POP2*5

過去にはてなダイヤリーで連載してた連載コラムのアーカイヴです。

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『CADMUS le robot de l'espace』(Philips

ガリバー旅行記』などのラジオドラマを出している、フィリップスのカラー絵本着き10inchお話レコードの一枚。脚本はジャン・ジャック・オリヴァー、構成は『フィフィ大空をゆく』(65)などを手掛けている監督のアンリ・ガリュエル。音響構成をなんと、ディズニーランド「エレクトリカル・パレード」のテーマでおなじみジャン・ジャック・ペリーが担当している。米国移住前の仕事ゆえ、使用楽器は自国の電子楽器のルーツ、オンディオライン。だが、ワープ航法音、空中浮遊音などのSEから、サスペンス調のサウンドトラックまで、チープな音でも構成によってスリリングになることを証明している。声優陣は、ルシアン・ナットに、『悪魔のような女』の名脇役、ジャン・プロシャールほか。


ジャン・ジャック・ペリー『Prelude Au Sommeil』(Procédés Dormiphone)
Jean J.Perry/Prelude Au Sommeil

電子音楽 in the (lost)world』でも、米国移住前の『Musique Electronique Du Cosmos』などのオンディオライン時代のライブラリー盤を紹介しているが、これは刊行後に見つかった、同じく仏時代のディスク。「睡眠のための前奏曲」というタイトルでわかるようにミューザック使用を目的とした“睡眠のための音楽”で、AB面とも25分の長尺のニューエイジアンビエントが展開されている。ドローンによる絹ごし豆腐のような音はビロードのような繊細な煌めき。中間部にはファニーな映画のサウンドトラックのようなフレーズも登場する。



『奥斯卞電子琴音楽 第九集 大江東去』(Jiafeng Records Ltd.)(64)

台湾産のモーグ・ミュージック盤。表題曲は大衆歌謡作家、蘇東坡のペンによるもので、同曲を含む国内国外の映画音楽を集めて、バンドアンサンブル+ハモンドシンセサイザーで構成している。「クワイ河のマーチ(桂河大橋)」はムーギーなファンク、「雨にぬれても(虎豹小覇王)」は雨音をシミュレーションした可愛い演出やリリカルなメロディーの佳曲、「避暑地の出来事(畸戀)」はしっかりとしたリズムボックスサウンドで、かなりテレックスに迫る完成度。全編にミュート・トランペットを模したメロディーが被さり、ファニーな仕上がりの印象を残す。64年製造となっているが、シンセ誕生以前ゆえにクレジットはかなり怪しい。


ニュー・ソニック・アンサンブル 『カーペンターズ・イン・ニュー・サウンド』(CBSソニー)(74)
New Sonic Ensemble/Carpentars In New Sounds

同社の新感覚派のためのイージーリスニングを目指す、ニュー・ソニックシリーズの第1弾。カーペンターズの代表曲を、歌謡曲畑の編曲家・高田弘と、矢島賢夫人のオルガニスト田代ユリが編曲。『電子音楽 in JAPAN』でもインタビューを取り上げている、シンセ音楽評論家の和田則彦がマニュピレーターとして参加している、おそらく唯一のレコードである。楽器はミニ・コルグ700S、ローランドSH1000、SH3を使用。主たるアンサンブルには、ヤマハのエレクトーンSX-42が活躍している。「愛のプレリュード」「愛は夢の中に」「雨の日は月曜日は」など、実はアメリカでもモーグ・カヴァー盤の多いロジャー・ニコルズ作品が多めに選曲されているのが嬉しい。



エリック・シデイ『Musique Electronique』(Inter Art Music)(60)
Eric Sidey/Musique Electronique

モーグシンセサイザーのプロトタイプを購入した2人目の顧客として知られるTV、CM音楽家、シデイの英国時代の作品。30年代に実験音楽を始めた人で、ここでもオンド・マルトーノなどの黎明期の電子楽器を使ったポップな展開のミュージック・コンクレート曲を披露している。本作は78回転の10inchで、各曲が1分程度のライブラリー盤。「Sliding Thirds」パーカッションのループ・テープにブラスが交錯する渋い前衛曲。「Announcing」はオンド・マルトーノによるミニマルなフレーズに導かれ、黒澤映画のサスペンス曲風のリズムが展開する。「Space Agitato」はジョン・ケージの影響を受けたプリペアード・ピアノによる未来派風の曲。終幕を飾る「Mood Six」は驚くほどメロディーが伊福部昭しているのだが、ひょっとしてシデイは日本映画通だったのか?



『The Greater Antilles Sampler』(Antilles)(76)

アイランド、ヴァージンなど英国のアーティストを積極的に紹介していたアメリカのレーベル、アンティレスのコンピレーション盤。ニック・ドレイクスティーヴ・ウィンウッドグリムスなどのポップ系から、ジョン・ケージ(イーノプロデュースの「Experiencec #1」)、ドン・チェリー・トリオ、フリップ/イーノ、喜多嶋修(「弁財天」)など22曲を収録している。このうち、デヴィッド・ヴォーハウスのホワイト・ノイズ「Love Without Sound」のみ、なんとアルバムと別ヴァージョン。モノーラル・ミックスゆえ、シングル用として制作されていた発掘音源か? ちなみに、ホワイト・ノイズは第2作以降はシンフォニックな編成に変わるが、『An Electric Storm』時代のリズミックなサウンドは、大半がBBCラジオフォニック・ワークショップのデリア・ダービシャーの仕事だった模様。