POP2*5

過去にはてなダイヤリーで連載してた連載コラムのアーカイヴです。

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ブルーノ・スポエリ『Gl?ckskugel』(Finders Keepers)
Bruno Spoerri/Gl?ckskugel

拙著『電子音楽 in the (lost)world』で、『Iischalte』(副題「スイッチト・オン・スイス」)を紹介しているスイスの著名な電子音楽作家。以前からコレクター筋で注目されていた存在で、リリースされた盤がほとんど私家版ゆえに謎に包まれていたものの、初の作品集がCDリリースされてプロフィールが公開された。元は50年代から活動するジャズ・ミュージシャンだが、ライナーノーツによると、テレビ番組のジングル、PRキャンペーン曲など、スイスの放送音楽のために生涯を捧げてきた存在らしい。本作は全曲が初リリースで、電子音楽とジャズの無手勝流な実験が、極めてポップに展開される貴重な作品集。シンティ100(EMS)、アープ・オデッセイと、レボックスの小型レコーダーによるテープ編集で作られたチープな出来だが(モノーラル音源もある)、ベースにあるジャズのイディオムとの融合が化学変化を生み出している。エンソニックのミラージュでシコシコとシンフォニーを書いている、ロシアのエドゥワルド・アルテミエフのような独自の進化を遂げた、芸術でもなくポピュラーでもない孤高の電子音楽。表題曲はスイスのテレビ用に作られた、シンフォニーが素晴らしいファンファーレ曲。後半部は、トラム・ウォルター・ケイザーがドラムで参加している、ジャーマン・ロック風に。「Drillin'」は美術展のために作られた背景音楽で、工事現場のドイル・ノイズがリズムを刻む、テープ編集によるスパイク・ジョーンズ的世界。元タンジェリン・ドリームのイルミン・シュミットとのデュオ『Toy Planet』もCDで出ているので、ぜひお試しあれ。



ブルーノ・スポエリ「Les ?lectroniciens」(Lansing Baunall)
Bruno Spoerri/Les ?lectroniciens
観たことのない規格外のジャケットサイズがスイスの独自性を語っているが、内容は片面のみの17cmシングル。CDにも収録されている曲で、ジャズとミュージック・コンクレートの融合をコンセプトに掲げた71年の習作。ラロ・シフリン風のスパイテーマの旋律を、自身のギター、ドラムの多重録音でアレンジし、EMS、アープ・オデッセイで肉付けしたチープなシンフォニーに仕上げている。リズムを刻むモーターの音に、未来派などのダダイズムの影響も。


ブルーノ・スポエリ「Rollin'」(Private Press)
Bruno Spoerri/Rollin'

彼の私家版ディスクのひとつで、CDに収録されていた「Drillin'」の連作的な曲。バセルで行われた美術展のために作られた、片面のみのシングル。こちらは、鉄道ノイズをリズミックに編集した、ピエール・シェフェールの「鉄道のエチュード」みたいな正調コンクレート風。チョッパー・ベースと口笛のメロディという主要編成も珍しいが、ブルージーなコード進行と相まって、唯一無二の魅力的な曲に昇華されているのが見事なり。電話交換手の女性コラージュで終幕する、物語的な構成が伺えるのだが、残念ながら資料はすべてスイス語のため判読不可能。



ブルーノ・スポエリ『Teddy B?r』(Milan)
Bruno Spoerri/Teddy B?r

数多くの映像音楽を書いているスポエリだが、正規のサントラがリリースされているのはおそらくこれのみ。チューリッヒのロルフ・リジィ監督による83年のスイス映画の劇伴なのだが、オスカー外国語映画賞を取っている国際的に知られた作品らしい。ジャケットでわかるようにグルーチョ・マルクスを題材にとった、監督本人が出演するセミドキュメンタリーのようで、内容もグルーチョアカデミー賞のスピーチなどを音楽にコラージュした面白音響になっている。基本は楽団演奏によるフュージョンで、スポエリはリリコン、プロフィット10、イミュレーターなどをオーバーダブ。「The Silliest Tune」「Baby Baby」といったロボット・ポップもあれば、「Arrest Of Groucho」では、エコー処理が独特な初期ピンク・フロイドみたいなドラッギーなジャム曲もあり。



ダフィネ・オラム「Electronic Sound Patterns」(EMI)
Daphine Oram/Electronic Sound Patterns

作曲家のデスモンド・ブリスコウらとBBCラジオフォニック・ワークショップ設立に尽力した、イギリスの黎明期の女性電子音楽作家。元々は女学校の音楽教師だったが、黎明期の電子音楽制作に触れて、BBCスタジオで実験音楽制作を開始。その時期には、サミュエル・ベケットの朗読などに特殊な音楽を付けたシュールな作品があるらしい。ヴァレーズの「ポエム・エレクトロニク」で有名なブリュッセル万博にも作品を出品。BBCラジオフォニック・ワークショップではデリア・ダービシャーの先輩格にあたるが、早くから独立し、ケントに自身のスタジオ「Oast House」を設けて創作活動を開始している。本作は子供向けの音楽シリーズ「Listen, Move and Dance」の第3集として出された、楽しい電子音楽。初期のジェネレータ、フィルター、録音機を使って創作した、音のパルスが自在に動く「耳で楽しむアニメーション」。



ジョン・イートン・アンド・ヒズ・シンケット「Bone Dry/Blues Machine」(Decca)
John Eaton And His Syn-Ket/Bone Dry/Blues Machine

電子音楽 in the (lost)world』でも紹介している『Microtonal Fantasy』のような前衛作品で知られるイートンだが、これは珍しい非売品のポップ・シングル。理論家のミルトン・バビッドに師事し、電子音楽以前のジャズ作品もかなりフリージャズ風のシリアスな作風なのだが、ここではイタリアの電子楽器「シンケット」のシーケンサーとドラムを同期させて、ファニーなアニメ音楽風のジャズを展開している。「シンケット」は発明家のポール・ケトフが生み出した、ポータブルな電子音楽装置をコンセプトにしたシンセサイザーのルーツ。ケトフはイタリアの映画監督マリオ・バーヴァ作品の音響監督なども手掛けている存在ゆえに、ちょっとジャーロ映画のようなストレンジな響きを持っている。カップリング曲は、シンセのベースラインとドラムに、ピッチの狂ったソロが入るドアーズ風のアヴァンギャルド曲。



ディック・ハイマン・オン・ザ・モーグシンセサイザー「Strobo/Lay,Lady,Lay」(Command)
Dick Hyman On The Moog Synthesizer/Strobo/Lay,Lady,Lay

ウディ・アレン映画の音楽で著名なジャズ作曲家だが、70年に発売されたミニ・モーグデモンストレーターを務めたことでも知られており、『21世紀の旅路』なる電子音楽アルバムも出している。2枚のモーグ盤はいずれもメロディーのないシリアスな作品で、「サボイでストンプ」などを取り上げたロウリー・オルガン時代のアルバムとは対称的。だが、未知の音響が話題になって、シングル化された「ミノトール(21世紀の旅路)」は全米のラジオでパワープレイされたとか。CD化の際に数曲未発表曲が収められていたものの、本作はそれ以前に作られていた未発表の習作らしく、なんとボブ・ディラン「レイ・レディ・レイ」をカヴァーしている。A面はコンプで圧縮したリズム・ボックスに、ブルージーなシンセソロが入るスライ・ストーン風のファンク。カップリングはメカニカルなリズムにミニ・モーグのファニーなメロが入る。いずれもアルバムとは対称的なポップ展開で、なぜこの路線がアルバムに取り入れられなかったのか謎が深まる。



タイニー・ティム『Zoot Zoot Zoot Here Joe Adams Comes Santa In His New Space Suit』(RA・JO)
Tiny Tim/Zoot Zoot Zoot Here Joe Adams Comes Santa In His New Space Suit

タイニー・ティムの神のご加護を』なるアルバムもある、ウクレレでスタンダードを歌う奇人タレント。ビートルズのクリスマス・アルバムに登場するなど、当時は話題の芸人だった。本作はなんと、彼が生前の81年に録音していた子供向けのクリスマス・キャロル集で、音楽監督はディメンション5のブルース・ハーク。自作のようなホームレコーディングではなく、プロデューサーのアダムス兄弟の指揮の下、ニューヨークのスタジオで録音されたもので、テープ・ループにシンセ・ダビングと子供のコーラスを重ねた豪華なサウンドになっている。ティムが歌唱する表題作以外は、ほぼハークのソロといってもいい内容で、ブルース・ハーク・アンド・ザ・ロボット・マン名義と、ソロ名義でそれぞれ3曲づつ収録。81年制作ということは『Bite』のころで、シークエンスのシステムもヴァージョンアップしており、本人がヴォコーダーで歌う「I Like Christmas」などはほとんどテレックスに迫る完成度。コードワークもハークの過去作と違い、テンション・コードが多用されたジャズのイディオムをふんだんに取り入れたもの。



『音の万国博ガイド』(朝日ソノラマ
「レコード 開かれた万国博」(朝日ソノラマ

拙著『電子音楽 in the (lost)world』のCDにも収録している、電子音楽の見本市の様相だった70年の大阪万博のドキュメンタリー・レコード2種。実は大阪万博の音が聞けるメディアはほとんどなく、拙著で紹介しているソノシート付き雑誌『朝日ソノラマNo.124』ぐらいと言われていたが、いろいろ関係筋に調査をした結果、同ソースを流用したものとしてこの2つが発見された。後者は『小学六年生』(小学館)70年7月号の付録(制作は朝日ソノラマ)で、『朝日ソノラマ』よりも開会式の電子音楽パートが長く、一柳慧黛敏郎らが曲を持ち寄ったといわれているお祭り広場のニューエイジ風の電子音楽も入っている。前者は万博開催期に出た『朝日ソノラマ』別冊の万博特集号。カラー写真集とステレオの2枚の「LPソノシート」で構成されている。ジェネオンから出た東宝映画『日本万国博』のフッテージを4枚のDVDに収めた『日本万国博DVD BOX』は、映画本編で一切使われていなかった会場音楽を収めた貴重な資料なのだが、音はモノーラルだったため、本作は唯一のステレオ録音記録になる。収録されたものの中で電子音楽関連を挙げておくと、富士グループの黛敏郎(『電子音楽 in the (lost)world』で元素材のEPを紹介)、四季の音を素材にしたミュージック・コンクレートのサンヨー館の音楽、間宮芳生サントリー館、黛のみどり館、伊福部の三菱未来館(これも拙著でEPを紹介)、鉄鋼館の武満徹クロッシング」などをハイライトに構成している。



あいたかし「素晴らしい明日を」(キングレコード

電子音楽 in JAPAN』で紹介している、冨田勲が輸入したモーグIIIが初めてポピュラー曲で使用されたシングル。ポール・コルバの外国楽曲を、『必殺仕置人』の音楽で有名な竜崎孝路がアレンジした2チャンネルのリズムに、冨田の義弟が経営していたインターパックにテープを持ち込んでモーグシンセサイザーの音をオーバーダブしたもの。制作はハルヲフォンのディレクターとして知られる井口良佐。カレッジ・フォーク的なメロディーを電子的にモディファイしたもので、例えればフィフティ・フット・ホースの日本版といったところ? コーラスも含め独特の位相処理が施されており、4chの専用装置で聞くと音が飛び出す、珍しい4チャンネル・レコードとしてカッティングされている。ちなみに、シンセサイザープログラマーは冨田スタジオ時代の松武秀樹。これに味を占めた竜崎は、テイチクにモーグ・カヴァー企画を持ち込んで、後に松武を迎えた『モーグサウンド・ナウ/虹をわたって』をインターパックで制作している。