POP2*5

過去にはてなダイヤリーで連載してた連載コラムのアーカイヴです。

誰でも上達する! POP2*5的「マンガの描き方講座」PART4

COMICSTUDIOPRO 4.0

COMICSTUDIOPRO 4.0

 先日いただいた、これまた別の「絵の仕事」(単行本)の準備のために、このところ図書館で大脳皮質や記憶回路にまつわる資料を読み込んでいる。その中に、「睡眠学習」にまつわる興味深い記述があった。試験の前日などに、一夜漬けで早朝ギリギリまで暗記勉強をするより、60%程度の学習基準でさっさと切り上げて熟睡して試験に臨んだほうが、テストの成績が遙かによかったという実験結果レポートである。昔から通販カタログなどに「睡眠学習セット」と称して、カセットデッキ付きの枕みたいな装置がよく載っていて、英語などの学習テープを再生しながら寝ると、知らないうちに単語が頭に入るという学習法があるというのは知っていた。しかし、周りで誰一人「それ使って東大受かった」なんて話聞いたことないから、臨床実験レベルではオッケーでも、実生活での効力は怪しいんだろうなと思っていたのだ。ところが90年代に入って「睡眠障害」などの研究の一環で、睡眠時の脳の働きや記憶のメカニズムなどが解明され、上記のような新しいレポートが発表されたのだそう。そもそも、脳という回路は、呼吸や体温、血圧のコントロールのために、寝ているときも24時間働いているもの。その分野でリードしているハーバード大学のスティックゴールドのチームによると、寝ている間に「記憶の再処理」「既記憶との関連づけ」が脳によって行われるために、とにかく起きてるうちに詰め込むだけ詰め込んで、一日最低6時間という適度な睡眠時間を取りさえすれば、効率のよい暗記学習が行えるのだという。「起きたら自然と頭に入っていた」という、ラクラク暗記術を身につけることはそれほど難しくないらしい。
 この「睡眠学習」については、大いに賛同するところがある。実はこうしてコミックブログを定期更新しているワタシだが、前身の「POP2*0」時代からの読者ならご存じの通り、このブログを3年前に始めるまでは、20年の編集者生活で絵を描くことなんぞほとんどやってこなかった。せいぜい、グラビア撮影のカメラマンとの打ち合わせ用に絵コンテを起こすぐらいで、それも年間に数度あればいいほう。20年の雑誌編集者時代で、うち10年間は確実にほとんど絵を描いたことがなかったぐらい。それがブログを始めるにあたり、なにかワタシにでもできることはないかと久々にペンを取って絵なんぞ描いてみたら、「あれれれ?」という感じで、頭に描いたものがそのまま描けちゃうという感動的な体験を味わえたのだ。根っからの文章型人間のくせに、それで調子に乗って、最近は「絵の仕事」まで始めちゃったというわけでして。
 と言っても、先日の「似顔絵のアナロジー」のエントリで説明した通り、似顔絵などを描く場合も、モンタージュの方法論などを用いて、極めてロジカルに描くタイプ。ワタシにとって「絵を描く」という行為はひとえに方法論の問題に過ぎないので、描いてきたキャリアはあまり影響しないのだろう。むしろ「睡眠学習」みたく、この20年でどれだけカッコイイデザインやカッコイイ絵を脳内にインプットしてきたかが重要で、それがきっと何らか影響して、「いきなりスラスラ描ける」という境地へと成就したのだと思われる。それと、「Comic Studio」というツール様々ですな。“書痙”という直線を描くと震えるようなビョーキ持ちのワタシのような人間のために、まっすぐな線が書ける「線補正機能」なんて、素晴らしい人間工学的な発明が盛り込まれているし。「Comic Studio」がなければ、こうして絵なんて描いてないとハッキリ言えるから。「まったく絵を描いてなかった人間」でも、最新のお便利ツールを使えば、誰でも“なんちゃってマンガ”が描けちゃうわけだから、むしろ「絵なんか描いたことない」という、映画マニアやデザイン好きなどの同輩に、ぜひ描くことをオススメしたいワタシである。
 「日常的に描いてないと腕が落ちる」という絵描きの話は聞くけれど、そうして考えてみると、ワタシのようなタイプには該当しないようだ。よくヒマさえあれば絵チャットなどで描いている人が大勢いるが、だからと言って同じような似たような絵ばかり何回描いたところで、画力が向上してるようには見えないしね。20巻ぐらいあるコミックスとかでも、作者がすっかり手練れ状態で描いている後半よりも、やっと満足に描けるようになったぐらいの8、9巻あたりのキャラクターの絵のほうが新鮮だったりするってことあるでしょ。「絵を描きすぎて逆に鮮度がなくなる」って感覚、他の絵描きの人はあまり感じないのかな?(これ「絵チャット全否定」じゃないので、あくまでメリットあってのデメリットということだから、理解のほどよろしく)
 これはワタシだけかも知れないが、「絵を描く」という行為自体にわりとすぐに飽きてしまうところがありまして。よっぽど面白いプロットを思い付けば描く口実になるけれど、一枚絵を何時間もかけて色塗りするような集中力はまったくない。よく「美人は3日で飽きる」なんて言うけれど、カワイコちゃん画みたいなものも、描けたところでナンボのもんじゃいというところがあるし。ここに載せてるコママンガだって、思い付いたストーリーを絵にする感動に突き動かされて描いてるだけ。鉛筆下書き→ペンで清書なんてプロセスがうざったいんで、いきなり白紙から描き始めて、はみ出しの修正もしない。しかしそれが、なんかマンガを描くことの新鮮味を維持できている理由になっているというか。だからできるだけ、ワタシは必要がないときは絵は描かない。絵の世界にも「睡眠学習」みたく、そのような「描かない期間に熟成されるセンス」というのもあると思うんだけど、皆さんの意見はいかがでしょうか?


 またまた時間繋ぎの、過去の「pi●iv」投稿作品の再掲載ですみませぬ。「ガスパッチョ」のキャッチコピーでおなじみ東京ガスのCMのパロディで、昨年末に描いたもの。


可愛すぎて死にそう(笑)。