POP2*5

過去にはてなダイヤリーで連載してた連載コラムのアーカイヴです。

テレックス『イズ・リリース・ア・ユーモア?』(アルファレコード)

 アーカイヴページでもインタビューを掲載している「ベルギーのクラフトワーク」ことテレックスのリミックス・アルバム。後にテクノ・レーベルのR&Sからもインターナショナルなリミックス盤が出ているが、それに先行して制作された国内企画である。これは、アルファレコードが先導した90年代のテクノ・リバイバルのころに、ディレクター氏のほうにテレックスの復刻の話が持ち込まれ、その辺の事情に詳しいということで、当時週刊誌で音楽担当をやっていた私にブレインとして関わってほしいという依頼があったもの。どういう形で出すのが効果的なのかを検討した結果、初期の『テクノ革命』『ニューロヴィジョン』(本邦初リリース)のみに絞り、それだけだと地味なので、話題作りとしてリミックス盤を作ることになった。だが、当時レイ・ハーンがコーディネーションを担当していた同社の「90sシリーズ」の質に懐疑的だった小生は、リミックス企画には当初かなり消極的であった。また、当時はバブリーなプロデューサー・ブームというのもあったため、クレジットは「タイトル&コンセプション」にしてもらった。
 選定させてもらった参加メンバーは、松前公高氏(コンスタンスタワーズ/エキスポ)、小西康陽氏(ピチカート・ファイヴ)、砂原良徳氏(電気グルーヴ)、戸田誠司氏(フェアチャイルド)、ヤン富田氏の5人で、これに松前氏のリミックスをリ・リミックスした、当時アルファレコードのミキサーだった寺田康彦氏(スーサイド・エレクトロ)の計6曲を収録。砂原氏はこれが初リミックス仕事。小西氏のヴァージョンのみ、後にベルギーのR&Sから出たリミックス・コンピレーションにも再録されている。松前氏は『TECHII』編集者時代からの友人、戸田氏は『TECHII』時代に連載を担当してた縁からお願いしたもの。ヤン富田氏に仕事をお願いしたのはこれが初めてだったが、THE KLF『CHILL OUT』も真っ青の15分に及ぶプログレッシヴな長編作品に仕上がったのには驚いた。凄いっすよ、この完成度は。この一曲が私のリミックス観を変えてしまったほど。
 ジャケットはマンガ家の江口寿史氏の書き下ろしで、こちらからアイデアをリクエストした、いわずもがなの『タンタンの冒険』のパロディである。ところが、発売後にエルジェの日本の代理店からクレームがくる一騒動もあったりして、後処理が大変であった(苦笑)。デザインは、拙著『電子音楽 in JAPAN』などのアートワークを担当し、最近は細野晴臣のラジオ番組の構成や、デイジーワールドから「バカボンドc.p.a.」なるグループで音楽作品も出している、ズバイ・スタジオの岡田崇氏。美術出版社から出た江口氏の作品集『江口寿史の世界』にもジャケットが掲載されているが、こちらに載っているのはなんとオリジナルの線画のみで、実際にジャケットになったカラー・ヴァージョンは、締め切り大幅遅れで上がってきた江口氏のイラストを速攻で引き上げて、岡田氏にコンピュータ着色してもらったものである。
 そもそもテレックスの再発の話というのは、セルジュ・ゲンスブールの日本代理店から持ち込まれたもの。フランス文化庁の関連機関でもあった代理店がアルファに持ち込んだ流れというのは、慶応の仏文科出身が多く、ミッシェル・ルグランのサポートなどに努めてきたアルファレコードの伝統そのもの。ディレクター氏の奥方もその一人で、よって仏語に詳しい彼女の意向もあって、それまで日本の雑誌では英語発音表記が多かったメンバー名をすべて仏語表記に統一している(ex.マーク・モーリン→マルク・ムーラン)。また、時効と言うことでお許し願いたいが、いくつかこぼれ話もある。当初のリミックス・メンバーに中野テルヲ氏(元P-model)を入れていたのだが、『カルカドル』〜『ワン・パターン』時代にP-modelがアルファレコードと完全決裂してしまった関係で、残念ながらディレクター判断でオミットされた。これは悲しかった。ほか、テレックス『ニューロヴィジョン』の仏語版に、フランスのアイドル、リオが声で友情出演しているのをもじって、各曲のブリッジにカヒミ・カリィのナレーションを入れるアイデアを提案したが、これは実際に依頼して断られた。また、現在はリミキサーとして世界的に高く評価されているコーネリアスこと小山田圭吾氏にも実際には依頼していたのだが、「リオならやりたんだけど……」と断られたのも残念であった。
 このアルバムを見かけないという話はよく聞くが、それもそのはずで、リリース4ヶ月後にアルファレコードが倒産し、回収破棄の運命を辿っているのだ。ちなみにタイトルは、復活したばかりだった再生YMOの「ポケットが虹でいっぱい」のシングルジャケットの惹句のもじり。「リリースするのはユーモアなの?」という疑問符は、YMO再結成に対する異議申し立てのようなつもりでつけているのが、青臭くてなんとも……(笑)。