ムーンライダーズ『ムーンライダーズCM WORKS 1977-2006』(ソニー・ミュージックダイレクト)
- アーティスト: ムーンライダーズ,ハンバートハンバート,鈴木慶一
- 出版社/メーカー: Sony Music Direct
- 発売日: 2006/12/20
- メディア: CD
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内容はジャケット裏の曲目リストを当たっていただければと思うが、鈴木慶一のペンによる資生堂「プラウディア」の室内楽インストから、ファンには古くから愛されてきた斎藤哲夫「いまの君はピカピカに光って」のモノーラルのオリジナル・ヴァージョンまで、典型的なコマソンにポストモダンなダンス風インストと、収録曲は実に多彩。特に濱田氏の発掘作業によって収録が叶った、メンバー最古のCM仕事となる77年の「ナビスコ・ピコラ」が聞けるなど、たんなる寄せ集めに終わらない考古学的な価値をもったものになっている。同曲をはじめ、初期のライダーズのCM音楽をもっぱら手掛けてきたのが、ON・アソシエイツ。戦前からの日本のコマソンの第一人者、三木鶏郎の冗談工房から派生してできたCM音楽制作会社だが、あの大瀧詠一『ナイアガラCMスペシャル Vol.1』やファンクラブのみで販売されている山下達郎のCM集など、各種のCM音楽集のクレジットでもおなじみだろう。保守的だった70年代の日本のレコードビジネスの世界で、サウンドが時代的に先鋭的すぎて孤独な戦いを強いられてきたティン・パン・アレイ周辺組、山下達郎、大貫妙子、坂本龍一らシュガー・ベイブ一派、ライダーズのメンバーらに、CM音楽という発表の場を提供していた、いうなればパトロン的な存在であった。最近では再結成したサディスティック・ミカ・バンドのキリンラガーのCMヴァージョンの仕掛け人としても有名。YMOのベスト盤『UC YMO』のボーナストラックに収録された「ビハインド・ザ・マスク」のセイコーCMヴァージョンも同社のもので、拙者も選曲に参加した坂本龍一のコマーシャル、テレビ音楽集『CM/TV』にも曲提供いただき、間接的にお世話になっている。ON・アソシエイツの膨大なアーカイヴの商品化が現在、濱田氏のライフワークとして編纂が進められているが、同氏が構成しているBSフジの番組『HIT SONG MAKERS』でも、その偉業の一部をご覧になった方もおられるだろう。また濱田氏とライダーズの縁としては、一昨年に氏の監修でコカ・コーラのCMを集めた『コカ・コーラCMソング集1962〜89』に収録された、『アマチュア・アカデミー』期のサウンドによるムーンライダーズ「Coke Is It!」(84年)が一足先にリリースされている。
拙者に話をいただいたのは晩夏のころだったと思うが、一部の方はご存じなように当初はもう少し早いリリース時期が組まれており、ライナーノーツを入稿したのが9月の終わり頃。選曲がまったく未定な中でブックレットを完成させなければならない綱渡りのような仕事であった(楽曲の詳細に触れられなかったのをお許しを)。しかしながら収録候補曲も含めた少し多めのリストの段階から音を聞かせていただいたのは、ライダーズファンとしてはありがたい。いわゆる「大人の事情」で商業リリースできない曲は一部あったにせよ、重要と思われる曲の大半の収録が実現できたのは、まさに濱田氏の尽力によるもの。シングル「M.I.J」の原型となる資生堂「PEAKY JEAN PICO」など、15秒CMをカセットテープに録音して舐るように聞いていたクチなので、このCD化は本当にありがたい。
無論、ふーちゃん(鈴木博文)やくじらさん(武川政寛)ファンにとってみれば選曲的に不足のある部分は否めないが、本作も膨大な候補曲から選ばれたもので、売れ行き次第で第2弾が出るかも知れない伏線なのかも……(あくまで無責任な私の意見なので、ご愛敬)。シングル「エレファント」の原型となったソニーのラジカセCM曲、鈴木慶一×鈴木さえ子の「猫大好きフリスキー♪」、マンナンライフの「きいてアロエリーナきいてマルゲリータ」、岡田徹氏が作っていた「プレイステーション」のサウンドロゴなどなど、とにかく聞き所満載なので、ぜひお買い求めを。