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過去にはてなダイヤリーで連載してた連載コラムのアーカイヴです。

ビジネス『ビジネス』、『クライシア』(ウルトラヴァイブ/11月18日発売)

ビジネス

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CRISIA

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 ロック名盤のCD復刻ビジネスもすっかり定着。先日のビートルズのリマスターBOXではないが、ボーナス曲の増量や紙ジャケ化、24ビット・リマスタリングなど、すでに改訂版復刻は何巡目かにおよぶ成熟した市場がある。日本のロックもしかりだが、マーケット・サイズが大きく、マイナー作品にもそれなりにスポットが当たる英語圏とは違い、極端に名盤信仰のみが強い日本の場合、3度、4度と形を変えて何度も復刻されるメジャーな名盤がある一方で、一度もCD化されたことがないアルバムというのも実に多い。こと80年代は、いまだ知られざる名盤の宝庫。今年2月に小生が監修のお手伝いをさせていただいたTPO『TPO1』(ブリッジ)にしても、知名度的には多少のハンディがあったのにも関わらず、amazonインディーチャートの上位を飾ったことでわかるように、リスナーがなによりも「初CD化」を求めているのは実証済みなのに。しかしながら、大手レコード会社の復刻状況を見てみても、新任の担当ディレクターが自社のカタログ知識に疎く、いまだに「当時のアナログ盤の売り上げ枚数」でCD化優先順位を決めたりするような、現実の音楽シーンの成熟、リバイバル動向などほとんど顧みない、「確実に売れるおなじみの名盤」のみに注力される現状が続いている。そんなわけで、大手メジャーが「こんなの売れないからウチでは出さない」という隠れた名盤の販売権を期間限定で取得し、ファンのリクエストに応えて、数々の復刻盤を手掛けているインディーのサブライセンス・メーカーの方々には、本当に頭がさがる。役立たずのマニアックなロック知識でも、復刻のお役に立てればと思って、相談をいただいたときはできるだけお手伝いをするように心がけているワタシだ。今回はそんな復刻監修でお手伝いしている作品の中から、11月18日にやっと30年ぶりに初CD化が叶った、80年代のニュー・ウェーヴ・バンド、ビジネスの2作品を紹介する。
 OL風コスチュームで歌うという、当時としては奇抜だった美空どれみ嬢をヴォーカルとして擁する4人組ビジネスは、「日本語のロック、スカの元祖的バンド」として音楽通には知られている。80年に新興会社ジャパンレコード(現・徳間ジャパン・コミュニケーションズ)から、同社の第一号アーティストとしてデビュー。世代的には“ニュー・ウェーヴ第二世代”と言われた、チャクライミテーションフィルムスらと並ぶ存在で、日比谷野音の定期イベント「TOKYO DREAMS」での対バンで、小川美潮(チャクラ)、チー坊(イミテーション)ら歌姫組と人気を分け合っていた。“ニュー・ウェーヴ第二世代”というのは、プラスチックスヒカシューP-MODELら「テクノ御三家」、東京ロッカーズのブレイクを受けて、ニュー・ウェーブブームにあやかりたいレコード会社主導でデビューした一群のことで、当時の雑誌ではよく「業界ニュー・ウェーヴ」などと揶揄されることも多かった。「ヘタウマが味」の第一世代と違い、スタジオ・ミュージシャンの実力者や別ジャンルからの鞍替え組もいた彼ら一群は、どのバンドも演奏力が高く、完成度が高いアルバムが多いのにも関わらず、先の“業界〜”のような差別的な扱いをされることが多いのが悲しい……。ビジネスも、彼らが影響を受けたポリス、ジョー・ジャクソンスペシャルズやマッドネスに引けを取らない、パワフルなリズムセクションと切れの良いギター・カッティングで、当時は洋楽ファンをも唸らせていた。洋楽とほとんど遜色を感じないダイナミック・レンジの高いアルバムの仕様は、元々「ラフ・トレード・ジャパン」の設立話から誕生した、ジャパンレコード所属のグループらしい。そんな本格サウンドと裏腹に、当時は珍しかったOLのオフィスラブの光景など詞に織り交ぜてコミカルに歌う、美空どれみのヴォーカルとの異色のマッチングが絶妙で、日本語レゲエのシングル化の嚆矢と言われる「痛い my heart」などは、サディスティック・ミカ・バンドに通じるユーモア・センス。実際、ミカ・バンドのスタッフだった今野雄二がデビュー前から彼らを絶賛していたし、先の「痛い my haert」も、甲斐バンド甲斐よしひろが『サウンド・ストリート』で絶賛したことからシングルカットが決まったというほど、玄人筋の業界ファンの多いバンドであった。
 まだ20代前半だった同期デビュー組の小川美潮、チー坊に比べると、20代中盤のメンバーで構成されていた遅咲きデビューのビジネスだが、それもそのはずで、ヴォーカルの美空どれみは、東京キッドブラザーズのミュージカル女優出身で、70年代後半にはダディ竹千代と東京おどぼけCATSの女性ヴォーカルとして活躍していた実績を持つ。実は今回、復刻に際して元メンバーの美空どれみ氏、西依一実氏のインタビューを取ることに成功。ライナーノーツ用にお話を伺ったビジネス結成前史は抱腹絶倒で、スペースの関係上、それらがライナーに反映できなかったのが本当に惜しい。例えば、そんな中にはビックリのエピソードもあって、東京おとぼけCATS時代のファンに、名古屋公演には必ず来ていたという無名時代のマンガ家・鳥山明がおり、あの名作『Dr.スランプ』の主人公、則巻博士とアラレちゃんは、ダディ竹千代と美空どれみ嬢がモデルになったものとの話(!)。また、デビュー曲「うわきわきわき」を、ムーンライダーズ鈴木慶一が共同編曲していることでも有名だが、彼らを引き合わせたのは同社のエグゼクティヴ・プロデューサーだった、元ベルウッド・レコードのディレクター三浦光紀氏。あの『マニア・マニエラ』発売延期事件のきっかけとして知られる伝説のA&Rだが、実は小生、一昨年ある理由があってご本人にインタビューをさせていただいたことがあったりする(この方のインタビュー嫌いは有名で、故・黒沢進氏の『日本フォーク紀』に載っているベルウッド・インタビューぐらいしか存在しない)。その際に伺ったジャパンレコード設立時の有名な騒動の話も、目からウロコのエピソードが満載であった。当然、同社第一号アーティストだったビジネスの今回のインタビューでも、お二人から同社設立前夜の話をたくさん伺ったのだが、なにしろビジネスといえば、初代ディレクターは町田町蔵INUを輩出した現・翻訳家の玉置悟氏、セカンドのプロデューサーは日本にラフ・トレード・レーベルを紹介した有名な芹沢のえ氏だからね。そんな強力なスタッフを抱えた本格志向バンドでありながら、NHK『レッツゴー・ヤング』などのアイドル番組に頻繁に登場しては、田原俊彦らと競演したりしてるというのが、あのカオスな80年代を飾ったニュー・ウェーヴバンドの素晴らしさ。そんな当時のテレビ出演時のエピソードをインタビューで聞きながら、「もうあんなシアワセな時代は二度とこないのだろうか……」と、ついつい遠い目になってしまった。
 グループはセカンド・アルバム『クライシア』が最後のスタジオ作品となってしまうが、後期はリズム・セクションが抜けて、リズム・ボックスを加えたヤング・マーブル・ジャイアンツ風編成でやっていたこともあるという、ラフ・トレードを思わせるエピソードも。デビューアルバム『ビジネス』が、のっけから完成されていたことが、同バンドの最大の不幸かも。改めてCDマスタリングされた力強いXTCばりのアンサンブルを耳にして、つくづく早すぎたバンドだと思う。その後、ジッタリン・ジンやJUDY AND MARYWhiteberryといったグループが次々登場し、「日本語のスカ」は今や定番の人気ジャンルになった。そのルーツ的サウンドを実践していたビジネスの今回のCD復刻が、彼らが若い世代のリスナーに発見される、再評価のきっかけになればよいなと本当に思う。
 現在、皆様をお待たせ中の同ウルトラヴァイブのフィルムス復刻は、目処が経てば情報第二弾をお伝えできると思うが(本当にすいませぬ)、ビジネスの美空どれみ嬢にもちょっと縁があって、グループ活動中に出したソロ「ハリウッド洗顔ソング」、解散後にスウィッチ・レーベルから出た、美空どれみ&巻上公一名義の12インチシングル『恋愛二重奏』いずれも、フィルムスの岩崎工が編曲を担当。どちらもなかなかの完成度で、こちらもCD復刻が望まれる。ともあれ、今回の初CD化が売れてこその話であるからして、ぜひとも皆様、視聴機などでそのサウンドに触れて、気に入ったら迷わずお買い求めいただきたい。