POP2*5

過去にはてなダイヤリーで連載してた連載コラムのアーカイヴです。

極楽とんぼ問題とフェイク・ドキュメンタリーの世界

 一昨日から新聞ネタになっている極楽とんぼの一件は、朝起きてテレビを付けたらたまたま『スッキリ!』が映って、相方の加藤浩次の例の釈明コメントを見て知った。“淫行事件”のたぐいは証言があやふやで、事実関係は見えてこないところもあるが、とりあえず板尾創路の時みたいに、みそぎを経て帰ってこれればと思っていた。が、吉本解雇、極楽解散、欽ちゃん球団解散、『東京タワー』放送延期(中止?)と余波が続き、事態はいっそう深刻な状況に流れているようだ。これは板尾のパターンではなく、太平シローのパターンのかもしれない。これ以上なにか状況が悪化すれば、業界復帰は難しいかもしれない。このニュースを聞いて、まっさきに私の脳裏を巡ったのは、「あのDVDも廃盤になっちゃうんだろうな」ということだった。『極楽とんぼのテレビ不適合者』のことである。
 私はお笑い好きだが、いわゆるお笑い系DVDにはあまり関心がない。最近、テレビでは規制が多くてのびのびとネタもできないらしいが、ゆえに「舞台の彼らを捉えた」「彼らの追求するリアルな笑い」などを謳う芸人の単独DVD作品はかなりの数が出ており、実際に売れているらしい。しかし、規制がないという状況が、逆に芸人の独りよがりなネタ開陳に終わってしまう原因にもなっているようで、これじゃファンしか買わんだろうというようなものばかり。ダチョウ倶楽部も、昔舞台でやっていたコントは相当に面白かった。なのに、せっかく出た初の単独DVDも、彼らメインのネタが見れるのかと思いきや、単なるテレビネタを引き延ばしたキャラクターものだった。やっぱりあの舞台の完成度は、演者じゃなく作家の感性だったんだな。
 DVD-BOXで復刻された『8時だヨ!全員集合』も『オレたちひょうきん族』も、あれだけ売れているのに私は買っていない。『お笑いウルトラクイズ』は一抹の希望を託して購入してみたが、一番過激だった部分を今の基準でカット編集しているみたいで、凄くガッカリした。当時のアブナイ系芸人(例えば、放送後に逮捕された人とか)は全部顔にモザイクがかかっていて興ざめだ。今でも見返して何度も爆笑できるのは、小堺一機がプロデュースした、柳沢慎吾のライヴぐらいだろう(これは面白すぎて感動する)。そんな私に、『笑芸人』などで執筆しているお笑い系ライターの加藤義彦氏から、「これは絶対笑える」と教えてもらったのが『極楽とんぼのテレビ不適合者』だった。で、私は言われるがままに見た。これは凄い! これは何なのだ!?
 深夜番組だった『極楽とんぼのとび蹴りヴィーナス』が、一部でカルト的な人気を集めながら、視聴率がよくないことを理由に打ち切りになり、そのスタッフが再結集してオリジナルDVDを作ったというのが本作。ピエール瀧が帯文で推薦している、最近話題になっている単行本『ポエム番長』を書いている、作家でディレクターのマッコイ斎藤が手掛けたもので、極楽とんぼのDVDというより、極楽の2人が才能に惚れ込んで出演した、マッコイ斎藤監督の作品というべきもの。実際、かなり作家性が強い。とはいえ、テアトルエコー出身の2人の演技はかなりイケてるし、隠れた映画マニアで映画の単行本も出している加藤などは、メイキングを見ると、アイデア出しなど全体の構成にもかなり積極的に関わっているよう。だが、リリース時にこのDVDは、ほとんどのメディアで黙殺されている。出典の深夜番組の知名度の低さの問題もあるが、実はこの作品。その面白さを雑誌で紹介するのが、非常に難しい構造をもっているのだ。
 おそらく、近日中には回収破棄されるかもしれないから、ここの来客の方にはいち早くチェックして欲しいという思いもあり、あえてネタを割ることにする。日本一の不良学校にレポーターとして訪れた極楽とんぼが、彼らを更正させるべく格闘した、卒業式までの一年を綴ったドキュメンタリーなのだが、なぜかある理由があって各局の放送規制に引っかかり、DVDで発売されたというふれ込みだった。だが、実はすべて巧妙に作られたフェイク・ドキュメンタリーなのだ。私など、事前情報なしで見たので、ラストには思わず腰を抜かしてしまった。温厚だった夜間学校の教師が、最後、生徒達をメッタ刺しにして、血祭りに上げて終わるという話なのである。マッコイ斎藤は元々『電波少年』のスタッフだったらしく、街頭での張り込み撮影時の画角処理など、真にドキュメンタリーな印象。たとえ演者に不祥事があったと言え、マッコイ斎藤の世界観を見事に織り込んだこの作品には、回収処理されるにはあまりに惜しい完成度があると私は思う。
 そんなこんなで、私がこの手のフェイク・ドキュメンタリーに魅せられ、未知の作品を求めてふらついていた時に、「おお、これは新しい才能だ!」と発見したのが、映画『リンダリンダリンダ』の監督、山下敦弘の一連のビデオ撮り作品である。最初に見たのは、下北沢のミニシアターでかかっていた『刑事まつり』というシリーズの一本「汁刑事」だった。本業は刑事なのだが、趣味でアダルトビデオの汁男優をやっているハードボイルドな男を追っかけたドキュメンタリー映画。これも途中まではダラダラとオフビートに展開しながら、最後、めちゃくちゃになって終わる(書けないのがもどかしい……)。最新作は、ついこのあいだDVD化されたばかりの『不詳の人』で、ここでは、ハリウッドから帰国し、“Fメソッド”なるスタニフラフスキー理論みたいな演技論を提唱している劇作家が主人公。モデルは「転位21」の山崎哲あたりをもじったものなのか? 主人公は、感情が読み取れない分裂症的キャラクターなのだが、時に情をかけてホロリとさせるかと思えば、女子劇団員にセクハラまがいの強要もする。それを山下監督がPRビデオを依頼されたビデオ業者という立場から物語を追っていく(いつもこの手のシリーズは彼目線で進行する)。で、ダラダラの展開が延々続きながら、これもはっという終わり方をする。その余韻は、今村昌平の『人間蒸発』のラストみたいな微妙な味わいだ。
 2 作品とも主演は、最近の山下劇場作品でも常連の、大阪芸大時代の先輩にあたる山本剛史。おそらくかなりの部分がアドリブなんだろうが(山本もまた映画監督なのだ)、この山本の演技の天然っぷりが凄くて、山下監督に言わせれば「いい玩具を見つけちゃった!」という感じなのだろう。とにかく「汁男優」以降、憑かれたようにさまざまな設定を与えて、山本の一人語りのフェイク・ドキュメンタリー作品を量産している。せっかく『リンダリンダリンダ』で覚えた一般劇場作品の撮り方を、忘れちゃうんじゃないのと思わず心配してしまうぐらい。だが、それは杞憂にすぎないようで、今月から劇場映画の新作、くらもちふさこ原作の『天然コケコッコー』の撮影に入るんだそう。しかもロケは島根県。主演は夏帆……いいなあ10代(失敬!)。同じ女子高生音楽映画ということで、ウェルメイドな『スウィングガールズ』とやたら比較された『リンダリンダリンダ』だが、内容はまったく正反対。あの女子高生達の日常を、ロングでそのまま切り取ったようなダラダラな撮り方を、それでも飽きさせず物語に織り込む手腕は、やはりドキュメンタリー撮りの技術あってのものなのかも。彼が「日本のジム・ジャームッシュ」「日本のアキ・カウリスマキ」と期待される所以なんだろうな。
 フェイク・ドキュメンタリーは、元々世界のシネフィルたちを魅了するテーマではあって、『キング・コング』の大家ピーター・ジャクソンにも、未見だがニュージーランド時代の傑作と言われる『コリン・マッケンジーの伝説』がある。音楽系でも、『モンティ・パイソン』のエリック・アイドルとボンゾ・ドック・バンドのニール・イネスの『ラトルズ 4人もアイドル!』なんかはすでに古典の風格。ラトルズは密かに輸入DVDで続編も出てたりするんだが、こっちはイマイチだったけど。個人的にはロブ・ライナーのデビュー作『スパイナル・タップ』なんていうハード・ロック系の小品が好きだ。キャメロン・クロウの『あの頃ペニー・レインと』に出てくるバンド“スティル・ウォーター”の造形なんかは、かなりこれを意識してんじゃなかろうか。何度もDVD化されているラトルズ以外は、いずれもDVD化されていないのが寂しい。85年当時のレーザーディスクで持ってる『スパイナル・タップ』のなんか、そろそろ映像がやばそうなので早く復刻してくれないかな。
 復刻してほしいと言えば、フェイク・ドキュメンタリーの傑作と言われているイギリスのTV作品『第三の選択』。実はNASAが密かに火星移住を計画していたという話を、イギリスの架空のテレビ局が暴いていくストーリーなのだが、ラストの衝撃と言ったら! 編集もゴドレー&クレームみたいだし、音楽担当がなんとブライアン・イーノだし。細野晴臣もファンで、原題から取った「Alternative3」なんていう曲も書いているぐらいだから、どっかのメーカーさんが出すのなら、きっとヒットすると思うので、是非協力させてくださいな。