POP2*5

過去にはてなダイヤリーで連載してた連載コラムのアーカイヴです。

第25回<東京の夏>音楽祭2009「日本の声・日本の音」電子音楽コンサート(イベント告知)


<日本の電子音楽
日本の電子音楽


■ 日時 : 7月11日(土)
Aプロ14:30
Bプロ16:45
Cプロ19:00
13:30よりプログラムごとの入場整理券を配布します。
■ 会場 : 草月ホール (→地図)
■ チケット : 全席自由
プログラムA \1,500
プログラムB \1,500
プログラムC \3,000
一日通し券(各回入替有り) \5,000


1950〜60年代、電子音楽黎明期から大阪万博までの傑作を一挙上演。選曲は坂本龍一
夜の部は、佐藤聰明の豊饒な音霊(おとだま)の世界


1950〜60年代、電子音という新しい素材を手に、驚くべき壮大な音響世界を作り出していった日本の作曲家たち 柴田南雄黛敏郎湯浅譲二武満徹一柳慧…。電子音楽黎明期の、いまなお斬新な作品の数々を、ライヴ空間で体感する。
1950年代の日本の音楽界に、「電子音」という全く新しい技術がもたらされた。当時、欧米も日本も大きな時差なく同じスタートラインに立つ技術だっただけに、欧米に追随することなく日本独自の発展を遂げることができたのだった。日本を代表する作曲家たちがこぞって試みた未知の音響の創造は、現在のエレクトロニック・ミュージック・シーンから、クラブ・カルチャー、そしてJ−popにまで、広く影響を与えている。そのあくなき探究心と底知れぬ実験精神に、現代の聴衆も圧倒されるに違いない。


■プログラムA  テープ作品集:「電子音楽の夜明け」
◎選曲:坂本龍一
1950〜60年代、電子音という新しい素材を手に、未知の音響世界の創造に挑んだ日本の作曲家たち… 電子音楽黎明期の傑作の数々を、坂本龍一が選曲
□ミュージック・コンクレートのための作品「X.Y.Z」 (1953) 黛 敏郎
素数の比系列による正弦波の音楽 (1955) 黛 敏郎
□七のヴァリエーション (1956) より [抜粋]  諸井誠/黛敏郎
□テープのための「水の曲」 (1960) 武満 徹
□パラレル・ミュージック (1962) 一柳 慧
□フォノジェーヌ (1962) 高橋悠治
□『時間』 (真鍋博アニメーション) (1963) ※映像上演(愛媛県美術館所蔵) 高橋悠治
□「怪談」より (1964/66)より [抜粋]  武満 徹


■プログラムB  テープ作品集:「大阪万博へ」 
◎選曲:坂本龍一
日本の電子音楽が、創作数の上でもピークを迎えた1970年。大阪万博では、開会式をはじめ、お祭り広場、各パビリオンで、電子音響の壮大な実験が繰り広げられた。Bプログラムでは、電子音響の隆盛期、’70年万博までの代表作を一挙上演
□電子音のためのインプロヴィゼーション (1968) 柴田南雄
□トランジット (1969) 三善 晃
□東京1969 (1969) 一柳 慧
□ホワイトノイズによる「イコン」 (1967) 湯浅譲二
□テープのための「アッセンブリッジス」 (1968) 松平頼暁
□ヴォイセス・カミング (1969) より [抜粋] 湯浅譲二
□スペース・プロジェクションのための音楽(1970) 湯浅譲二
□特別出品 個展(1978) 坂本龍一


■プログラムC 佐藤聰明 作品集
〜テープ、デジタル・ディレイと2台ピアノのための〜
 《エメラルド・タブレット》 1978 (テープ作品)
 《リタニア》 1973、 《太陽讃歌》 1973 (2台ピアノ、デジタル・ディレイ)
 《宇宙(そら)は光に満ちている》 1979 (ソプラノ、ピアノ、パーカッション)
小坂圭太(ピアノ)、稲垣 聡(ピアノ)、佐藤聰明(デジタル・ディレイ)
野々下由香里(ソプラノ)、山口恭範(パーカッション)


<企画協力>小沼純一(音楽文化論/早稲田大学文学学術院教授)
<音響ディレクション有馬純寿 <機材協力>オアシス
<協力>堀内宏公(日本伝統文化振興財団


全席自由
プログラムA \1,500
プログラムB \1,500
プログラムC \3,000
一日通し券(各回入替有り) \5,000


アリオンチケットセンター TEL: 03-5301-0950
営業時間: 土・日・祝日を除く10:00a.m.〜6:00p.m.
チケットぴあ TEL: 0570-02-9999 (一部携帯電話と全社PHSのご利用不可)
Pコード 321-006 (通し券 Pコード 782-292)
http://t.pia.jp/
e+(イープラス) http://eplus.jp/
ローソンチケット TEL: 0570-000-407
(全国ローソン店頭ロッピーで直接購入できます) Lコード 34971
http://l-tike.com/
 昨日あれだけ文句言ってブログ終了したのに、舌の根も乾かぬうちに再開しやがって、「お前は『ドラえもん』最終回かよ」とか言われそう(←わかる人だけ笑ってやってください)。約束していたイベント告知を一本宣伝するのを忘れてたのだ。先日紹介した、小生もお手伝いしている『鉄腕アトム』の音響デザイナー、大野松雄氏の初のコンサートを企画した「アリオン音楽財団」が、それに続くイベントとして、「日本の電子音楽」と題した三部構成の電子音楽コンサートを7月11日(土曜日)に開催する。「日本の電子音楽って何?」とご興味を持たれた方は、拙著『電子音楽 in JAPAN』か、川崎弘二氏の労作『日本の電子音楽』をぜひお読みいただきたいが、その始まりはシンセサイザーなどが登場する以前の終戦直後に遡る。クラシック音楽が近代から現代へと進化していく過程で、いわゆる器楽演奏を超えた新しい表現として、オシレーターを使った電気仕掛けの音楽として50年代に西ドイツで誕生したのが、「電子音楽」というジャンルの始まり。今日のような鍵盤楽器で書かれた音楽ではなく、オタマジャクシという記譜法すらも超越して、音をあるがままに受け入れるという、禅の思想に通じるこれらの新しい音楽の誕生は、従来の「クラシック音楽の歴史」への挑戦だった。その初期作品を聴くと、バッハやモーツァルトの音楽のような聴いて楽しいイメージは微塵もない。「ピーピー、ガーガー」という無機的な電子音で綴られたそれらの楽曲は、従来の器楽コンサートではおよそ体験することはないような、深層心理に訴えかけるような戦慄のモンタージュ。まだ“ノイズ・ミュージック”などの概念が生まれる前の時代であるから、NHKラジオの「現代の音楽」を通してそれらの“新しい音楽”を体験した50年代の日本の音楽ファンは、「これが音楽!?」と皆が腰を抜かし、放送事故と勘違いしたクレームの電話がNHKにひっきりなしにかかってきたというから笑える。
 「電子音楽」は、ナチスドイツが開発したテープレコーダーという機械と、プリミティブなオシレーターのみを使って作られる音楽。テープ上で作られる作品ゆえ、当時はそのスタジオ機材を提供したNHKなどの放送局を通じて、放送プログラムとして紹介されるのが大半であった。しかし急進的な芸術大学の学生らが自主的に催し物を主催して、実験映画やアニメーションなどの上映のように、「テープ・コンサート」という形式で各地でプレイバックされる機会も多かった。壇上に演奏者がまったくいない中で、大音量で流されるノイズやフィードバックを楽しむという、なんともシュールな光景。しかしそんな大音量の音の洪水に身を委ねてみれば、小さなFMラジオでは気付かなかった、音の文様が美しいモワレのような情景を描き出す。今回のイベントは、そんな往事の「電子音楽のテープ・コンサート」の醍醐味を再現した、画期的コンサートである。有名なNHK電子音楽スタジオの作品のみならず、民間放送で作られた日本のミュージック・コンクレート第1号「ミュージック・コンクレートのための作品「X.Y.Z」」(黛敏郎)に始まる、日本の電子音楽史を振り返るのには欠かせない主要作品を一堂に会したプログラム。計三部で構成され、過去の代表作で構成したプログラムA「電子音楽の夜明け」、プログラムB「大阪万博へ」を、坂本龍一氏が選曲。ライヴ・エレクトロニクス形式によるコンサートを組み込んだプログラムCは、作曲家クローズアップ企画として本人、佐藤聰明氏も演奏者の一人として登場。さらに「音楽文化論」でおなじみ、早稲田大学文学学術院教授の小沼純一氏が企画協力で名を連ねている。
 50年代当時のゲバゲバな時代の世相を、さまざまな環境音のコラージュで活写した「ミュージック・コンクレートのための作品「X.Y.Z」」 (1953)は、耳障りなノイズの洪水の中に、新聞の社会時評マンガのようなコミカルさを交えた傑作。武満徹「テープのための「水の曲」」 (1960)は、全編が水飛沫の音だけで構成された、当時のアトリエ用に作られた“環境音楽”のはしりのような曲で、コーネリアス「POINT」あたりのルーツ的なサウンドを発見して、思わずニヤリとする人も多いだろう。オノ・ヨーコの元ご主人だった一柳慧の「東京1969」 (1969)は、日立製作所にあったアナログ・コンピュータによる合成人声を素材に使った、言うなれば「初音ミク」のルーツ。「大阪万博」にスポットを当てたプログラムBの中では、湯浅譲二「ヴォイセス・カミング 」(1969) が聴きものだろう。「インフォメーション」というテーマの下、電話交換手の女性の声や、政治演説などの音素材を再構成した、そのブラックな描写(砂原良徳氏、永田一直氏らへの影響大?)。評論家のインタビュー・テープの「接続詞」のみを抜粋してつなげ、会話の空虚さを焙り出すといった“音響ギャグ”とも言える一編で、こういうパンクな試みを、政府がカネを出している国際イベントで堂々とやってるんだから、昔の若者芸術家は天晴れである。
 そして今回の目玉の一つは、プレゼンターである坂本龍一氏の未リリース音源から、初のソロ『千のナイフ』をリリースする前に、荻窪にあったレコード店新星堂」の地下で行ったコンサート用に作られた電子音楽の習作「個展」(1978)を30年ぶりに公開。おそらくコルグらしい当時の国産シンセを使って制作したバックトラックに、4人編成のメンバーが加わったセッション作品だそうで、なにしろ細野さんがこれを聴いて、教授をYMOにスカウトしたという記念すべき1曲。近年、エクスペリメンタルな志向性に回帰しつつある教授の足跡を振り返る意味でも、今回は貴重なコンサートとなるだろう。
 拙著『電子音楽 in the (lost)world』でアルバムを紹介しているタイトルもあるが、現在ではCDが入手困難でなかなか聴く機会の少ない作品も。作品発表時の雰囲気を想像しながら、これらの曲を大音量で楽しむというのも、新しい発見がありそうだ。ぜひ今回も、前売り券を購入して当日会場に足を運んでいただきたい。



 冒頭の『ドラえもん』ネタに引っかけて、ちょっと思い付いたギャグを描いてみた。イベント内容とはまったく関係ないので、どうかお許しを。


 ドラえもんとドラミちゃん(ウソ)。