POP2*5

過去にはてなダイヤリーで連載してた連載コラムのアーカイヴです。

「音で聴く『電子音楽 in JAPAN』!」のディープな解説。果たしてどうなるか!?

 上記の通り、15年ぶりぐらいにイベントをやることになった。今回は初めて私が語り手となり、約5時間(予定)近く、ただただテーマに区切ってレコードや映像を流していくだけの耐久トークライヴである。場所は、今年の8月にオープンしたばかりの江東区の新名所、パレットタウン内にある「TOKYO CULTURE CULTURE」。元ロフト・プラス・ワンの名物店長だった横山シンスケ氏がニフティに移籍してオープンさせた、飲み食いしながら音楽、映像三昧が楽しめるトークライヴハウスだ。先日、さっそく場所を下見に行ってきたが、さすがニフティがバックに付いているとあって、映像、音響機材は最先鋭の設備を誇る。クラフトワークのライヴを想起させる、大型プロジェクターがズラリと並ぶ景観。おお、こんな素晴らしいスペースでイベントができるなんて! なにしろ私がイベントづいていた90年前後というのは、日本にクラブらしいクラブは数えるほどしかなかった時代。VJなんて言葉もまだ定着してなくて、プロジェクターも新宿アコムから個人カードでボロいやつを借りてやっていたほどなのに……(コンソールをいじっていた人は八谷和彦氏など、今から考えると錚々たるメンツだったけど)。企画が立ち上がってすぐに、今回はナウな試みとして「PC DJ」をやろうと息巻いていた小生だったが、さすがプロジェクターも最新機種とあって、つなげる端子もデジタルtoデジタル。さあ、どうしたものか……(笑)。
 ええい、前講釈はもうよい。さっそく、現在決まっている当日の出し物をざっくりと紹介する。


【マジメな歴史講義の第一部】

1、音で聴く『電子音楽 in JAPAN』。駆け足で辿る<電子音50年史>

 55年に歴史をスタートさせたNHK電子音楽スタジオを有する日本は、世界に名だたる電子音楽先進国だった。64年の「東京オリンピック」中継では、開幕で流れた黛敏郎の「オリンピック・カンパノロジー」で全世界を震撼させ、70年の大阪万博会場では「アポロ時代のサウンド」としてアヴァンギャルド電子音楽が会場に鳴り響いた。東海道新幹線の開通時のジングルも、当初は黛敏郎が書き下ろした電子サウンドだったりと、日本の音楽環境は世界の先端を行っていたのだ。そんな華麗な歴史があったからこそ、後のトランジスタソニーがあり、YMOが世界に向けてデビューできたのである。日本における「電子音楽」の歩みを、デヴァイスの進化史を軸に構成したノンフィクション『電子音楽 in JAPAN』のヒストリーを、残されているレコードや音で辿っていくのが、このオープニング企画。小難しくはありませぬ。普段なかなか聴く機会がない、『プロジェクトX』並みにフロンティア精神あふれていた時代のサウンドを、おいしいところだけつまんで紹介する。

2、音で聴く『電子音楽 in the (lost)world』。ジャンル別に聴く<電子音楽傑作選>

 ノンフィクション『電子音楽 in JAPAN』の副読本として企画され、ただただレコードのみをカラーで1600枚紹介するという真にテクノな企画本、『電子音楽 in the (lost)world』。ディスクガイドと言えば、CD化されているものを中心に取り上げる親切設計が当たり前の時代に、取り上げているレコードのほとんどが入手困難。私から見ても魑魅魍魎のたぐいばかりで、普通に聴くことができないのはゆゆしき問題と思っていた。というわけで、本書の中から特にユニークなジャンルにフォーカスし、無心に聴いて面白いレコードを紹介していくというのが、このコーナー。20世紀初頭のチープな味わいの電子サウンドを集めた「アーリー・エレクトロニクス」、『禁断の惑星』からマチャアキの『西遊記』あたりまで、電子サウンドでテレビや銀幕を飾った劇音楽を集めた「海外と日本のサウンドトラック」、オリンピック、万国博覧会などの記念イベント用に作られた音楽を非売品レコードを一同に介して送る「エキジビジョン」、モーグ、アープ、オーバーハイムなどのセールスのために楽器の魅力を集約させた悪魔のレコード「デモンストレーション」、なんだかんだでちゃんと聴いている人が少ない冨田勲氏や松武秀樹氏の功績を、珍しいレコードも交えて聴きまくる「日本のシンセサイザー音楽」、クラフトワークディーヴォだけじゃないのにと著者も力説しまくる「日本のテクノポップ」などを一応、予定。

3、いかにしてテクノポップは誕生したのか? YMOサウンドができるまで

 拙著『電子音楽 in JAPAN』では、通常の単行本300ページ相当のヴォリュームを割き、電子音楽の世界で「ビートルズ的な役割」を果たしたグループとして、イエロー・マジック・オーケストラの歴史を紹介している。しかし、YMOが真にユニークだったのは、時代との対話によってサウンドを見事に変異させていったこと。ディスコに始まり、ニュー・ウェーヴ、アヴァンギャルド、歌謡曲と、さまざまなサウンドの変遷を辿ってきたYMOの存在意義を知るには、その背景にあった音楽状況を知っておく必要がある。ここでは、YMOが何に影響され、それがどんな状況の中で、YMOサウンドとして結実していったのかを、さまざまなリファレンスを聴きながら辿っていく。70年の万博の年、日本で最初のモーグ使用シングル「ポップコーン」を出したのがアルファレーベルであった事実が、アルファとYMOの出会いの運命を物語る。ほか、中国舞踏曲「東方紅」、ラタ・マンゲシュカールのボリウッドサウンド、<細野晴臣林立夫佐藤博>で想定されていた初期YMOプランの青写真的な曲、ラロ・シフリンクワイエット・ビレッジ」、「ジングルYMO」の元曲とおぼしきPAMSの「ラジオ・ロンドン」のジングル、『BGM』を作るきっかけとなったマイケル・ナイマンモーツァルト」、デヴィッド・カニンガム『グレイ・スケール』などなど、この機会に入手困難な音もまとめて聞いてみよう。

4、牧村憲一氏を交えてのスペシャル・ゲストトーク

 かつてシュガー・ベイブの事務所を経営し、日本のシティポップ普及に貢献した名プロデューサー。昨年は、フリッパーズ・ギターの復刻でも往事の仕事が再注目された「渋谷系の父」とも言える存在である。現在、私の担当で氏の初の著書となる日本のポップス史の編纂が進む中、一足先にその告知宣伝もかねて本イベントにもご登場いただくことになった。大貫妙子ジョルジオ・モロダーサウンドと合体した「カルナバル」のプロデューサーとして歴史に名を残す氏は、加藤和彦うたかたのオペラ』『ベル・エキセントリック』、忌野清志郎坂本龍一「い・け・な・いルージュマジック」、伊武雅刀子供達を責めないで」など、綺羅星のごとき名作に携わる。特に、はっぴいえんどがヒップホップ・サウンドで復活した代々木国立競技場のイベント「ALL TOGETHER NOW」を幕開けに歴史がスタートする、ノンスタンダードレーベルのプロデュース・ワークには、笑えて泣ける裏話がいっぱい。そんな、牧村氏の足跡のごく一部として、SHI-SHONENなどテクノポップ系作品を中心に聴きながら、当時の制作エピソードなどを伺う。


【ちょっとオモロなコラム仕立ての第二部】

5、幻の「史上最大のテクノポップDJパーティー」秘蔵資料お蔵出し

 YouTubeで気軽に『カルトQ』が観られるようになったのを、嬉しくも恥ずかしい思いで過ごす拙者。実はその時代、偉そうに編集者業の傍らでさまざまなイベントを企画させてもらっていた。そんな中でも、青春の1ページを飾ったといえるのが、今はなき渋谷インクスティックDJバーで開催されていた「史上最大のテクノポップDJパーティー」。「クラブカルチャーなき時代」にまったくの手探りで模索しながらやっていたイベントゆえ、主催者としては今考えると赤面もののエピソードばかりだが、いろいろご贔屓にしていただいて、なんだかんだで当時の映像や音などがかなり残っているのだ。TBSの情報番組で流れた「史上最大のテクノポップDJパーティーSUPER」(91年)、スペースシャワーの初期に特番を組んでもらった「史上最大のテクノポップDJパーティー#3」(92年)などの映像を中心に、当時の写真、記録音声を初めて公開。先人の苦労の歴史を聞いてくれ。

6、『イエローマジック歌謡曲』外伝! ああオモシロ悲しき落選曲マラソンプレイ

 拙者が選曲・解説を担当させていただいた『イエローマジック歌謡曲』、『テクノマジック歌謡曲』(ともにソニー・ミュージックダイレクト)。最近、なぜかそれを取り上げた過去のエントリーのページビューが増えたのは、しょこたん(中川翔子ちゃん)が紹介してくれたからだったのね。細野晴臣氏、坂本龍一氏、高橋幸宏氏らYMOのメンバーが作編曲に関わった、歌謡曲やポップス仕事をエッセンシャルにまとめたオムニバスだが、その功績をわずか3〜2枚にまとめられるはずがない。当然のごとく、あれがない、これがないと、収録時間の関係やアプルーバルの問題で収録されなかった数多くの名曲がある。そこでこのコーナーでは、「YMO本体以上にYMOらしい」イエローマジック歌謡曲の未収録曲の数々をまとめて紹介。また、YMO以外のテクノポップ人脈の作品を集めた『テクノマジック歌謡曲』の番外編のほうは、さらにバカバカしいテクノワールドが貴方を襲う!

7、番外編アーティスト特集「トニー・マンスフィールド」の巻

 これも拙者が復刻に関わらせていただいた、トレヴァー・ホーンと並ぶイギリスの名プロデューサー。グループ時代のニュー・ミュージックのアルバムや高橋幸宏とのジョイント曲など、CDで聴ける曲もずいぶん増えたが、それでもトニーの面白さが再評価されるにはまだまだ。有名なネイキッド・アイズ、マリ・ウィルソン、ア〜ハ!などのヒット曲に隠れて手掛けていた、冗談ぎりぎりのオモシロ・サウンドを、世界で5本の指に入ると勝手に自負するトニマン・フリークの私がまとめて紹介する。「なんでアンタが?」と当時耳を疑った、ライバルだったトレヴァー・ホーンの「リラックス」のカヴァー、ノルウェイ国内でのみ流通しお蔵入りとなったア〜ハ!「テイク・オン・ミー」の幻の初期テイク、鈴木さえ子も取り上げた「サムシング・イン・ジ・エア」のトニマン・ヴァージョンなどなどをオンエア。

8、電子音楽 in アニソン&特撮音楽の華麗なる世界

 当ブログでも、なぜかもっとも反応が多いのがアニソンネタ。しかしながら、冨田勲宇野誠一郎といった、初期手塚アニメの音楽の名匠たちが、揃って電子音楽の黎明期にその第一歩を記していたのは偶然ではなかろう。ここでは『電子音楽 in the(lost)world』でも紹介しきれず、映画・テレビ音楽の中でかいつまんで取り上げたに過ぎなかった、アニメ主題歌、特撮音楽の70年代劇伴の実験的電子サウンドにスポットを当てる。虫プロ第一作『鉄腕アトム』における、大野松雄氏の音響デザインに始まり、初期ミニ・モーグのオーナーだった渡辺宙明氏がアニメ界に電子サウンドの第一歩を記した『マジンガーZ』、80年代のアニソン界を激震させた小林泉美氏、安西史孝氏らが奔放な実験を繰り広げた『うる星やつら』などなど、あまり語られることのない、歴史軸にそっての、私なりのアニソン論を展開する。また、おなじみガンダム・フォノシートを始めとする効果音レコードや、ヒーローの変身シーンばかりを集めたレコード(そんなものがあるのだよ)などの泡沫系もチェック!

9、「初音ミク」のルーツを訪ねて。ベル研究所に始まる、合成人声テクノロジーをレコードで聞く

 このコーナーはほとんど思いつき(笑)。先日の「初音ミク」のエントリーにけっこうな反響をいただいたので、急遽作ってみた。50年代のベル研究所から歴史がスタートする、PCMによるデジタル・レコーディング技術をベースにした「合成人声」のヒストリーを、残されたレコード、資料用音源などを聴きながら検証していくマジメなコーナー。伊達に世界のマージナルなレコードを研究しているわけじゃないことが、これで証明できるとすれば私も救われる。


 などなど、休憩を挟んで5時間近くかけて、さまざまなプログラムをお送りする予定。無名のオッサンがくだまくイベントのくせにチケット代が高くてごめんなさいなのだが、通常のイベントの倍の情報ボリュームで臨むので、決して損はさせませぬ。ちなみに当日、心細い私に合いの手を入れてくれる助っ人として、友人である津田大介氏(『だれが「音楽」を殺すのか?』著者)、ばるぼら氏(『教科書には載らないニッポンのインターネットの歴史教科書』著者)もゲスト出演していただけることとなった。ありがたや。
 また併設イベントとして、アスペクトのご厚意で倉庫から引っ張りだしてきた、拙著『電子音楽 in JAPAN』、『電子音楽 in the (lost) world』を、当日物販コーナーで販売。また、『電子音楽 in the (lost) world』の執筆時に取材で使った使用済みの電子音楽レコードを、フリーマーケットよろしく大処分市を行うので、私エイドとしてどうかご協力を。加えて、友人の山口優氏、常盤響氏、岡田崇氏らが経営する渋谷のモンドなレコード店「ソノタ」が緊急参戦し、電子音楽レコードの出張販売コーナーも設けるという、当日は物販も電子音楽三昧で送る。どうか友達とお誘いあわせの上、来場されたし。