1980-1984(DVD付)



 小生がお手伝いした、一風堂土屋昌巳ベスト『ESSENCE: THE BEST OF IPPU-DO』『ESSENCE: THE BEST OF MASAMI TSUCHIYA』2タイトルは、一昨日ソニー・ミュージックのサイトに専用ページも作られた。プロモーション記事に用いられた、各アルバムの<BOX未収録>の表示は、一昨年に発売されたCD BOX『MAGIC VOX 一風堂 ERA1980-1984』をお持ちの方にも、手に取っていただけたらというメッセージである。シングル・ヴァージョンなど未収録曲を優先的に収め、BOXとこのベスト2枚があれば、BOXで扱っている時代(一風堂土屋昌巳ソロの初期)の作品は、ほぼ全曲が揃うという体裁になっている。ちなみに、これまで一風堂のオリジナル・アルバムは単体でCDリリースされていないため、この『MAGIC VOX 一風堂 ERA1980-1984』はいまなお、CDで一風堂の全曲を聴く唯一の手段となっている。
 当初、限定版としてリリースされた『MAGIC VOX 一風堂 ERA1980-1984』は、高額商品ではあったが、一風堂のオリジナル・アルバム初CD化ということもあってすぐに完売。一度アンコールプレスされたが、すぐに残部僅少となった。一風堂ファンには一通り行き渡ったと判断されたためか、その後、アルバムごとのバラ売りはされていない。現在は、ソニー・オーダーメイド・ファクトリーというネット・サーヴィスで、『MAGIC VOX 一風堂 ERA1980-1984』の追加アンコールプレスを受付中。今回の2枚のベスト盤で初めて一風堂を聴いたという方にも、オリジナル・アルバムを入手できる手段として、リクエストの門戸を開いている。
 今回<BOX未収録>というセールストークを用いているが、CD BOX『MAGIC VOX 一風堂 ERA1980-1984』を当時制作したディレクターはすでにおらず、監修者もワタシとは別。オーダーメイド・ファクトリーは、ソニー系列の別会社が運営しているので、今回のベスト盤とのリレーションは特にない。「ベスト盤ばかり」「未収録商法」だのというカキコも見かけるが、今回から初参加したワタシには、とても複雑な感情を抱かせる。一昨年にリリースされた『MAGIC VOX 一風堂 ERA1980-1984』について言えば、ワタシはそれを購入したひとりのファンに過ぎない。実際、そのパッケージ内容は長年のファンから見ると首をかしげるもので、当時憤慨したことすら覚えている。今回、ベスト盤への参加のチャンスをいただいたときも、そのときのやるせない思いがあったため、未収録ヴァージョンなどを優先して、自分のようにCD BOXを購入して落胆したファンにも、歓迎してもらえるものにすべく配慮したほどだ。
 『MAGIC VOX 一風堂 ERA1980-1984』に関しては、今でもワタシは一購入者の立場にすぎない。許される範囲でなら私感を書いてもよいだろう。以下、文責は自分にあるとして書く。あのCD BOXは、一風堂のオリジナル・アルバム5枚を初めてCD化したありがたい製品だったが、なぜかメンバーのソロ、土屋昌巳『Rice Music』、見岳章(アキラ)『Out Of Reach』を加えた7枚組としてパッケージされていた。別エントリにも書いているように、BOX収集はワタシの趣味でもあるが、こんな半端なBOXは見たこともない。唯一CD化されていた土屋ソロ『Rice Music』は、一風堂関連でもっとも入手しやすく、これを買って溜飲を下げていたという、元一風堂ファンなら誰も必ず1枚は持っていたタイトルである。本来なら一風堂だけで完結すべきBOXに、なぜ誰もが持っていて重複するはずの、しかもソロ・アーティストのCDを加える必要があったのか? また、「一風堂土屋昌巳ソロ」というならサウンドの傾向的にわかる気もするが、見岳章(アキラ)ソロは、別の産物である。この監修者、田山三樹氏は、以前からこのブログに名前が何度か登場している人物で、ジャパンの熱心なコレクターだとか。ジャパンのメンバーが参加した土屋ソロ『Rice Music』、リチャード・バルビエリがプロデュースした見岳ソロ『Out Of Reach』は、いずれもジャパン関連アイテム。ブックレットのインタビューも、YMOやジャパンとの関連にばかり質問を費やしていてイライラするが、一風堂をジャパンの派生バンドとして、CD BOXの内容を決定したのだとしたら憤慨ものだ。むしろライヴ活動が活発だったころの初期一風堂ファンには、土屋氏のソロ活動からつながっていく、後期一風堂YMO、ジャパンとの関わりを疎ましく思っている人だっているのだ。
 そして、当時から問題視されていたのは、ボーナストラックとして入るべき、シングル・ヴァージョンの欠落である。監修者は、自身が書いた『レコード・コレクターズ』の特集記事で「全曲を収めた」と書いているが、今回のベストに補完収録した「アイ・ニード・ユー」「僕の心に夏の雨」のような、「今回のBOXでやっと聞ける」と期待して、まず開封してチェックした時点で抜けているのがわかってしまう、お粗末なものまである。「アイ・ニード・ユー」は、「すみれSeptember Love」のヒットを受けて、急遽アルバムから次のシングルとしてカットされたもの。別ミックスが施されたシングル・ヴァージョンは、ベストテンに入っているヒット曲だというのに、それも知らないとは……。というか、それを知らないということは、「すみれSeptember Love」のシングルすら、リアルタイムで聞いてなかったということに等しい。ボーナストラックの配置もおかしく、一風堂「すみれSeptember Love」が土屋昌巳ソロ『Rice Music』の末尾に入っている。「サウンドの傾向がうんぬん」との付け焼き刃な注釈も入っているが、一風堂名義でソロに近いシングル曲というのなら、見岳氏がほとんど関わってない「ムーンライト・マジック」のほうを入れるべきだろう。
 実を言うと小生、この一風堂CD BOXの話をかなり早いタイミングでディレクター氏から聞いていた。MELONのリイシューでいっしょに仕事をした際に、資料や複写用ジャケットなどを貸し出ししたこともあり、CDになにもクレジットも入れずに、現物だけ返却してきたことを、マナー違反だとそのディレクター氏に意見したこともあった。その次にかかってきたのが、「一風堂のBOXを作っているのだが、資料が乏しいので、ぜひ貸してほしい」との連絡。この業界、実は監修的な仕事であってもその名義でギャランティが発生しないことも多く、資料貸し出しの代わりにライナーノーツなどのテキスト仕事をもらって、原稿料として相殺するような慣例があったりする。氏の依頼がいつも資料貸し出しばかりなので、ライター業をやっている手前、「一風堂に関してはよく知っているので、テキストのお仕事などをいただけますか?」と訊ねたこともあるのだが、それ以降、連絡がプツリと途絶えてしまった。彼と再会したのは、まだ製品が完成する前に行った、彼がディレクターとしてそこに同行した、『ストレンジ・デイズ』誌に掲載された「一風堂同窓会」のとき。資料は結局、古いファンクラブのメンバーから手配できたとのことで、CD BOXは別の監修者の持ち込み企画だったため、自分の判断だけで、テキスト仕事などをワタシに依頼できなかったのだとの説明を受けた。「持ち込み企画」でありながら、「資料が乏しいので」とディレクター経由でワタシに依頼してきたのが、その田山某というライターだったのだ。
 ブックレットのインタビューでわかる、探り探りの質問内容を見れば、この御仁が一風堂に関して、なんら知識を持ち合わせていないのがすぐわかる。例えばブックレットの記述の不備の中には、ワタシにも訂正できる箇所が多くある。初期一風堂のライヴをサポートした「ヤマカワエツコ」は作編曲家の山川恵津子のこと。この田山某は、この一風堂のCD BOXをどういうつもりで企画して、自ら持ち込んだのだろう。当時のディレクター氏がこの手のジャンルに疎いのを、すでにいっしょに仕事しているワタシはよく知っている。そんなお粗末な状況で作られたものだったとしたら、それは悲しいことだ。『MAGIC VOX 一風堂 ERA1980-1984』のリリースを喜んだファンの一人としては、そう思いたくはないというのが本音である。
 このブログでも、田山氏の行状については本当に呆れ、過去エントリで糾弾したこともある。本人から、弁解や訴状のメールでもあれば、なにがしか事態の進展もあるかと期待もしたが、そんな声が届くこともなかった。「アルファレコードの社史を単行本化する予定」「一風堂の映像集を制作する予定」などと、『レコード・コレクターズ』で一方的に告知していたのを覚えているが、いずれも実現化は果たされていない。音楽ライターとして専門誌で名前を見なくなった今は、一風堂CD BOXなどの彼の監修仕事も、さんざん荒らしてやり逃げされたという感が拭えない。同じジャンルに関わることの多い書き手でありながら、ワタシにとっていまだ正体不明の存在。同業の編集者だというが、いまどきブログもやっていないようだし、mixiTwitterもやってないと聞く。たとえ「インターネットをやってないから」といわれても、マスコミ人としてはにわかに信じがたい。ごくたまにワタシの仕事を、滅茶苦茶な論理をかざして、一方的に非難するようなレビューを見かけるたび、だからこの人が匿名で揚げ足とりをしているのではないかという印象が、ふと頭をよぎってしまうのだ。


※執筆後にファンの方から連絡いただき、一部誤記があったため修正を施した(確認中の保留案件も含む)。ほか間違いがあれば必ず検討して正すつもりなので、当方にメールで連絡いただければありがたい。


(執筆後記)


 このエントリを書いた後、書ける範囲ではあったもののリリースまでの顛末を知って、溜飲が下がったと励ましのメール、tweetを送っていただいた方がたくさんおられて、ワタシはホッとした。一方で、予測はしていたが当方を非難する匿名の書き込みも現れた。当方への賛同のコメントは署名者によって行われ、あいかわらず田山氏側に立つ批判の書き込みは匿名によって行われている。ワタシも素性を明かして、ここでこうして意見を述べている。それが本人なのか、お仲間や支援者なのかはわからないが、もし反論があれば、発信者がわかる形で発言するのはどうだろうか? 過去エントリに書いたワタシの批判記事も含め、彼に正当性があるのなら、そうした対等な立場での議論によって、一般の方にも伝わっていくのではないかと思うから。