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過去にはてなダイヤリーで連載してた連載コラムのアーカイヴです。

11月4日開催イベント「聞く『電子音楽 in JAPAN』」続報〜レコード処分市の巻〜

 今回の更新も、11月4日開催のイベント「聞く『電子音楽 in JAPAN』」の告知ですいません。念のため、まずは当日のイベント内容を改めて紹介。


イベント「音で聴く『電子音楽 in JAPAN』!」開催のお知らせ
大阪万博から「初音ミク」まで、レコードで辿る電子音楽50年史>


【日程】2007年11月4日(日曜日)
【場所】TOKYO CULTURE CULTURE(江東区青梅1丁目パレットタウンZepp Tokyo 2F)
【時間】Open 15:00/Start 16:00/End 21:00(予定)
【料金】前売り2200円/当日未定(共に飲食代別)
[チケット情報]前売券はローソンチケットにて10/13発売(Lコード:34002)
http://www2.lawsonticket.com/
(内容)
西ドイツに続く世界第二の歴史を持つ「NHK電子音楽スタジオ」設立に始まり、東京オリンピック大阪万博から、80年代のYMOの出現(テクノポップの時代)まで、常に世界をリードしてきた「日本の電子音楽」。その50年史を綴ったノンフィクション『電子音楽 in JAPAN』(アスペクト)の著者がナビゲーター役を務め、当時のレコード、映像などを見ながらエピソード満載で日本の電子音楽史を紹介していく。貴重なレコードを聴くマジメな<第一部>と、著者が監修した『イエローマジック歌謡曲』番外編、トニー・マンスフィールド特集、今話題の「初音ミク」のルーツを辿る合成人声レコードの歴史など、コラム仕立ての<第二部>で構成。『電子音楽 in JAPAN』『電子音楽 in the(lost)world』の取材で使用済みのレコード処分市や、渋谷のカルトレコード店「ソノタ」の出張販売もあるでよ。

(出演)
田中雄二/ゲスト:津田大介(『だれが「音楽」を殺すのか?』著者)、ばるぼら(『教科書には載らないニッポンのインターネットの歴史教科書』著者) スペシャルゲスト:牧村憲一(音楽プロデューサー)
著書『電子音楽 in JAPAN』『電子音楽 in the (lost)world』ほか、アスペクト関連書の物販。および、著者提供を含む、渋谷レコード店「ソノタ」出張販売ブースあり

(関連ホームページ)
TOKYO CULTURE CULTURE
http://tcc.nifty.com
アスペクト
http://www.aspect.co.jp/
ソノタ
http://www.manuera.com/sonota/


 当日券が出せるかどうか私にもわからない部分もあり、たぶん行けそうという方は、チケットはまだ若干残っているとのことなので、ぜひローソンチケットにて前売り券を購入いただければ幸いでありまする。
 ところで、当日イベントに併設という形で、最近は書店でもあまり見かけなくなった拙著『電子音楽 in JAPAN』、『電子音楽 in the (lost)world』の残部の出張販売なども行う予定だが、特に今回はご厚意で、私の古い友人である山口優氏、常盤響氏、岡田崇氏が経営する渋谷のカルトなレコードショップ「ソナタ」にスペシャル出店していただくことになった。まだお店に足を運んだことがない方は、「こんなレコードがあったのね!」と驚くこと必至なラインナップを、ぜひご覧いただきたい。さらにこのコーナーでは、拙者の企画によるディスクガイド『電子音楽 in the (lost)world』で紹介したレコード群の中から、お好きな方に聴いてもらえればと、電子音楽の名作&珍作の一部を放出する。あまりオークションなどにも出回らないレコードもあるので、入店されたらぜひエサ箱を覗いていただけたら幸いである(現金オンリーなので、あらかじめごめんなさい)。告知してすぐに、どんなレコードが放出されるのかと問い合わせをいただいたので、今回は新宿ヴィニール・ジャパンの恒例の雑誌告知セールみたいに、一部紹介してみることにした。

イギリスの電子音楽の名門、BBCラジオフォニック・ワークショップの傑作ジングルを集めた10インチ4枚組。電子音楽象牙の塔だった西ドイツ放送局、日本のNHKと異なり、歴史の始まりから放送用ジングルを制作する施設として、ジャズ、ポピュラー系作家を多量に起用した同所のジングルには、可愛くてヒップな曲がいっぱい。『ドクター・フーのテーマ』が代表曲として知られているが、むしろ開局10周年記念に出たLPをもとに編集されたこちらのジャズスコアのほうがずっと上出来。ブライアン・ジョーンズポール・マッカートニーが噂を聞いて来訪し、ジョージ・マーティンは同所で'60年代に電子音楽ジャズのシングルまで制作している。たぶんピンク・フロイド「マネー」はこの曲にヒントを得たのだと思われる、レジスター音によるジングルなどは、コンクレート技術によるポップ展開の極みだと思う。

英国の老舗ライブラリー、スタンダードからの1枚。ロン・ギーシン、マイク・ヴィッカーズ(マンフレッド・マン)などが職業作家として曲を提供し、各国の放送局を顧客にして作られていた法人向けレコードだが、本作はホワイト・ノイズのデヴィッド・ヴォーハウス、BBCラジオフォニック・ワークショップの才媛、デリア・ダービシャー(ルッセ名義)の作品を収めたもの。デリアはアルバイトで、ホワイト・ノイズ『エレクトリック・ストーム』のカットアップ部分を制作した張本人ゆえ、ヴァージン移籍で音が激変したホワイト・ノイズのセカンドより、初期ホワイト・ノイズらしい音が聴けるのがウリ。

今回のイベントのキー・アートとして使わせてもらった、60年にアメリカのベル研究所がリリースした箱入りのコンピュータ音楽レクチャーレコード。10インチ1枚に、ヒラーとアイザクソンによる世界最初のコンピュータ作曲「イリヤック組曲」、チャンス・オペレーション、IBM7090による音声合成までの歴史をコンパクトに収録している。技術監督はPCMの父、マックス・マシューズ博士。アメリカでもあまり出回らないものだが、ブックレットが欠品なので、音だけでも聴きたいという方にぜひ。

四人囃子が所属していた東宝レコードから出た、ローランド・シンセサイザーの実演レコード『シンセサイザー・テクニック』のVol.3。佐久間正英がシンセストとして、ギターシンセのGRシリーズ、MC-8などを使った多重録音のメソッドを紹介している上級編だが、なんと佐久間がプラスチックスに加入する以前に、友達のバンドの曲としてカバーした「ロボット」(インストルメンタル)が収録されているのが驚き。サウンドは、加入後の初期に録音された、ラフトレード時代の「ロボット」の原型とも言える仕上がり。

冨田勲が71年にモーグIII-Pシンセサイザーを購入し、正式なデビューを飾るのは74年の『月の光』。この期間に習作として3枚のレコードが残されているが、それが『ノストラダムスの大予言』(東宝レコード)、『スイッチト・オン・ヒット&ロック』(CBSソニー)と並ぶ本作、『音楽って楽しいな』(TBSブリタニカ)。ピクチャーレコード2枚組で、終幕のD面「銀河鉄道の夜」は、後にRVCから出た企画アルバム『冨田勲の世界』に再録されたもののオリジナル。A面「わたしは作曲家」は、芸術祭賞を受賞した『ジャングル大帝』同様に、オーケストラのパートを紹介していく語りものになっており、うつみ宮土里がナレーター役でコミカルに登場。シンセサイザーを紹介し、虫の羽の音、モンスターの音などとの絶妙な掛け合いを聴かせる。

ノーマン・マクラレンの偉業で知られる、カナダ国立映画制作庁の実験アニメの音楽を集めた非売品の2枚組。半分の曲が同所の代表作であるマクラレン作品。音声トラックに傷を付けたり、周波数カードを撮影して、光学再生時にリズム、メロディを構成する彼のサウンドトラックは、いわば「楽器を使わない電子音楽」。「算数遊び」のクリック、「ブリンキティ・ブランク」の足音のタップなど、絵がなくても楽しめるサントラ盤になっている。

なぜかDVD化されていないため、ずっとレア状態が続いている、アメリカの映像作家ケネス・アンガーの作品を集めたレーザーディスク2枚組。VHSではバラ売りされていたが、本作は代表作9作すべてを収録。当時話題になったミック・ジャガー音楽による『我が悪魔の兄弟の呪文』は、ミック自身が操作するモーグシンセサイザーによるアヴァンギャルドな音楽付き。同じミックのモーグを使った『パフォーマンス/青春の罠』のサントラが先日リイシューされたばかりだが(ジャック・ニッチェがミックからモーグを借りて録音)、あれが気に入った人なら無問題。『サタニック・マジェスティ・リクエスト』の向こう側にある、ストーンズの隠された暗黒面に触れる絶好の機会なり。

ロシアの巨匠監督、タルコフスキーの黄金期である『惑星ソラリス』、『鏡』、『ストーカー』の音楽を担当した、ロシア最古の電子音楽作家の一人、エドゥワルド・アルテミエフの珍しいシンセサイザー盤『こころの画集』。『惑星ソラリス』で使われたANSシンセサイザーのようなアヴァンギャルドな音ではなく、イギリス製のシンティ100をメインに据えたポップなニューエイジサウンド。「フランス近代音楽をベースに、民族音楽のエッセンスを取り入れ、電子音楽手法でリアライズ」というプロフィールが、『千のナイフ』〜『戦場のメリークリスマス』のころの坂本龍一氏に近い音楽性を持っており、私は日本で有数のアルテミエフ・ファンを自任しているほど好き。

当時、楽器のPRとして配布されていたデモ・レコードの中から、オルガンメーカーとして人気だったRMI(ロッキー・マウント・インストゥルメント)の「RMIハーモニック・シンセサイザー」のPR盤を紹介。ライヴ演奏を前提に設計されているため波形はプリセットで、簡易的なシーケンス機能も搭載。著名な演奏家らしいマイク・マンデらが参加し、スティール・ギター、バンジョーフィドルなどをリアルタイムで演奏する曲芸業にはため息が出る。

YMOプログラマーとして知られる松武秀樹氏の数多いシンセサイザー・レコードのもっとも初期の一作。ご本人確認によると、冨田スタジオから独立してMACという広告音楽制作会社を立ち上げた最初のレコード仕事がこれらしい。まだシンクロ録音ができない時代で、小編成の楽団にモーグ、メロトロンをオーバーダブしたものだが、テクノ心の持ち主が使うとメロトロンもこんなにテクノに響くのかと思うほどの名演。恋愛映画のテーマ曲を集めたもので、「小さな恋のメロディー」、「シェルブールの雨傘」、「ラスト・タンゴ・イン・パリ」など、選曲がいかにも日本人好み。波やカモメの声までモーグで合成している手間のかけ方に冨田スタジオの伝統を感じる。

当日は電子音楽関係からは少々はみ出つつも、同じマインドで私が愛してやまないレコードもちょろっと置いてもらうつもりだが、本作は何度かブログで紹介させていただいたこともある、イギリスの「裏XTC」ことスタンプのデビューLP。けっこうレアっす。ホルガー・ヒラー&小林泉美が監修したクリサリスからのメジャー盤もいいけれど、代表曲「Baffalo」のオリジナルを収録した本作には及びませぬ。プロデューサーは、カラー・フィールドなどネオアコ人脈から信頼されているヒュー・ジョーンズ。現在はミュージカル・ソー(のこぎりバイオリン)奏者として、ハイ・ラマズなどで働いているケヴ・ホッパーだが、スティックを主体としたプレイは若く溌剌としていて、スラップスティックな持ち味はジョン・ゾーンのネイキッド・シティと双璧。


 などなど、一応目立つものを挙げてみたが、この他にも、ブルース・ハーク、ギル・トライザルなどのモーグ系基本アイテムから、トニマンもの、ライブラリーものなどまで揃えてお送りする。ちなみに値段付けは、プロにお任せして「ソナタ」の店員さんにお願いする予定。当日、販売コーナーで確認してみていただきたい。