POP2*5

過去にはてなダイヤリーで連載してた連載コラムのアーカイヴです。

TAO『FAR EAST』(ブリッジ)紙ジャケ復刻、4月22日発売。どうぞ、よろしく。

FAR EAST [BRIDGE-155]

FAR EAST [BRIDGE-155]

 今回も宣伝で失礼しまする。拙者の監修によるブリッジの最新仕事、TAO『FAR EAST』紙ジャケット復刻盤が4月22日に発売される。83年にデビューしたこのグループは、アニメ『銀河漂流バイファム』の主題歌「HELLO,VIFAM」のスマッシュヒットで有名に。「アニソン界初の英詞主題歌」ということで話題を呼び、同曲は30万枚をセールスするヒット作となった。2曲の挿入歌が収録されたサウンドトラック盤は、アニメ関連盤としては珍しい、アルバムチャートでベストテン入りを記録。富野由悠季の原案によるアニメ本編のほうも成功作として知られ、YouTubeなどでも未だ新しいファンを増やしているという。制作会社の日本サンライズにとっても、再放送で巻き起こったガンダムリバイバル時期に作られた新作。「アニソン界初の英詞」というのも、サンライズ側の理解あって実現した話と言うから、スタッフ一丸となった意欲作だったのだろう。『ガンダム』をネットしてなかった地方在住のワタシも、毎日放送にキー局を移して夕方に放映されたこの作品は、リアルタイムで観ていて面白かった記憶がある。
 今回の復刻に関わったのは偶然の話。加藤和彦のヨーロッパ3部作など、80年代初頭のワーナー・パイオニアには他社にはない個性的なカタログが充実していた。清水信之『エニシング・ゴーズ』、三枝成章『ラジエーション・ミサ』など、拙著『電子音楽 in the (lost)world』でも数多くの作品を取り上げさせてもらっている。いずれも70年代初頭に、フラワー・トラヴェリン・バンド、スピード・グルー&シンキなどをデビューさせたプロデューサー、折田育造チームによるもので、洋楽部のディレクターが邦楽アーティストの制作を手掛けるという、ワーナー独特の体制から生まれた作品。「アニソン界初の英詞曲」をたまたま同社が仕掛けることになったのも、歌謡曲よりロックにくわしい洋楽出身ディレクターが多い、いわばワーナーの伝統なのだ。TAOのナンバーも、『銀河漂流バイファム』のエンディング曲「NEVER GIVE UP」1曲を除いてすべて英詞曲。これは日本コロムビアの洋楽部、サトリルレーベルからデビューしたゴダイゴと同様のケースで、当時のセオリーで考えれば、邦楽アーティストで英詞での活動が黙認されるのはかなり珍しかった。
 作曲家兼ヴォーカルのデヴィッド・マンは、知る人ぞ知る元ナベプロ、ジャニーズのアイドル出身。そういったポップな出自の才能が、TAOのようなプログレッシヴな編成を率いてデビューするという突然変異ぶりもまた、いかにもワーナーらしい。AMORの安部王子のいたボーイズクラブもワーナーの同期組。ところが、現在ワーナーミュージック・ジャパンが原盤管理するそれらの作品は、まとまって再発される機会に恵まれておらず、以前から「何か復刻したい面白いアルバムはない?」と相談を受けるたびに、同社のカタログの復刻話を持ちかけていたのだ。TAOのアルバムはそんな中で挙げていた候補のひとつで、『銀河漂流バイファム』CDシングルがディレクター氏のお気に入りとなり、あれよあれよというまに復刻が実現したというもの。実は復刻オーダーサイト「たのみこむ」で、なぜか洋楽カテゴリで1位になっていながら、ずっと復刻が実現していたなかった話などは後から知ることに。後身バンドにあたるEUROXが参加した『機甲界ガリアン』のサントラをディスクユニオンが今春に復刻し、オリコンのアルバムチャート50位以内に入ったというのもたまたまの偶然で、今回のTAO『FAR EAST』の紙ジャケ復刻も、考えうるベストな環境下で発売日を迎えることになった。ありがたや。
 マーキームーンから出ている『ヒストリー・オブ・ジャップス・プログレッシブ・ロック』にも、実はTAOの項目がある。キング・クリムゾンのデヴィッド・クロスやUKのエディ・ジョプソンのようなヴァイオリン奏者をメンバーに擁する、プログレッシヴ・ロック編成というのは当時の邦楽ロックでも珍しかった。いや、その後ブレイクに恵まれなかったのは、ニュー・ウェーヴ華やかなりし80年代の音楽流行との乖離によるのだろう。ワーナーのカタログにポツンと残された唯一のプログレ・グループだったTAOは、セールス担当者もプロモーションするのに相当苦労したのではあるまいか。とはいえ、デヴィッドの作曲センスはポップの王道を行っており、元アイドルというプロフィールから、元ベイ・シティ・ローラーズのデヴィッド・ペイトンが結成したパイロットを連想させるものがある。唯一のアルバム『FAR EAST』も、クリムゾンやイエスなど、プログレ系グループがニュー・ウェーヴに接近していた当時の時代性を伺わせるところがあり、ラウドなドラムサウンドは、ヒュー・パジャムが制作したジェネシス『アバカブ』のよう。「HELLO,VIFAM」のドラマチックな曲調は、スティーヴ・ハウジョン・ウェットンが結成したエイジアに通じるものがあるし。
 リーダーでヴォーカル兼ギターのデヴィッド・マンが全曲を作曲。アルバム発表後に残り3人と袂を分かち、TAOの看板はデヴィッドが継承して、レーベルを離れることとなる。ワーナーに残ったメンバーはEUROXに改名してデビューするが、こちらは井上大輔ブルーコメッツ井上忠夫)が作曲を担当しているように、インストゥルメンタル・グループとしての性格が強い。言うなればデヴィッドのポップな作曲センスと、EUROXチームの技巧的なアレンジが解け合った結晶が、TAO時代にあったと言っていいだろう。ヴォーカリストとしては、かなりピッチが不安定なところもあるのはご愛敬だが、デヴィッドの少年のような声は、モラトリアム期の少年たちを主役に据えた『銀河漂流バイファム』の世界観にも見事にマッチしている。
 今回の復刻は唯一のアルバム『FAR EAST』のオリジナル盤を忠実に再現した紙ジャケットに、アルバム未収録のシングル3曲を加えたワーナー全曲集。アルバムのCD化はこれが初めて。「HELLO,VIFAM」のシングル・ヴァージョンと『銀河漂流バイファム』副主題歌「NEVER GIVE UP」は一度CDシングル化されたことがあるものの、現在ではamazonマーケットプレイスなどで1万円近くの高額で取引されているので、今回のボーナストラック収録はファンにはありがたい。活動遍歴をまとめた長文のライナーノーツは、小生がまとめた。本来ならアーティスト本人のインタビューを実現させたかったのだが、現在デヴィッドはアメリカに在住。コンタクトを取ったものの反応がもらえず、当時の資料や関係者の証言などを元にまとめたものが収録されている。その後、本人から連絡をいただき、今回の復刻を喜んでいただけたのはありがたい。YouTubeのオフィシャルページマイスペースで、現在デヴィッドのソロ・ユニットとして活動するTAOの勇姿を観ることができるが、最近では「HELLO,VIFAM」のリメイクなどがステージで披露されており、ちょうど日本での活動を視野に入れた準備を進めていたところだったらしい。この復刻CDの売れ行きがよければ、来日が実現してライヴも観れちゃうかも。
 ちなみに、『FAR EAST』の執筆作業の中で過程で、TAOの後身グループにあたるEUROXが手掛けた、日本サンライズのアニメ『機甲界ガリアン』の主題歌「ガリアン・ワールド」を初めて聴いたのだが、これもすごくいい曲なのな。EUROXは最近復活して新作もリリースしているが、再結成が吉と出ないことも多い中で、いずれの新緑も充実した内容になっているのが素晴らしい。こちらもオリジナル期の作品はワーナーミュージック・ジャパンが原盤元で、「ガリアン・ワールド」を除くシングルは未CD化、唯一のアルバムも現在では1万円近くで取引されているというから、にわかファンのワタシには手が出せず……(泣)。TAO『FAR EAST』の復刻盤がすごく売れたら、こっちもリマスター復刻をメーカーに掛け合ってみますんで、どうかご支援いただきたい。
 リリースを間近に控えて、先日ブリッジのサイト内に特設ページを開設。試聴サンプルも置かれているので、ぜひ聴いてみてね。タワーレコードセブン&アイによる買収、HMVのツタヤ傘下入りと、音楽業界不況の影響もあってか、復刻作品のオーダー状況はけっして芳しくないため、今回はネット販売中心になりそう。予約数だけが頼みの綱なのだ。もし店頭で見つからない場合は、ブリッジのホームページ、もしくはamazonHMVのネット通販などでお求めくだされ。