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過去にはてなダイヤリーで連載してた連載コラムのアーカイヴです。

ピチカート・ファイヴ『女性上位時代』(コロムビアミュージックエンタテインメント)

女性上位時代

女性上位時代

 これは筆者の仕事でもないんでもない、ピチカート・ファイヴコロムビア移籍後の初のアルバム。だが、本作に私の声が収録されているというのが、孫の代まで語って聞かせてやりたい、唯一の自慢。「トゥイギー・トゥイギー」のイントロの前に入っているダイアローグ部分の、野宮真貴嬢の「慶一さん、ピチカート嫌いでしょ?」というセリフの後で爆笑しているのが私の声なのだ。本作を神と崇めているファンの方々には申し訳ない。実はこれ、当時私が在籍していた雑誌『宝島』の取材の時に発せられたセリフなのだ。
 このアルバムは当初、完パケではない状態で音資料が配布されており(その中には、最終的にリリースされていないヴァージョンの「ロンドンーパリ」なども入っていた)、それを元に新聞やら雑誌やらから、かなりのボリュームの取材を受けていたと思うのだが、その全取材をスタッフがDATで録音しており、私以外も含めたさまざまなジャーナリストの声が、最終的にコラージュされている作品なのである。私のパートは『宝島』で組んだピチカート・ファイヴ特集の中の、“野宮真貴里帰り企画”という鈴木慶一氏との対談時のもの。“里帰り”というのは、野宮嬢が昔ムーンライダーズ・オフィスに所属していて、彼女がいたポータブル・ロックを慶一氏がプロデュースしていたことから。その対談の冒頭で、野宮嬢から「慶一さん、ピチカート嫌いでしょ?」というセリフが出て、慶一氏が答えに窮し、場内が爆笑したというもの。一応、慶一氏の名誉のために言っておくと、むしろ冷たくされていたのはムーンライダーズのほうで、ライダーズはわりとピチカート結成時から仮想敵にされてきた悲しい状況があったのだ。
 その昔『TECHII』で企画した、私も参加した「マッド・サイエンティスト特集」という記事があるのだが、その中でも慶一氏は、日本の音楽界におけるマッド・サイエンティスト的な新しい才能として、当時イケイケだった戸田誠司氏らと並べて、小西康陽氏の名前を挙げていた。実は私、『カップルズ』に心酔していたピチカートファンでありながら、まだリリック主体で関わっていた小西氏の実像が見えず、このアルバムを傑作たらしめていたのは、作曲面を担当している高浪慶太郎氏や鴨宮涼氏、共同編曲を務めているウィンク・サーヴィスの長谷川智樹氏らの手柄だと思っていたのだ。代表曲「皆、笑った」なども高浪氏の曲だったし、鴨宮氏は私の担当の新製品ページのモニター記事も書いてもらっていて、よくしてもらっていたし……(笑)。まさか、小西氏がその後、自らアレンジャーとして曲を量産し、高浪氏が抜けた後のピチカート第二の黄金時代を築くことになるなんて、その時は思いもしなかったのだ。いや、ホントに。だから申し訳ないぐらいで、いま考えれば、その時の慶一氏は慧眼だったなあと改めて敬服している次第。
 ところが、一方のピチカート側からのライダーズに向けたコメントは、当時からなかなか辛辣。ライダーズ周辺組が一同に介した、新宿パワーステーションで行われた『最後の晩餐』リリース記念のオムニバス形式のライヴでも、唯一、ピチカートだけはライダーズの曲を演奏していない(「マイ・ネーム・イズ・ジャック」をやったのだが、明らかにマンフレッド・マンのヴァージョンをやっていた)。いけず〜と思ったものだ。そういう悲喜こもごもがあったので、野宮嬢から「嫌いでしょ?」と聞かれても、慶一氏は答えに窮するはずである。まあそのへん、野宮嬢もすべてわかって言ってるはずで、あの「名台詞」は、両方の家族の娘でもある野宮嬢にしか発せられないもの。その名台詞が出た現場を、間近で見せてもらっただけでも、曾孫の代まで自慢できるって話である。
 その完成度への驚愕も含め、上がったアルバムを最初に聴いた時の私の喜びようったらなかったが、残念ながらクレジットはない。しょぼん……。まったく参加していないのにクレジットが載っている、林家こぶ平を恨んだものだ(こぶ平は非売品のCDシングルにのみ参加)。だが、その後小西氏とご縁があり、私がプロデュースしたテレックスのリミックス盤に参加してもらい、そのお返しに、ピチカートのリミックス盤にテレックスが参加することとなって、『エキスポ2001』というアルバムで、初めてクレジットを入れてもらえることとなった。ありがたや〜。
 ちなみに、その時の対談記事の構成は、後にサバービア・スウィート〜アプレ・ミディで一斉を風靡するDJの橋本徹氏。当時はKという出版社の社員で、ピチカートのファンで組織されたオプ・ビザールというミニコミ(?)をやっていたのを知っていて、それで参加してもらった。記事のタイトルは確か「小西、高浪はOUT TO LUNCH」というもので、私が付けた。ご存じ、エリック・ドルフィーのアルバム名をもじったものである。