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過去にはてなダイヤリーで連載してた連載コラムのアーカイヴです。

オムニバス『for winter music Lovers〜TECHNOPOP Xmas』(11月11日発売)


for winter music Lovers~TECHNOPOP Xmas
●アーティスト:オムニバス
●出版社/メーカー:Sony Music Direct
●発売日: 2009/11/11
●メディア: CD
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(収録曲)
1 ジングル・ベル / ザ・エレクトロ・サンタクロース
2 戦場のメリークリスマス / Aira Mitsuki
3 降誕節 / 戸川純
4 I wish you a Merry Christmas / 安西史孝
5 東京クリスマス / 電気グルーヴ
6 Christmas in the air / PSY・S
7 ドアを開ければ ・・・・・・ / 高橋幸宏
8 EXIST / SOFT BALLET
9 アフリカのクリスマス / 平沢進with島崎和歌子
10 戦場のメリークリスマス / ロジック・システム
11 絵本の中のクリスマス / 野宮真貴
12 スプーン一杯のクリスマス / ムーンライダーズ
13 25 Dec. 1983 / 細野晴臣
14 wish it could be Christmas everyday / 鈴木さえ子


 ありそでなかった「テクノポップ限定クリスマスソング集」というコンセプトで作られた、オムニバス『for winter music Lovers〜TECHNOPOP Xmas』(ソニー・ミュージックダイレクト)が来月11日に発売される。フィル・スペクターの著名な『A Christmas Gift for You』を筆頭に、ワタシらの世代にはおなじみクレプスキュールのVA『Ghost Of Christmas Past』、NRBQChristmas Wish』などなど、「クリスマス企画盤に名作多し」の定説もあるように、聖歌のような厳かなムードをまとったロック、ニュー・ウェーヴというのには格別な味わいがある。この「テクノポップでクリスマス集を作る」という話を最初に聞いたときも、ポール・マッカートニー「ワンダフル・クリスマス」、キャプテン・センシブル「One Christmas Catalogue」、はたまたモーグ・レコード初期の企画盤『スイッチト・オン・クリスマス』(ザ・モーグ・マシーン)などを即連想したぐらい。ま、それぐらいクリスマスものに目がないワタシなので、同社のディレクター氏からお手伝いの要請を受けたときには即OKしたですよ。ソニー・ミュージックダイレクトとは、ちょうど一年前に『テクノ歌謡アルティメット・コレクション』の選曲・監修で仕事しているのだが、今回はディレクター氏のヘルプとして候補曲の調査に協力し(選曲補助ってところかな?)、曲解説などテキスト面を主に担当させていただいた。
 ソニーといえばアルファレコードの販売契約を持つメーカーなので、テクノポップ愛好者にはおなじみYENレーベルのVA『We Wish You A Merry Christmas』をはじめとして、潤沢な素材があるのはファンならご存じだろう。本家ソニーの過去カタログにも、PSY・Sピチカート・ファイヴがレーベル在籍時に参加した杉真理プロデュースの『Winter Lounge』というアルバムもある。今回のセレクションは、ソニーおよびアルファ、そして今春ソニー系列に統合されたBMGジャパンのカタログが主として選ばれ、そちらのパートはディレクター氏が選曲を務めている。先日紹介したロフトプラスワン・イベントのキャッチコピー「YMO vs.ムーンライダーズの競演が実現」じゃないけれど、テクノポップ通ならまず外せないだろう、鈴木さえ子「I wish it could be Christmas everyday」やファンハウス・トラスト時代に残したムーンライダーズのクリスマス曲などが、ソニー・グループ自社原盤として扱えるというのは、神の采配のよう。また、これも欠かせない坂本龍一戦場のメリークリスマス」は、いまや日本のクリスマスを飾る代表曲としてさまざまなVAに収録されているが、ディレクター氏との最初の打ち合わせでも「まず、戦メリどうする?」という話になり、こちらもロジック・システムがアルファレコードに在籍していた時期に出した、現在廃盤になっている『スペース・ポリフォニー』収録ヴァージョンが使えるという話になって、YMOにもっとも関係の濃い筋からカヴァーを調達できたのは幸運であった。横溝正史の映画『悪霊島』がDVD化されたとき、ビートルズ曲が使えないため「レット・イット・ビー」のビリー・プレストンのヴァージョンに差し替えた話を思い出した……って、それ違うか(笑)。ジ・エレクトロ・サンタクロース「ジングル・ベル」はかなり異色だが、これは拙著『電子音楽 in JAPAN』でも紹介している、YMOがライヴデビュー時に競演している元祖シンセ・グループ、バッハ・リヴォリューションが76年に変名で出した企画盤『シンセサイザーによる子供のための楽しいクリスマス』から(これもRVC→BMGジャパン原盤)。彼らのオリジナル・アルバムのほうは『ストレンジ・デイズ』誌の監修で先にCD化済みだが、同アルバムからの音源のCD化は初めて。グループとゆかりの深い冨田勲ファン、P-MODELファンはぜひチェックされたし。
 他メーカーからの貸し出し音源については、ワタシがまとめたリストを預けて、そこからディレクター氏が選曲する形で選ばれた。「ポストPerfume」の位置づけでよく紹介されている新世代テクノポップAira MItsukiは、昨年の『テクノ歌謡アルティメット・コレクション』同様に、「80年代テクノとPerfume世代を繋ぎたい」という小生の目論見もあって選んだもの。彼女の「戦メリ」カヴァーは実はそれほど知られておらず、参加レーベルのVAやネット配信、限定盤のみに収録されているアルバム未収録曲なので、収録を許諾いただいたメーカーには感謝。安西史孝氏がモーグIII-Cで制作した「I wish you a Merry Christmas」は、アニソン系で著名な作詞家、畑亜樹氏の発案で作られた安西氏のソロ・アルバム『Silent Night』に入っていたもので、ペリー&キングスレイみたいなファニーなアレンジは、『うる星やつら』のBGMに通じる世界。平沢進with島崎和歌子「アフリカのクリスマス」もまた異色で、P-MODELの平沢氏が珍しくアイドルに提供したポリドール時代の企画盤への提供曲。これも現在は、島崎和歌子のCD-BOXでしか聴けない曲なので、収録許可をいただいた各メーカーの方々には頭が上がりませぬ。
 結果、完成したアルバムはYMO系、ムーンライダーズ系から電気グルーヴ、ポストPerfume世代まで、かなり幅広い人脈から「テクノポップ系クリスマス曲」を選んだ、異色のオムニバスとなった。ロジック・システム松武秀樹)、戸川純ムーンライダーズ、TPOの安西史孝といった、小生がライナーノーツや監修仕事でお世話になった方々の曲が並ぶことになったのも感慨ひとしお。そして、一見バラバラなメンバーの曲でありながら、不思議と統一感のあるコンセプト・アルバム風に仕上がったのは、ひとえにディレクター氏の構成力によるものである。クリスマス直前というと各社リリース・ラッシュが予測されるが、レゲエ、スカ、ユーロビートなどさまざまなジャンルで調理されているクリスマス・キャロル集の中でも、異色中の異色なこのアルバム。お値頃サービス価格になっているので、未体験の方もぜひ「日本のテクノポップ入門編」としてチェックしてみていただきたい。