POP2*5

過去にはてなダイヤリーで連載してた連載コラムのアーカイヴです。

アニメサントラの意外な仕事発掘!「80年代アレンジャー外伝」その2


 週刊誌編集者時代には、ほぼ13年に渡ってカルチャー欄を担当していたが、最後の数年はほとんどデスク担当だったため、音楽、書籍、映画のページは若手編集者のやりたいようにやらせていた。しかし、これは世代の違いなのかもしれないが、20代後半の子たちって、PR担当からプレスシートをもらってそれをそのまま原稿化することに、抵抗がないもんなんだなー。紹介する作品のセレクトにしても「他誌ではやってないもの」「他誌にはない視点」を心がけるぐらいの矜持を持って欲しかったのだが、だいたいここ数年は、その月発売の作品というのを、他誌の情報ページとまるまる同じように構成してもOKという感じであった。ライターも「できるだけ若い人を自分で探してこい」「育てる苦労はあっても、その人が将来自分の武器になるから」と何度も諭したけれど、苦労はイヤなんだと。新デスク体勢になってこの秋からカルチャー欄を一新するらしいのだが、新連載が青山真治氏だって……。青山氏の連載って、これで何誌目になるんだ? そんなに人気者の連載をいまさらやって手柄にしたいのかと思うと、ちょっと前途が不安になってくる。グチっぽい話になって申し訳ない。そういう若手といっしょにいるわけだから、当然編集部で音楽の濃ゆい話などで盛り上がるなんてことは、これっぽちもなかった。唯一、自説を聞いてもらえたのはAVの話ぐらいだろう。だから私のことを、まず「AV好きの人」と認知している編集部の若手も多いのではないか。ここ数年、いままでハダカを一切やってこなかったことがウソのように、その週刊誌はエロエロ全開になってしまったが、私などは耐性があるので「業に入れば郷に従え」のつもりでやっていた。「AV業界が凄かった」という話も、実際は私の青春期の80年代の話だと思うから、現在はAV業界も、もっとマーケティング主体の既製品を作っているだけみたいな感じなのだろうけど。ではなぜ、私が「AV博士」と思われていたのかというと、これは私の性分というか、B型という血液型に由来するものなのだと思うが、音楽であれ映画であれAVであれ、どんなジャンルにしても、ちょっと首を突っ込むだけでは満足できず、とことん研究してしまうタチなのだ。
 この性分は、ある時代に於いては、週刊誌の仕事に大変に役にたった。現役時代、一月に一度のペースで10ページ程度の特集を長年担当していたのだが、そのテーマは社会学から政治、経済、ユースカルチャーと、ジャンルは多岐にわたった。できるだけ面白い、個性的な視点でやりたいと思っていた私は、私が提出した企画が通ると、まず徹底的に資料に目を通して取材に取りかかるようにしていた。その分野に強いといわれるライターと組む場合も、台頭に渡り歩けるぐらいの予習をして毎回臨んでいたつもりだ。編集者によっては、「素人なのでわかりやすく話してください」と対象者の前で開き直って、当たって砕けろで記事を取るやり方の人もいるかも知れない。だが私の場合、相手本意なんてうまくいかなかったらどうするんだという不安があるし、オドオドして取材対象者になめられたらおしまいと思っているところがある。学者や有識者なんて、実質的には「言葉の世界の人」ではないので、説明が決してうまいわけじゃない。同じテーマの質問を投げかけられても、毎回飽きずに同じことを繰り返し話しているだけだろう。「それはわかってますので、それ以上の話を聞かせてほしい」と臨むのならば、最低限の知識あってインタビューに向かうのが当然だと思っていた。だから、その2週間ぐらいの間の予習で、ある程度オーソリティーのようになって、それぞれのジャンルの特集に取り組んできた。だから、電子音楽のデの字もしらなかった門外漢の私が、『電子音楽 in JAPAN』などという長い歴史の本をいけしゃあしゃあと書いたりできるんだろう。
 そんなわけで、先日書かせていただいた歌謡曲、アニメ音楽の編曲家に関するエントリーも、にわか知識が長年にわたって累積されただけのものである。アイドル歌謡曲の全盛期なんて実は知らないし、アニメもレコードは持っていても、本編を見たことがないものが大半である。しかし、そのエントリーには多くの反響をいただいたようなので、私でも果たせることが何かあるかも知れない。そこで、調子に乗ってその第2弾ということで、今回はおなじみの有名作曲家、有名グループが、密かにやっていたアニメ仕事をまとめて紹介してみることにした。私のまわりは普通の音楽好きばかりだから、アニメを観る人間はほとんどいない。だから、こんな私でも、仲間内ではもっともアニメ音楽に詳しい存在である。そのくせ「実はこんなのがあるんだけど」と、有名な作曲家がやっているアニメのサントラを聴かせてみると、皆一様に「すげえじゃん、これ」って驚かれることが多い。アニメの音楽にしておくのはもったいないほど(失礼!)、自身のソロ作品ばりの愛情を注いで、根詰めて作ったものもたくさんあったりする。というか、私から見ると、職業音楽家にとってアニメ劇伴は、かなり自由度がある仕事だと思う。なおかつ固定ファンが付いているから、収入も安定するというような理想に近い環境がある。黒澤明キューブリックみたいな、変に音楽に一家言ある監督が実写映画には多いが、音楽監督とはよくモメると聞くし。「音楽は苦手」という人が多いアニメの監督のほうが、作曲家にお任せしてのびのびやらせてくれたりして、最終的にはより多くの収穫が得られることも多いだろう。
 普通、実写映画の音楽は、撮影が終わった後から作曲が始められることが多い(だから実写映画の音楽制作は常に時間がなく、あらゆるしわ寄せがそこにかかってくる)。ところが、アニメの場合は映像自体がいちばん遅れるような世界だから、吹き替えだってキューだけが書き込まれた仮フィルムで録っちゃうそうだし、音楽もシナリオと絵コンテだけで作曲してしまうことが多いらしい。例えば、安西史孝氏、天野正道氏が音楽を書いた劇場作品『オーディーン 光子帆船スターライト』などは、ほとんどフィルム未見の作業だったために、TPOのセカンド・アルバムのような完成度になってしまった……(笑)。私の知人で、『吹替洋画大事典』の共著者である新田隆男氏は、映画ライターの傍ら『うずまき』『エコエコアザラク』などの脚本も書いている。彼に聞いた話によると、実写映画の世界では、自由に書いた脚本の第一稿をプロデューサーに持って行くと、ロケやセットに金がかかりそうなところにチェックが入って、まず予算の都合から「これって別設定に置き換えられない?」というふうに改訂作業の指示が入るんだそう。そうすると、どうしても話のスケールが縮こまってしまいがち。「今どきなら全部CGでできるじゃん」と突っ込まれるかも知れないが、CGってあれ、全行程モーションカメラで撮ってからポストプロダクションで作る映像だから、似たようなロケ場所を見つけてきて撮るよりずっと金がかかるのだよ。そんな制約の多い実写映画に比べると、絵で描いちゃえばなんでも表現できるアニメは、脚本家にとって創造力をフルに発揮できる仕事らしい。そういう意味では、80年代後半からサンプリングや打ち込みのツールが普及して、オーケストラのフェイクが可能になってからは、音楽家にとってアニメ音楽の仕事がもっとも自由に表現できるジャンルと思うところがある。劇場映画だと、もっとオーセンティックな世界だから、生オケとか使う要請があったりして、音楽制作費もヒトケタぐらいあがりそうだし。
 80年代中期に私が在籍していた音楽雑誌『Techii』のころも、ミュージシャンの多くが、自身のアルバムの売り上げからの収入よりも、映像の仕事をよすがとして生活していたように思う。PSY・S松浦雅也氏は映画『スウィート・ホーム』の劇伴を担当。ピチカート・ファイヴも『カップルズ』で認知され、フジテレビの恋愛ドラマでバカラック風スコアを担当するようになった。我が師匠の戸田誠司も『スーパーマリオ』のイメージアルバムほか、ゲーム音楽のジャンルの職業作家として活躍していた。それに、元々ミュージシャンには映画好きやマンガ好きも多い。マンガ分野では、元ゴダイゴタケカワユキヒデ氏などは、創刊号からマンガ週刊誌を全誌欠番なしで保存しているという、マンガの大宅壮一文庫みたいな人である。『電子音楽 in JAPAN』にも登場いただいている安西史孝氏もかなりのマンガ通。たまたま所属していたキティグループのアニメ事業進出で『うる星やつら』をやることになり、一も二もなく参加したという原作の大ファンであった。だから『うる星やつら』の音楽は、いわゆるそれまでの大人の作家が手慰みでやるみたいなアニメ音楽の仕事より、ずっとアグレッシヴなものになっていると思う。小林泉美ヴァージンVS板倉文などの異色作家の起用も、実際はキティグループのお家事情とはいえ、いわゆる「子供向け音楽」という風に割り切って作らなかったことに、成功した理由がある。
 しかしだ。原作のファンでもあった私は、『うる星やつら』は最初からテレビアニメを見てはいたけれど、トータルに考えて失敗作だったんじゃないかと思う。あれは高橋留美子の原作とは別もの。高橋のギャグの良質なエッセンスをどっかで取り違えた、自称ギャグアニメになっていると思った。メガネという余計なキャラクターの独白とか、違う人が見ればあれも面白いんだろうか? ラムにまつわるエロい描写も、マリリン・モンローみたいな海外のセックスシンボルを茶化したものだったと思うので、「ラムちゃんに萌える」みたいな構造のマンガじゃなかったはずだし。高橋の原作の持つギャグの「タイム感」をまったく理解していない演出と思って、すぐに観るのを辞めてしまった。そういえば、『うる星やつら』のアニメ版と高橋留美子原作の齟齬について書かれたものって読んだことがないけれど、そう思う評論家っていないのだろうか? 実は『タイムボカン』シリーズのギャグも笑えない私なので(唯一『ゼンダマン』だけはなぜか笑えた。ブレ〜)、アニメ演出家でギャグがわかる人がいないんじゃないかと思ったほど。ところが、虫プロの『悟空の大冒険』のギャグとかは、ちゃんとマルクス・ブラザーズみたいな完成度になっているし。まあ、そんな『うる星やつら』体験もあったから、同世代の中ではわりとアニメには冷めていたほうなのだが、こと音楽についてだけは、知識が蓄積されて今に至るといたるといった具合。好きな音楽家が関わっているサントラはたぶん、アニメだけで500枚は手許にあると思う(映画、演劇を併せた、サウンドトラック蒐集のごく一部)。以前、現アプレ・ミディの橋本徹氏がオーガナイズしていたサバービア・スウィートが、イタリアのチネジャズを再評価した時、モリコーネなどに心酔する古参の映画音楽ファンから「本編を観ずに映画音楽を逡巡するなんて、画竜点睛を欠く行為」と批判されていたのを覚えている。あれはイタリアのプログラム・ピクチャーが容易に観れない(あるいは英語版が少ないので観ても筋書きがわからない)ことから、音楽だけでも楽しもうという運動だったと思うのだが、そういう意味では私のアニメ音楽鑑賞法は、サバービア流と言えるかも知れない。
 最近、菅野よう子(私は溝口肇夫人としてずっと認知していた)や元ティポグラフィカ今堀恒雄が、アニメ音楽の世界で活躍している話をよく耳にしていたが、鈴木さえ子ケロロ軍曹』、パール兄弟N・H・Kにようこそ』といった『Techii』周辺組の復活劇もあって、いよいよアニメ音楽が面白くなってきた。敬愛する上野耕路氏が手掛けた『ファンタジックチルドレン』の内容も素晴らしかったが、そのディレクターを担当していたのがなんと、以前から仕事ぶりをよく拝見していたビクターのS氏だった。今から20年前に、『ニュータイプ』編集部から『Techii』に移ったあたりのころ、同社の“ファンタスティックワールド”という、コミックのイメージアルバムをずっと手掛けてきた女性ディレクターである。シネマの松尾清憲をヴォーカルに迎えてムーンライダーズが制作した『綿の国星』から、ビクターにはイメージアルバムというユニークなジャンルの伝統があり、ムーンライダーズの熱心なファンだったS氏は、上野耕路鈴木さえ子、野見祐二といった『Techii』ゆかりのニュー・ウェーヴ系作曲家を積極的に器用して、少女マンガの傑作イメージアルバムを制作していた(ほとんど手元にあるので、後日紹介したい)。今でも彼女がビクターに籍を置き、テレビ作品を手掛けていることを『ファンタジックチルドレン』のクレジットで知って、懐かしい思いに駆られたものだ。
 先日のエントリーで触れたように、私が多くのアニメサントラをサルベージしてきた蒲田の「えとせとら」サウンドトラック店は、残念ながらなくなってしまった。しかし先日、中野ブロードウエイの「まんだらけ」の一コーナーから独立して、アニメ中古サントラCD店ができたという話もあるらしいので、私も今度チェックに行きたいと思っている。もし、以下紹介する作品に興味がある方がいたら、内容は保証するのでぜひ聞いていただければ嬉しく思う。


パール兄弟『N・H・Kにようこそ』(ビクターエンタテインメント

鈴木さえ子復活を手掛けたビクターが、今度はパール兄弟をリユニオンさせた。“勘当”されていた窪田晴男が前作『宇宙旅行』で帰還し、『真珠とモノクロ』というアンプラグド・ベストのようなDVDをリリースしたパール兄弟だったが、そこにオリジナルメンバーのバカボン鈴木が合流して3人編成に。主演の声優、牧野由依が歌う主題歌「ダークサイドについてきて」も彼らのプロデュースなので、オリジナルの新作と呼んで差し支えのないほど全面的に関わっている。サエキけんぞう氏は『王立宇宙軍オネアミスの翼』のイメージアルバムの作詞を、窪田氏は本編に楽曲提供をしているが、メンバーがアニメ音楽の仕事を本格的にやるのはコレが初めてだったというのは意外かも(そういえば、仲のよかった岡崎京子氏のイメージアルバムとかアニメってないはずだよね?)。往年のニュー・ウェーヴ打ち込み路線からぐっとヘヴィーなロック・バンドとして凱旋。次回は正式なオリジナル・アルバムと、ドラマーの松永俊弥の復帰が望まれる。ちなみに、主題歌「踊る赤ちゃん人間」を歌っている大槻ケンヂ橘高文彦筋肉少女帯も、三柴江戸蔵を加えたオリジナル・ラインナップで復活するらしい。

上野耕路ファンタジックチルドレン』(ビクター)

8 1/2ハルメンズゲルニカのキーボード奏者で、坂本龍一氏も一目置く稀代のスコアメーカーの初のアニメ劇伴。ディレクターは、以前から同社のコミック・イメージアルバムの制作で共同作業していたS氏。全編、上野耕路アンサンブル『Polustyle』などに通ずる前衛スコアで、コンパクトなオーケストラ編成による演奏で、上野はピアノとエレクトロニクスを担当している。「トーマ」「ワンダー」「ぼくらのワンダー」で聴けるコード展開の読めない曲調は、ショスタコーヴィチ「黄金時代」のよう。水彩画調らしい淡い映像を完全に食っていると思うほど、重厚な音楽が付けられている。お得意のストラヴィンスキー調で迫る「戦闘」は、アルファ時代の傑作ソロ『レゼヴォワール』に比肩する出来。「ソランとセス」で聴けるミニマルなトーンは、グリーナウエイ作品のマイケル・ナイマンのスコアを連想させる。

福田裕彦『11人いる!』(キティ)

ヤマハDX7の開発などに関わっていた時期に出た、おそらく初のアニメサントラ仕事。ヤマハポプコンの常連で、QuizとYOUという2つのフュージョンバンドを組んでいたが、後者でデビューした直後にバンドが解散。私は爆風スランプ「らくだ」の凄まじい弦アレンジとプログラミングで彼の存在を知った。萩尾望都の古典SFマンガの初アニメ化だが、福田は元々原作のファンだったらしく、その出会いのいきさつをライナーで自ら書いている。福田氏はそれまでに『国東物語』『燃えよカンフー』などの実写作品の音楽を手掛けており、ニーノ・ロータモリコーネに心酔する映画好き。特に『ウルトラQ』を座右の作品と呼んでいるほどで、SFマインドの翻案はお手の物といったところか。今作はいわゆる福田節というより、作品の詩情に併せたフランス近代風のピアノによる静かな曲が中心。だが、やはりDX系の打ち込みに収穫が多く、「危機」のFM音源のスリリングな弦楽はジェリー・ゴールドスミスもかくやの出来に。「収穫」は、宍戸留美に提供した打ち込みによるワルツ「おとこのこ」のオケを彷彿させるリリカルな曲。ほか、ゲストでショコラータのかの香織がコーラス参加している。

山川恵津子『レア・ガルフォース』(ソニーレコード)

おニャン子クラブ渡辺満里奈のソロなどを手掛けていた編曲家、山川恵津子の劇伴仕事のひとつ。東北新幹線解散以来、ソロを出していないため、数少ない彼女の個人趣味が伺える興味深い作品に。これはソニー制作のSFアニメのサウンドトラック。主演の声優のグループ、レアーズの歌と「COUNT DOWN ATTACK」「FLY ME AWAY」などの劇伴の半々で構成される。パワフルな打ち込みのビートに、鳥山雄司のギターが炸裂する、かなり男っぽい仕上がりで、打ち込み時代のハンズ・ジマー仕事を連想させるハリウッド・サスペンス調に。「FLY ME AWAY」は、不思議なコードワークのエスノ・アンビエント。コーラスは新居昭乃、プログラミングが黒石ひとみという、アニメゆかりの作家が裏方でサポート。これは余談だが、新居氏は私が『ニュータイプ』の取材で初めてインタビューしたシンガー。加藤和彦プロデュースでシングル・デビューしたのだが、元々その周辺組のサポート・ミュージシャン出身で、清水信之のソロ『リズム・ボクサー』のB面曲「デ・ジ・ブー」を歌っているMIKAN CHANGの正体が彼女だったのを、本人から聞いて知ってビックラこいた。

山川恵津子『3丁目のタマ/うちのタマ知りませんか?』(ソニーレコード)

ドラゴンヘッド』『スチームボーイ』などの音楽プロデューサーとして著名な百瀬慶一氏が、ソニーの社員時代に初めて手掛けたテレビアニメのプロデュース仕事。森達彦やパートナーだった大竹徹夫プログラミング時代の派手さはなく、元東北新幹線の鳴海寛がボッサ・ギターで全面参加する、小編成によるアンサンブルのライトな劇伴に。プログラミングは『カードキャプターさくら』の根岸貴幸氏。「ノラの孤独」でスティーヴィーを思わせるブルースハープが聞けたり、渡辺満里奈のオケみたいな「3丁目の昼下がり」など、かなり彼女のルーツが垣間見れる、転調を駆使したバカラック風の曲が並んでいる。

冨田恵一こどものおもちゃ(1)(2)』(ソニーレコード)

先日も書いた通り、Out To Lanchというモンド・ユニットでその存在を知った私は、その新しい才能を(冨田勲ヤン富田に続く)「第三のトミタ」と讃え、一時すごく入れあげていた。種ともこのツアーサポートで存在は知っていたが、作家として意識したのは、葉月里緒菜主演のドラマ『夢見るころをすぎても』のサントラが最初か。キリンジMISIA中島美嘉のアレンジで注目され、現在は「冨田ラボ」という実験的なユニットで活動中。しかし、以前のようなモンド趣味を封印してしまったのが本当に惜しい。本作は唯一のアニメ仕事で、計3枚出ているサントラのうち、(1)(2)が彼が手掛けているもの。監督から指示を受けたコンセプトは「サンバ調で」というものだったらしいが、他は基本的にOut To Lanchの路線そのものといった冨田ワールドに。以前書いた通り『奥様は魔女』の秀逸なパロディーが私を虜にした冨田氏だが、ここでも「SOMETHING WILL HAPPEN」で『鬼警部アイアンサイド』(クインシー・ジョーンズ)のテーマを見事に換骨奪胎。「LETTER FROM BABBIT」「IN THE MOND」はもろレイモンド・スコットだし、テクノガムランな「KECHA KECHA CATCHY」など、モンド音楽系への配慮は抜かりなし。その一方で、監督指定のラテン曲「KODOCHA MANBO」では、ラテン・プレイボーイズのチャド・ブレイク仕事みたいな現代性も獲得している。冨田ラボでも、アルバム名にロバート・ワイアットの曲を引用していたが、ここでも「MAN FROM UTOPIA」なんていうトッド・ラングレンをもじった曲もあって笑える。子供向けサントラにしておくのは惜しい。

安西史孝『URUSEI YATSURA Complete Box Disc 4』(キティ)

安西氏参加時代の『うる星やつら』のサントラは、映画版や未収録集を含む計4枚がリリースされているが、BOX収録の本CDは、その中から安西曲のみを抜粋しているもの。そもそも、元RCサクセション小川銀次率いるクロスウインドのディレクターだったH氏が、『うる星やつら』のA&Rにたまたま抜擢されたことから、メンバーの安西氏に依頼あったという偶然の産物。原作ファンでもあった氏が、自主制作ででも出せればということで作ってあったステレオ・ミックスを、アニメ人気の高まりから「ぜひサントラを」との声が集まり、急遽キャニオンからリリースすることになったもの。原作のドタバタ場面を、アメリカのアニメ風にリアライズするために参考にしたのが、ペリー&キングスレイだったという衝撃の事実もあり(『電子音楽 in JAPAN』参照)。ほか、ヴァンゲリスのパロディーや、ラロ・シフリン好きの安西氏らしいスパイ・サントラ風など、映画音楽のエッセンスが盛り込まれていて楽しい。初期のデヴァイスはローランドのシステム700とTR-808による軽いサウンドだが、後期はフェアライトCMIとリン・ドラムにグレードが上がるため、時期によっては音圧がずいぶん違う。ちなみに、安西氏のレコードデビューはアニメ『Dr.スランプ』のイメージアルバムで、映画『まことちゃん』の音楽をやった川上了(『ダッシュ勝平』)から誘いがあったというもの(安西氏は、楳図かずお率いるスーパーポリスのメンバーだったのだ)。

『オーディーン 光子帆船スターライト Vol.1、Vol.2』(日本コロムビア

宇宙戦艦ヤマト』の西崎義展プロデューサーが制作した劇場アニメ。音楽をラウドネス高崎晃羽田健太郎宮川泰、安西史孝+天野正道の2人組時代のTPOが担当している。拙著『電子音楽 in the (lost)world』で紹介しているのは、複数出ている関連アルバムのうち、TPOだけで1枚を構成しているもので、正式はサントラはこちらのほう。TPOはVol.1に「スクランブル」、Vol.2に「オーディーン星への想い」(曲はハネケン)それぞれ1曲づつ提供しているが、TPO盤とはテイクが異なる。ほか、安西氏によれば、本編にはソニーに無許可で『TPO1』の曲も使われているらしい。TPOの起用は『TPO1』を聴いて気に入った西崎プロデューサーの意向だったそうで、すでに進められていた音楽作業に後から参加したんだとか。羽田健太郎も、実は前田憲男グループのころにいち早くミニ・モーグを購入していたという実験録音好きで、彼の楽曲にもシモンズ・ドラムやシンセが効果的に使われている。

板倉文うる星やつら4 ラム・ザ・フォーエヴァー』(キティ)

小林泉美、安西史孝、天野正道という初期のメンツに変わって、同じくキティグループと縁が深かった元チャクラの板倉文が劇場第4作の音楽を担当。当時の板倉氏はすでにキリング・タイムを始動させており、Switchレーベルで「BOB」のレコーディングが進行中だったが、それがオクラ入りになったために、本作がキリング・タイムの初のレコード化になった(但し、キーボードはホッピー神山)。H氏から近藤由起夫氏に『うる星やつら』のA&Rが交代になって、そのタイミングで板倉氏にオファー。近藤氏は、後の「東京バナナボーイズ」でのCM、テレビ音楽仕事や、日本テレビの連続ドラマの音楽プロデューサーとしてのキャリアが有名だが、元々キティのディレクター出身で、名古屋にいた学生時代はチャクラのFCに入っていた根っからの板倉信者なのだ。冒頭曲「Out Of The Door」から、いきなりコード展開はフランク・ザッパ調。「水曜日の午後」の変なコードのボッサは、板倉氏も好きなワグネル・チゾを連想させる。全体は「桜の花びら」で聞けるようなシンフォニックが基調だが、板倉氏は弦楽スコアをクラウス・オガーマン(ジョビンやビル・エヴァンスの編曲家)などを聴くことで、ほとんど独学で学習したというから恐ろしい。ラスト7曲のタイトルなしの曲のうち、最終曲はチャクラ『南洋でヨイショ』みたいな、転調を多用する胸キュンポップ。ほか、『うる星やつら』には、元モップス星勝、小滝満(シネマ、ヴァリエテ、ヤプーズ)なども曲を提供している。

板倉文老人Z』(エピック・ソニー

ソニー出資の劇場アニメで、大友克洋が原作、江口寿史がキャラクターデザインを手掛けた話題作。たまたま、キリング・タイムのディレクターだった福岡知彦氏が担当になったことから、板倉氏が音楽、小川美潮氏が主題歌を歌うことになったというもので、ドアーズ好きの大友氏や江口氏の意向ではない。板倉氏は実質音楽プロデューサーという立場で、曲、演奏は市川準監督『会社物語』と同じく、キリング・タイムの面々が関わっている。板倉のペンによるイントロダクション曲では、沖縄のカチャーシ・リズムを取り入れており、後の喜納友子のプロデュース仕事を連想させる。元KAMIYAスタジオ出身で後期チャクラからのメンバーになった、Ma*To氏の曲もストラヴィンスキー風の見事な仕上がり。主題歌「走れ自転車」のサビのメロディーは、マテリアル「アップリヴァー」からの引用かな?

清水靖晃『X』(ビクターエンタテインメント

実はアニメ仕事は、ビーイング時代に手掛けたリメイク版『鉄人28号』が最初。実質マライアの演奏だったが、レコード会社の契約の関係でギミックという覆面バンドによる参加になった(『電子音楽 in the (lost)world』参照)。本作は、ソロで契約していたビクターからの、久々のアニメ音楽のサウンドトラック。柳町光男監督映画の『チャイナ・シャドー』『恋するパオジャンフー』など、一連のサントラ仕事はどれも素晴らしいが、本作もなかなかの佳作。「バッハ組曲」でおなじみ、サキソフォネッツの編成で、打ち込みをベースにソロ・サックスを何十も重ね録りして構成されているもの。テクスチャーはノイズ主体で、全体的にはジョン・カーペンター監督の映画音楽みたい。世紀末の廃墟で繰り広げられる物語で、要所要所でフィーチャーされる雅楽の音が印象的。「Tradegy - Movement III」では、ラヴェルの「ボレロ」がライトモチーフとして登場している。監督は、『幻魔大戦』でキース・エマーソンを起用したりんたろう

近藤等則『東京SHADOW』(ポリスター

すいません。資料じっくり見るまでアニメのサントラと思っていたら、これラジオドラマだったのね。電撃文庫西谷史氏の原作小説を元にしたもので、エンディング曲は作者本人が作詞作曲。メンバーのクレジットはないが、基本は『レッド・スモーク』のような近藤単独のダビングによる編成で、「メギド」など一部に登場するディストーション・ギターのラウドな音は、IMAのレックか酒井泰三が弾いているんだと思う。「亡霊の街」のミュート・トランペットとエコーの交錯が見事な出来。ヒップホップ風なリズムトラックの「百鬼夜行」は、『東京ローズ』の「キマッタオレタチ」のメロディーを連想させる、変奏曲的なノリ。笙のようなミュート・トランペットの掠れた音のハーモナイズが、ひたすら渋い。なぜか主題歌を前川清ばりに、近藤氏がムーディーに歌っているところがかなり笑える。

荒木一郎あしたのジョー2』

これはテレビ版のサントラ。自らプロデュースしていた女優の桃井かおり『ちょっとマイウエイ』の音楽を手掛けるなど、日本テレビと縁が深かったころに、初のアニメ音楽として荒木が起用されたというもの。といっても曲のみで、編曲は元ワイルド・ワンズ、というかキャンディーズのバックバンドだったMMPの渡辺茂樹スペクトラム、AB'sの渡辺直樹の実兄)。MMP時代に通じるサンタナ風ファンクで、直前に公開された映画版『あしたのジョー』の、鈴木邦彦が書いた『ロッキー』(ビル・コンティ作曲。メイナード・ファーガソン死去。合掌)路線の続きを思わせる、ラテン・リズムが基調。丹下段平のテーマ「下町の達人」など、ムーギーなトラックもあり。注目すべきは後藤次利の編曲による、おぼたけしが歌う主題歌。「ピッピッ」というデジタル・カウンターリズムで始まるイントロで、映像もテレビゲームの画面で始まっており、意外なYMOとの同時代性を垣間見せる。毎週、冒頭の予告シーンでかかっていた「テンション2」に心が躍る。

細野晴臣監修『南の島の小さな飛行機 バーディー』(ヤマハミュージックコーポレーション)

NHK教育テレビのCGアニメ作品のサウンドトラック盤。矢野顕子の歌うエンディングのヘヴィーなレゲエ曲「フライ・ミー」を細野氏が編曲するというのがトピックだったが、その縁で矢野が所属するヤマハからサントラ盤がリリースされた。『風の谷のナウシカ』で宮崎駿と対面するも仕事は依頼されず、先日の細野フィルムワークスなるイベントでも、唯一「どうしても外して欲しい」という強い希望で『源氏物語』が割愛されるなど、細野氏にとって鬼門だったアニメ音楽。とはいえ、『銀河鉄道の夜』は屈指の名作に仕上がり、これを聞いた犬堂一心監督から映画『メゾン・ド・ヒミコ』の音楽を依頼されたわけだから、聴いてる人はちゃんと聴いているのだ。本作も『メゾン・ド・ヒミコ』同様に、若手世代の作家をコラボレートしたもので、コシミハル、木本靖夫、岡田崇氏を起用。岡田氏は、バカボンドc.p.a.というグループでデイジーワールドから作品集も出している本業はデザイナーで、拙著『電子音楽 in JAPAN』も彼の装丁。オールド・タイミーなアメリカのレコード収集家で、ここでもレイモンド・スコットなどを下敷きにしたラグタイム・ジャズを打ち込みで披露していて、スウィング・スロウのリユニオンみたいな音になっている。

キテレツ大百科 スーパーベスト』(コロムビアミュージックエンタテインメント

これは先日発売されたベストで、90分スペシャルの主題歌だった「キテレツ大百科」(堀江美都子)「コロ助まちをゆく」(山田恭子)が初収録。2曲とも細野晴臣作編曲で、これまでコロちゃんパックのカセットでしか聴けなかった曲の初ディスク化なのだ。前者は2ビートのラグタイム・ジャズ風。後者はホソノイドなビートが炸裂する、FOE最後期のようなサウンド

坂本龍一オネアミスの翼ーイメージスケッチ』『オネアミスの翼王立宇宙軍ーコンプリートコレクション』(ミディ)

バンダイが巨額を投入し、『新世紀エヴァンゲリオン』のガイナックスが制作した劇場アニメのデビュー作。坂本龍一の起用は大々的に報道された。本作は映画『子猫物語』に続く、坂本氏にとって劇場映画3作目で、『子猫物語』と同じく、上野耕路、野見祐二、窪田晴男ら若手作家が曲を持ち寄ったオムニバス形式になっている。このうち、上野、野見のコンビはそのまま、グラミー賞を取った『ラスト・エンペラー』のチームに参加することに。前者は「PROTOTYPE」というタイトルの4曲が並ぶ、最初に作られたトレイラーのようなラフスケッチ集で、後者はそれを元にした正式なサウンドトラック盤。左翼学生だったのに、昔から雑誌『丸』の熱心な愛読者で軍記物大好きだった坂本氏は、依頼を快諾し、わざわざ本編には登場しない国歌(「PROTOTYPE D」)まで作って自分で歌っているというほどの凝り方。「PROTOTYPE 」の4曲は、「A」が「メイン・テーマ」、「B」が「リイクニのテーマ」、「C」が窪田晴男編曲の「無駄」としてリサイクルされている。後者サントラに目を向けると、「国防総省」はフェアライトによる雅楽、「喧噪」はガムランと、舞踏家モリサ・ファンレイのために書いた『エスペラント』のようなワールド・ミュージック的世界を繰り広げており、舞台設定であるパラレルワールドの無国籍性を音楽で表現している。「最終段階」のイントロは、「フィールド・ワーク」のサンプルの流用か? 野見が手掛けた歌曲「アニャモ」がよくできており、おしゃれTVの「アジアの恋」みたいなオペラ風の曲を書くと、本領発揮するタイプみたい。ラスト曲「FADE」はテーマ曲をフュージョン風アレンジにしたもの。

平沢進『デトネーター・オーガン「誕生編」「追走編」「決戦編」』(ポリドール)

元『リメンバー』編集者だったディレクター、竹内修氏(後にスピッツを発掘)が担当だったポリドール時代は、P-model再結成や平沢ソロデビューなど話題満載の充実期であった。これもそんな脂ののりきっていたころの仕事。毎月1枚づつ計3枚のサントラが発売されたが、どれもストラヴィンスキー風の高度なシンフォニーで、これがスコア独学と聞いて信じられないほどの密度の濃さ。「PROPAGANDA of E.D.F.」ほか、上野耕路に迫る複雑なアレンジを聴かせる。主題歌「バンディリア旅行団」はソロ路線の、朗々と歌うフォルクローレ調の曲。最後期の主題歌「魂のふる里」はソロ『時空の水』からの流用で、同アルバム収録の「時空の水」のクラシック・ギター編曲によるインストも収録されている。スタッフでことぶき光、「山頂晴れて」では戸川純とデュエット、藤井ヤスチカ、友田真吾ら、P-model、ソロのサポートの面々もゲスト参加。本作で平沢氏の存在を初めて知った新世代も多いらしく、現在は今敏監督『先年女優』などで、アニメ音楽作家としての認知も高い。今敏監督は元パラシュートのギタリスト今剛氏(『クラッシャージョー』)の実弟なのだが、なぜか兄貴ではなく、平沢氏やムーンライダーズなど、異色の作家ばかりを起用している。実はこれ、今敏氏の高校の同級生が、現在平沢氏の事務所で制作を担当している高橋かしこ氏(元『よいこの歌謡曲』編集)で、その縁からの依頼だったらしい。

ヒカシュー超時空世紀オーガス02』(徳間ジャパン)

SHOGUNのケーシー・ランキンが主題歌を歌って人気を博した、テレビシリーズの正式な続編。『あっちの目こっちの目』で徳間ジャパンに在籍中、そのつながりからヒカシューに依頼された仕事だったが、主題歌もいつもの巻上公一節ゆえ、映像とのマッチングはいかがなものか? マンガ通だった井上誠氏が在籍時に、和田慎二原作『ピグマリオ』のイメージアルバム(巻上もコルネットで参加)を出しているものの、このころは井上氏は脱退後で、坂出雅海、つの犬、野本和浩、トルステン・ラッシュという編成。だが、第二の充実期と言えるころで、内容の密度の濃ゆいこと。「未開の回路」の土俗的なコーラスなんて芸能山城組みたい。全体的にヘヴィーな三田超人のギターが炸裂しており、トレヴァー・ラヴィンが手掛けたハリウッドのサスペンス映画の音楽のようである。曲は皆が持ち寄って構成されており、故・野本氏のクラリネットのダビングによる室内楽「極楽への階段」「満足な誤解」などを聴くとしんみりする。「口まで青い」は巻上ソロに通ずるヴォーカリゼーション。唯一のヒカシュー作曲名義の「疑惑」はおそらくフィルムを観ながら録られたジャムで、怪しげなテクスチャーとノイズによる、『死刑台のエレベーター』風のセッション。

今堀恒雄トライガン(1)(2)』『GUNGRAVE』『GUNGRAVE righthead 』『GUNGRAVE lefthead』(ビクターエンタテインメント

菅野よう子のレコーディングに参加する常連で、彼女のパーマネントなグループ“シートベルツ”にも加入している、元ティポグラフィカの超絶ギタリスト。全作ともウンベルティポのファンキーなジャズ路線をベースに、ザッパ風のコードワークで聴く者を魅了する。メンバーは元ティポグラフィカの同僚だった外山明渡辺貞夫グループ)、平ヶ倉良枝(オリジナル・ラヴ、はにわちゃん)ほか。おそらく映像を食ってしまってるじゃないかと思うほど、見事なキャバレー・ジャズの音にうっとりする。ビートもかなりマッシヴだし、リヴァーブを駆使した音響系のサウンドが繰り広げられており、ウンベルティポのオリジナル2枚と混ぜてかけてもわからないほどの完成度。

筒美京平サザエさん』(東芝EMI

ポピュラー作家のアニメ登用と言えば、この人がルーツだろう。『怪物くん』に続いての主題歌起用だが、『トリビアの泉』でも紹介されたように、エンディングテーマ「サザエさん一家」は1910フルーツガム・カンパニーの引用だし、挿入歌「レッツゴー・サザエさん」(加藤みどり)はイントロなんてロジャニコというかピチカート・ファイヴみたい。高橋和枝が吹き替えていた時代にはよく劇中で歌われていた「カツオくん(星を見上げて)」ほか、挿入曲はフォーク・クルセダーズ北山修が詞を書いていて、『サザエさん』が誕生したころのヒップな世相を伺わせる。現在シャンソン歌手である宇野ゆう子氏が『HEY!HEY!HEY!』に出演して主題歌を歌った際に、問い合わせが多かったことからシングルCDが出ているのだが、担当だった東芝のN氏(YMOの再発担当者だった人)は、その時このアルバムも復刻したかったらしい。だが、ジャケットの図版が使えないという問題があり、再発がお流れになったというから残念。

樋口康雄火の鳥2772 愛のコスモゾーン』(日本コロムビア

ピチカート・ファイヴ小西康陽氏がDJでシングル「I LOVE YOU」をよくプレイしていたことから評判を呼び、傑作アルバム『ABC』が復刻。渋谷系音楽ファンの間でピコこと樋口氏の人気が再燃したのには驚いた。NHKヤング101』のスイングアウト時代のキャリアを精算して、後にアメリカに留学しスコアを学習。帰国後は映画音楽家として再出発しており、本作は24時間テレビブレーメン4』に続く、手塚治虫アニメへの参加となったもの。モーリス・ジャールのような壮大なスコアを基調に、『火の鳥東宝映画版の主題曲を書いているミッシェル・ルグランに通じる流麗なストリングスによる、当時の国産映画音楽としては最高峰に入る完成度を誇る作品。ゲストでヴァイオリンを弾いている千住真理子は、なんと当時17歳! 実は晩年の手塚が敬愛しており、元々リメイク版『鉄腕アトム』(音楽は三枝成章)は樋口氏に依頼される予定だったとか。その時に主題歌用に書かれていた「地球の歌」は、その後トリビュート盤『ミュージックフォーアトム・エイジ』に収録されることとなった。

ジョン・ゾーン『シニカル・ヒステリー・アワー』(CBSソニー

玖保キリコ氏の原作をキティフィルムが劇場アニメ化。彼女自身、ピッキー・ピクニックのメンバーとしてクリス・カトラー(ヘンリー・カウ)と交流があったが、本作も知人でNYダウンタウン一派の司令塔、ジョン・ゾーンが音楽を担当している(そのお礼に、後にジョン『コブラ』のジャケットを玖保キリコが描いている)。参加メンバーは、クリスチャン・マークレイ(ターンテーブル)、ウェイン・ホロヴィッツサンプラー)、アート・リンゼイ、ピーター・シェラー、イクエ・モリ、ロバート・クワイン、マーク・リボーといった豪華な面々。スタイルはネイキッド・シティそのもので、シェリー・パーマー・スタジオでフィルムを上映しながら取られたジャム録音は、古いハワイアンのレコードのカットアップやマンガの効果音のサンプルを使った、ハードコアやスケーター・ミュージックに。ミックスはラウンジ・リザーズの一連作品や『コム・デ・ギャルソン』の音楽の小野誠彦氏。玖保キリコ本人が歌う「わたしのすきなもの」は、水滴などの効果音をサンプルした音響派のカントリーで、コーネリアスファンとかにもウケそう。ちなみに同路線として、デヴィッド・シアーが『トムとジェリー』『テックス・アヴェリー』の音楽を書いたスコット・ブラッドリーに捧げた「Cartoon For Scot Bradley」(『ショック集団』収録。リスペクト! サミュエル・フラー)があり、これも必聴なり。

『アレクサンダー“ザ・コンピレーション”』(メディア・ファクトリー)

同社はリクルートの出版部門だが、系列にミュージック・マインというケン・イシイ、ヨコタススムらをマネジメントするテクノのレーベルを持っており、本作は角川春樹制作のりんたろう監督のアニメ『アレクサンダー戦記』のイメージアルバムとして制作されたもの。ケン・イシイ、マスター・マインドといった所属アーティストのほか、リザード、屋敷ゴータ、細野晴臣佐久間正英東京スカパラダイスオーケストラ高浪敬太郎といった異色のメンバーが曲を書き下ろしている。リザードはモモヨ主導によるイレギュラーな打ち込み路線。細野「Porus」はここでしか聞けない、アフリカンな暴力的なビートとシンフォニーが交錯。高浪氏のインストは珍しいもので、リズム・ボックスを交えたアンビエントな内省的トラック。佐久間「Influx」は、自身がギターを弾いているハードコアな曲になっている。