POP2*5

過去にはてなダイヤリーで連載してた連載コラムのアーカイヴです。

玉木宏樹&ヒカシュー、ブリッジ再発シリーズのお知らせ。

TIME PARADOX

TIME PARADOX

雲井時鳥国(紙ジャケット仕様)

雲井時鳥国(紙ジャケット仕様)

存在の詩(紙ジャケット仕様)

存在の詩(紙ジャケット仕様)

 「第4のYMO」と呼ばれたプログラマー松武秀樹氏のユニット、ロジック・システム東芝EMI時代の復刻や新作、昨日紹介した安西史孝らのTPOなど、ユニークな再発モノを一手に手掛けるレーベル、ブリッジ。YMOのマネジャーを経て、ノンスタンダード・レーベルを率いていたこともあるI氏が運営する会社だが、昔オレンジ・パラドックスというマネジメント会社を経営していたこともあり、当時の所属アーティストだった鈴木さえ子、リアル・フィッシュ、小川美潮(チャクラ)などの近年の再発モノも同社で行っている。たまたま小生が関わっているジャンルと親和性が高いこともあり、ライナーなどのお仕事をちょくちょくいただいているのだが、TPO以降もなかなか個性的なリリースものが続いている。今回はその中から2シリーズ、強力な内容のものを紹介する。
 一つは、円谷プロ怪奇大作戦』、時代劇『大江戸捜査網』のサウンドトラックでおなじみ、作曲家兼ヴァイオリニストの玉木宏樹が70〜80年代にリリースした、ソロ・アルバム3タイトルの復刻。もともと東京芸大卒のクラシック畑出身だが、山本直純の門下生からスタジオ・プレーヤーなどの商業仕事を始めた方で、『大江戸捜査網』では時代劇に西部劇のようなサウンドのフレーヴァーを持ち込むなど、個性的な音楽設計で知られている。数年前、JR中央線駅構内での飛び降り自殺が続いた折り、その原因として「駅構内のBGMの無計画な設計が原因ではないか?」と提唱し、ワイドショーでも取り上げられたこともあった玉木氏。エッセイの名手としても知られ、現在使われている平均律のスケールを否定し、「純正律」による音楽を普及していることでもおなじみである。その足跡はジャン・リュック・ポンティになぞらえるのが相応しいほど、ロックに理解ある作曲家で、先の松武秀樹氏のロジック・システムのデビュー作『ロジック』でも、欧州ニュー・ウェーヴに影響を受けた全体のサウンドに併せて、まるでウルトラヴォックスのビリー・カリーのようなプレイを披露していた。松武氏とは70年代にモーグシンセサイザーを使った実験的なセッションを繰り広げており、今回再発されたその時期の作品『タイム・パラドックス』は、日本のプログレッシヴ・ロックのコレクターの間では名盤と呼ばれ、ずっと高価で取引されてきたもの。同作は一度、音楽評論家の湯浅学氏がブルース・インターアクションズでCD化を果たしたことがあるが、それもすぐに廃盤に。今回は『タイム・パラドックス』、それに続いてCBSソニーからリリースされたライヴ盤『雲井時鳥国』、再び『タイム』と同じ日本コロムビアに戻って制作されたスタジオ盤『存在の詩』の3タイトルが、まとめて紙ジャケットで復刻される。この3枚、拙著『電子音楽 in the (lost) world』でも取り上げた縁もあって、今回もジャケット素材貸し出しなどで協力させていただいた。『タイム・パラドックス』のプログラマーは松武氏だが、次作『雲井時鳥国』は松武氏と当時ローランドで仕事をしていた安西史孝氏がプログラミングを担当、『存在の詩』のプログラマーは安西氏が受け継ぐなど、小生も縁の深いロジックとTPOの両方のスタッフがグラデーション状に関わっており、そういう意味でプログラマー史を一望できる興味深い3部作になっている。『タイム・パラドックス』はすでに発売中だが、あとの2作は今月27日に同時リリース。3タイトルすべてを購入された方には、スペシャル音源を収録したスペシャルCDがもらえる特典もあるそーな(内容は言えないのだが、すんごい出来らしい)。
 もうひとつは、今年で結成30周年を迎える「テクノポップ御三家」のひとつ、ヒカシューの紙ジャケ復刻。実は東芝EMI時代に、ゲルニカ太田螢一氏がジャケットを描いた『うわさの人類』のみが紙ジャケされているという変則的な復刻状況があり、今回は東芝時代のカタログの中からそれを除き、初の紙ジャケ化になる『ヒカシュー』、『夏』(以上発売中)、アルバム未収録曲を含むベスト『ヒカシュー・スーパー』、リーダー巻上公一氏の2枚のソロ『民族の祭典』、『殺しのブルース』と、11月にかけて5タイトルが復刻される。『ヒカシュー・スーパー』は初CD化、『民族の祭典』は『殺しのブルース』リリース時に一度CD化が叶ったが、デザインが改訂されていたため、オリジナルのアナログLPと同デザインでの復刻はこれは初となる。ヒカシューは私も特に思い入れが強いグループで、一昨年、我が愛するキリング・タイムから清水一登が加入したときは感激したものだ。拙著『電子音楽 in JAPAN』でも結成までのヒストリーを取り上げており、『ヒカシュー』、『夏』の初期2タイトルは、ニッポン放送の『オールナイトニッポン』などでパワープレイされていたので、特に思い出深い。アマチュア時代の曲をリメイクした『ヒカシュー』も素晴らしいが、わずか4ヶ月後にまったくストックがない中で制作された『夏』の、この異常な名曲揃いと高いテンションは、初めて聴いたときの興奮が今でも蘇る。
 熱心なヒカシューファンならご存じだと思うが、当時のライバル的存在だったP-MODELの全CD BOXが通販でリリースされた後あたりに、一度、ヒカシューもCD BOXをリリースする計画がネットで告知されていた。ところがメーカー側のほうで、さまざまな障害があって果たせず、巻上氏のブログでも憤懣やるかたない心情が語られていたのを覚えている。そういう意味で30周年のアニバーサリー年に、もっとも入手困難になっていた初期のアルバムがまとめて復刻されたのはありがたい。まだ初期2タイトルしか現物は手元にはないが、今回改めて巻上公一氏による書き下ろしライナーが付属しており、あまり知られていない制作時のエピソードが語られている。ワタシのような資料収集癖のある者には、このために買ってもいいと思うほど、重要な証言が書かれている貴重なもの。続きを読むのが楽しみである。ぜひこの機会にご購入いただきたい。


ヒカシュー

ヒカシュー

夏