POP2*5

過去にはてなダイヤリーで連載してた連載コラムのアーカイヴです。

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ヴィンセント・プライス『Witchecraft〜Magic An Adventure In Demonology』(69)(Capitol)
Vincent Price/Witchecraft〜Magic An Adventure In Demonology

エドガー・アラン・ポーの『アッシャー家の惨劇』ほか、FOXのホラー映画で一時代を築いた名優、ヴィンセント・プライスの語りによる2枚組の朗読レコード。悪魔研究のテキストの講義という設定で、ストーリーテラー役のプライスが進行役を務め、魔女役の声優によるダイアローグと電子音響による演出で聞く者を戦慄させる。ロンドン生まれのイエール大卒のインテリゆえ、プライスの英国なまりの朗読がシックな雰囲気。全編に凄まじい電子ノイズがコラージュされているが、音響構成はUCLA大学で教鞭を執っていた、同電子音楽スタジオのダグラス・リーディーが務めている。初の商業仕事がこれで、リーディは本作をきっかけにクリスマス向けのモーグ・レコードなどを手掛けることに。有名なBBCラジオフォニック・ワークショップが制作した怪談レコードに匹敵する出来。後のゴブリンらによって極められる、電子音によるホラー演出のルーツはここにありという感じ。



マーティン・モンシェール『Dela Musique & Des Secrets Pour Enchanter Vos Plantes』(78)(Tchou)
Martin Monesier/Dela Musique & Des Secrets Pour Enchanter Vos Plantes

サボテンや観葉植物など、植物の成長に音楽が影響するという実験は昔からあり、電子音楽作家のモート・ガーソン『Plantasia』ほかレコードも多様にあるが、本作は欧州のライブラリー作家として著名なロジェ・ロジェが音楽を制作したフランス産の植物のためのBGM。アシスタントは盟友、ニノ・ノルディーニ。A面はオーケストラから始まり、電子音によるバロックインド音楽風のエスニック、ショパン風と変幻自在なモンタージュで構成。一転してB面は、長編のニューエイジ風の仕上がりで、フランス近代音楽風のメロディーも飛び出す品の良さを伺わせる。



『The Witch's Vacation』(73)(Scholastic)
日本ではソニーマガジンズが紹介している『クリフォード』シリーズで有名な絵本作家、ノーマン・ブリッドウェル原作による、2色刷り絵本+7inchシングルのセット。プロデュース&監督はドン・モルナー、TV版『M★A★S★H』に出演していた女優インディラ・ダンクスがストーリーテラー役を務め、彼女の朗読による6分半のオーディオ・ドラマを収録している。『奥様は魔女』の音楽を電子化したような、カートゥーン・ミュージックのような激しいコラージュはなんと、ディメンション5で子供向け電子音楽の数々を手掛けるブルース・ハーク。ニュージャージーにある同社の出版物には、この他にもハーク作品があるらしい。A面は左トラックに音声、右トラックにページめくりのシグナルを収録。B面は同素材のモノーラル版。


『Electronic Music』(Pathways To Music)

西ドイツのピエール・シェフェールの著名な講義レコードなど、電子音楽史をハイライトで構成した盤は欧州には数々あるが、これはフォークウェイズの『Sounds Of New Music』などに連なる、アメリカから見た電子音楽史のドキュメンタリー・レコード。プロデューサーはニック・ロッジ、トム・ディクソンのナレーションで綴るヒストリーを軸に、歴史的な音源が紹介されている。A面は、電子音楽前史にあたるジョージ・アンタイルのプロペラエンジンを使った名演「バレエ・メカニック」から始まり、シュトックハウゼンより先にウサチェフスキー&ルーニングの「TAPE RECORDER MUSIC」が紹介される独自な構成がいかにもアメリカ産。シェフェール「汽車のエチュード」、シュトックハウゼン「習作I」などの既成曲のほか、オンド・マルトーノのノイズ発声の実演や、ピアノのスピード変調による音の変化などのチュートリアル素材も収めている。B面はワイヤー・レコーダーに始まる録音史で、プリンストン大学の有名なテープ・ミュージック・コンサートがハイライト。シンセサイザー時代まで扱っているのが珍しく、ロバート・モーグの装置によるサイン波の発生、モートン・サボトニックによるブックラ曲で幕を閉じる構成になっている。



オスカー・サラ『Electronic Virtuosity By Osker Sala』(Selected Sound)
Osker Sala/Electronic Virtuosity By Osker Sala

ヘンズ・ファンク作品などを紹介しているドイツはハンブルグのライブラリー会社からの、ヒッチコックの映画『鳥』の音響担当でおなじみ、オスカー・サラの珍しい単独アルバム。フリードリッヒ・トラウトヴァインが30年代に発明し、ナチの要請でテレフンケンが開発援助した、ドイツ産の電子楽器「トラウトニウム」による名演集。サラ名義のアルバムは、師匠のヒンデミット曲を取り上げたものが多いが、本作はすべてオリジナル。A面は「Resonances」、B面は「Suite For Mixture-Trautonium And Electronic Percussion」の2つの組曲で構成されており、後者はチープな電子音によるリズム・アンサンブルが非凡な出来。A面(組曲)の終幕を飾る「Ostinato」のストリングスの模写が素晴らしく、まるでゴドレイ&クレーム『ギズモ・ファンタジア』みたい。



クリストファー・ライト『One-Man Band』(85)(Kicking Mule Records Inc.)
Christopher Light/One-Man Band

これは珍しい、アップルIIのみによる民謡音楽集のレコード。アップルII+D/Aコンバータを基幹システムに、「Electric Diet」「A.L.F」などの演奏及び音色作成のソフトウエアが使用されている。A面はアメリカ曲、B面はアイルランドスコットランドの名曲で構成。フィドルの模写によるラグタイム音楽や、ホワイト・ノイズによるドラム・ロールの再現など、なかなか芸が細かいが、コンピュータ・ジェネレート音によるノンエコーの音は、8ビット時代ゆえ、ファミコンのPSG音源のようなチープさ。有名な「勇敢なるスコットランド」のバグパイプ模写など、倍音構成は見事だが、全体的にはコミックな仕上がりでノベルティ音楽風の雰囲気。



『マジック・ランタン・サイクル・ケネス・アンガー作品集(完全版)』(86)(アスミック)
Kenneth Anger Complete Collection Magick Lantern Cycle
電子音楽 in the (lost)world』のP68ページ4段目の作品は、実は解説文と写真が合っておらず、改めて訂正のためにこちらに正解の写真を載せておく(ちなみにP68の写真は『囚われの女』のサントラ盤)。ケネス・アンガーは30年生まれのアメリカの実験映像作家だが、フランスで地下出版した『ハリウッド・バビロン』の編集者として悪名を轟かす。表題作を始め、現存する彼の実験的な短編映画9作品を収めたレーザーディスクが本作だが、ハイライトはミック・ジャガーが所有するモーグシンセサイザーで自ら演奏した、全編電子音のサウンドトラックが聴ける11分の短編『我が悪魔の兄弟の呪文』(69年)だろう。同時期にアメリカでモーグを購入しているジョージ・ハリスン電子音楽の世界』と対称的な、デタラメなホワイト・ノイズと暴力的なモジュレーション音の応酬に。ほか未収録だが、ケネス・アンガー作品にはハリー・パーチが音楽を務めた短編もあるらしい。


『パフォーマンス/青春の罠』(70)(ワーナー・パイオニア
Performance

こちらもミック・ジャガー関連のモーグ盤。ニコラス・ローグ監督のミック主演による本作でも、ジャック・ニッチェが音楽を務めたサントラに、ミック所有のモーグ・モジュールが使用されている。ランディ・ニューマンライ・クーダー、ゴスペルなどのアーシーな音と、モーグの電子音のコラージュが異色にして美味。ジョージ・ハリスンのようにビートルズ全作品で使い回さず、ほぼこれ一作で使い切っているミックの姿勢に天晴れ。サーフ&ロッドの編曲家として名を挙げたジャック・ニッチェだが、本作以外にも、ウィリアム・フリードキン監督の『エクソシスト』でも、グラスハープによる音響系のサントラを提供している。



コカ・コーラCMソング集1962〜89』(05)(ジェネオン
Commercial Songs1962-89

大瀧詠一三ツ矢サイダーのCMなど、日本のCM音楽界で一時代を築いた音楽プロデューサー大森昭男率いる「ONアソシエイツ」が手掛けた、歴代のコカ・コーラCM曲を集めたもの。アメリカでもコカ・コーラCM集は出ているが、歴代曲の大半がCM用に録り下ろしによる贅沢なシリーズで(マイケル・ジャクソン「ビリー・ジーン」、トンプソン・ツインズ「テイク・ミー・アップ」などが同カラオケで歌詞違いで聴ける)、母国の伝統を受け継ぎ、ここに収録されている曲もすべてがCM用の特別録音。テクノポップ関連では、『アマチュア・アカデミー』期のムーンライダーズ曲「Coke Is It!」(84年)収録。続編の『コカ・コーラCMソング集Super More』(06年)には、坂本龍一編曲による南佳孝「クレッセント・ナイト」のアレンジを使用したヴァージョンや、久保田真琴今井裕(イミテーション)によるサンディーソロ曲などを収録。なお、「ONアソシエイツ」制作音源を収録したCDには、ほか大瀧詠一『ナイアガラCMスペシャル』、坂本龍一『CM/TV』、FCのみの発売だが『山下達郎CM全集 Vol.1、Vol.2』などがある。



黛敏郎リズムくんメロディーちゃんこども音楽教室』(71)(講談社キングレコード

「ミュージックコンクレートのための作品 XYZ」(ミュージック・コンクレート)、「7のヴァリエーション」(電子音楽)など、日本の実験音楽の始祖として知られる黛敏郎が監修した、LP10枚組の児童向け教育レコード。川崎洋谷川俊太郎らを構成者に、黛自身がナビゲーター役をつとめ、岸田今日子中村メイコらが演ずる子供たちに音楽の素晴らしさを説いていく。日本万国博の興奮さめやらぬ時期の企画ゆえか、冒頭の第1部「耳をすまして」でのっけから武満徹「水の曲」、エドガー・ヴァレーズ「イオニザシオン」、ルロイ・アンダーソン「タイプライター」などを抜粋して講義。時報やエレクトロニクス、水流音などを掛け合わせた、黛「音を素材としたミュージック・コンクレート」は本作のためのオリジナル曲。第12部「電子音によるこどものためのダイス・ファンタジー」は、ジョン・ケージ「易の音楽」のような、付録のサイコロを使った自動作曲のための講座で(なんという前衛ぶり!)、電子音とホワイトノイズを素材に、エコー処理したドラッギーな音響構成にウットリする出来。ほか、同社の小泉文夫コレクションを抜粋した第10部「世界の音楽めぐり」、スリーグレイセス「明治チョコレート」などのCM音楽など、子供に独占させとくのはもったいないほどのアカデミズムへの配慮に思わず唸る。



東京オリンピックNHK放送より》』(65)(日本コロムビア
TOKYO 1964
64年の10月10日〜24日に開催された、東京オリンピックNHK放送に残された実況音声を5枚組のLPにまとめたボックスセット。『電子音楽 in the (lost)world』では、開会式でかかった黛敏郎電子音楽「オリンピック・カンパノロジー」が収録されているのはカルピス・フォノシートのみと記載していたが、刊行後に本ボックスの存在を確認した。NHKの鈴木文也のナレーションのバックに、梵鐘をコラージュした轟音、低周波ノイズの唸りなどが会場全体に流され、その前衛的な演出に世界の観客が戦慄したという貴重なドキュメント。「オリンピック・カンパノロジー」は、NHK電子音楽スタジオの技師だった塩谷宏の作品集CDでも聴けるが、音の届く距離や反響制分などから逆算して作られた同曲は、エコーをともなったこのテイクが完成型。古関裕而「オリンピック・マーチ」や陸上自衛隊音楽隊の演奏など、いずれもフルサイズで収録しているのがありがたい。


東京オリンピック』(65)(キングレコード
TOKYO OLYMPIC

本作は実況レコードではなく、前年に行われた東京オリンピックの模様を収録した同名の東宝映画のためのサウンドトラック盤。市川崑が監督した本編も前衛的演出で賛否両論を巻き起こしたが、サントラ本体もかなり異色。同開会式のために「オリンピック・カンパノロジー」を提供した、黛敏郎による書き下ろしのオーケストラ曲で構成されているのだが、なんと、レコード自体は実況録音を素材につかったミュージック・コンクレート作品になっている。モノーラルの元素材を電気的にモディファイし、冒頭からバレーボールの歓声やアタック音などをステレオ・アクションで構成。寺山修司「ボクサー」やゴダール「ヌーヴェル・バーグ」などを連想させるソニック・コラージュの秀作として、いま改めて評価すべき一枚。