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過去にはてなダイヤリーで連載してた連載コラムのアーカイヴです。

ハルメンズ『ハルメンズの近代体操』『ハルメンズの20世紀』ボーナストラック入りで復刻(ビクター)

ハルメンズの近代体操+8

ハルメンズの近代体操+8

 宣伝ばかりで申し訳ない。もうひとつ、10月20日に復刻発売される、ハルメンズハルメンズの近代体操』のライナーノーツも担当させていただいた。今年、ハルメンズ・デビュー30周年を記念して、オリジナル・アルバム2作、幻のサード・アルバム再現やトリビュートなど、5タイトル同時発売されることになり、その中でもっとも小生が思い入れ強い『近代体操』の解説を書かせていただけることになったのだ。涙がちょちょ切れる思いである。
 ヴォーカルのサエキけんぞう氏とは24年前、パール兄弟時代に『Techii』編集者としてお会いして以来の関係で、拙者企画のイベント「史上最大のテクノポップDJパーティー」では、ハルメンズ・ナンバーを中心としたライヴをお願いしたことも。今回のリマスターの音を、誰よりも先に聴かせていただく栄誉に預かれたのは感無量である。『ハルメンズの近代体操』『ハルメンズの20世紀』は、91年に初CD化された後、一度スカイ・ステーションから紙ジャケ復刻されるも、今は廃盤状態。今回の復刻は最新リマスターが施され、なんとボーナス・トラックに当時のデモ、スタジオ・ライヴ音源が収録されている。ハルメンズの青写真としては、『少年ホームランズ』のデモ集がすでにリリースされているが、今回のデモはビクターからのスカウト後、『近代体操』がリリースされるまでの約1年間の準備期間に録られたもので、ほとんどが初公開というもの。以前、『電子音楽 in the (lost)world』で、ヒカシューのデビュー・アルバム『ヒカシュー』とデモ集『ヒカシュー1978』との関係について言及したことがあるが、当時のメジャーレコード会社はまだ、ほとんどが歌謡曲中心の時代。後のローファイなどのムーブメントが起こる気配もなく、多くのニュー・ウェーヴ、パンク・バンドの音が、一度メジャー・スタジオのトリートメントを経て世に出ることが多かった。前出のヒカシューのデモは近田春夫プロデュースの手にかかる前のオリジナル音源で、創作時のパッションを感じるこちらのほうが、ドキュメントとしても歴史的意義性は遙かに高かった。今回のハルメンズのデモも、まるでジョイ・ディヴィジョンを聴いてるような張り詰めたテンションを感じるもので、これまで「チープな味わい」と評価されることの多かったハルメンズに、新しい視点を加えるものになった。また、最新リマスターが施されたスタジオ・ヴァージョンのほうも、こうした新しいハルメンズ観に乗っ取っており、「昆虫群」の羽音などやオルガンなどのディテール再現より、リズム・セクションが前面に浮き立つようなグルーヴ主体に変貌。過去のCD盤を持ってる人にも、新たな発見が多いリマスターになっている。
 今回の一連のハルメンズ復刻は、30周年の節目を迎えてのものだが、実は昨年、知人のばるぼら氏が執筆した『NYLON100% 80年代渋谷発ポップ・カルチャーの源流』発売時の、代官山ユニットでのサエキ氏のライヴが伏線になっている。このときの出し物は、博多出身の若手バンドBoogie theマッハモータースをバックに、サエキ・ヴォーカルで少年ホームランズ曲をカヴァーするというものだったが、この新鋭の解釈による旧作のリメイクに触発され、同メンバーによる『21世紀さん sings ハルメンズ』という新録作品が同時発売。これ、後に戸川純が『玉姫様』でカヴァーした、「隣りの印度人」「森の人」などのハルメンズ後期のスタジオ未録音だった作品をリメイクした、幻のサード・アルバムの再現編。「電車でGO」「昆虫群」「レーダー・マン」の再演も含め、野宮真貴桃井はるこ、浜崎容子(アーバンギャルド)などのゲスト・コーラスを交えた、見事な21世紀ヴァージョンに仕上がっている。これに加えて、すでにニコニコ動画などで発表済みである、ヴォーカロイド初音ミクが歌うトリビュート『初音ミク sings ハルメンズ』、ハルメンズが実質制作に関わった野宮真貴ピンクの心』のジャケット・リニューアル版もお目見え。先日、リリース記念番組ustream放送されたばかりだが、野宮真貴桃井はるこ渋谷系アキバ系の歌姫2人が並ぶヴィジュアルも画期的であった。新録作品のジャケットのほうも、新世代のゴスロリイラストレーター、ピアプロで公募したCGを使うなど、80年代ニュー・ウェーヴと現代のネット文化をつなぐようなものになっている。