POP2*5

過去にはてなダイヤリーで連載してた連載コラムのアーカイヴです。

『CDジャーナル』7月号「電子音楽の世界」ほか、近況報告。


 すいません。今回は宣伝のための更新です。このところ関わっていた仕事が、立て続けにまとまってリリースされたのでその告知をば。
 まずは『ストレンジ・デイズ』8月号の「ZTT特集」のパート2で、「初期ZTTレコードの核=フェアライトCMIと英国ロックの伝統」という論考と、数枚ほどアルバム解説を執筆。ZTTに関する評論文は数あれど、フェアライトとの関わりに絞って書かれた文章というのは過去に読んだことがなかったため、私なりに資料をあたって書いてみたもの。テクノポップ専門を名乗るライターに、楽器についての知識を有する書き手が少ないことは、前身のブログ「POP2*0」時代にも書いた通りだが、『BECK』レベルのギターの知識を書ける一般音楽ライターとて多くはないし、ヴォーカリスト作品についてもせいぜい歌詞などの可視的なものを論拠にするだけで、肝心の声質の分析に踏み込める人も寡聞にして知らず。まあ、日本でテクニカルな視点の音楽評論が育ってこなかったのは今に始まったことではないが、「テクノロジーの権化」ともいうべきテクノポップというジャンルの評論においてまで、「DTMも電子楽器もよくしらない」という書き手ばかりなのはいかんともしがたい。そういう状況を鑑みて、編集業の片手間で近年ライター仕事を始めたワタシでありまして、せっかくの機会なのでと編集長にお話し、「ZTTとエクイップメント」というテーマで書かせていただいたものである(岩本編集長もメロトロン収集家として有名なのだ)。青年時代、安西史孝氏の文章などを読んで電子楽器を習熟していったワタシら世代にとっては、同じシンセサイザーといってもモーグとアープにしたって、ストラトテレキャスぐらいまったく別物。つまり別の楽器と言っていいほど、背負っている歴史も果たしている使命も違うのである。今回の寄稿では、そのへんを主題に据えて、フェアライト、シンクラヴィア、イミュレーターなどの8ビット時代のサンプラーが、それぞれ別の社会背景の中で普及していったことについて論考してみた。
 以前、「唯ちゃんがレスポールでデジロックやって何が悪い」とさんざん悪口書かれた当ブログであるが、楽器知識が必須だと押しつけるつもりはなくて、あまりに「知らなくても書ける」「オレってエライ」って書き手が多すぎるから。楽器に無頓着でテクノロジーにも無関心。抽象表現で感想文ばかりを垂れ流すみっともない輩が、『ロッキング・オン』を「日本を代表する音楽雑誌」に太らせてしまったわけで。近年ネットとかで見かけるロキノン批判にしても論拠が曖昧で、「ロキノン読者の権化のような男がロキノン批判する」鈴木謙介みたいな、天に唾する自己愛男の茶番もけっこう多いから。そういう意味で、多数派と相対的に楽器側から切り込むという、謙虚さがあってもいいでしょうぐらいのつもり。人材育成がテーマの編集者にとっては、潜在的な能力を秘めた「通りすがりの書き手予備軍」を、こうやってネットなどで刺激して才能を開花させるのもお仕事の一つなので。『ストレンジ・デイズ』に書くのは、一風堂の再発時の同窓会記事、昨年のA4時代の『鉄腕アトム』特集以来3度目だが、次号の「ZTT特集」パート3でも引き続き書かせていただいているので、発売されたあかつきには手にとってやってくだされ。


CD Journal (ジャーナル) 2009年 07月号 [雑誌]

CD Journal (ジャーナル) 2009年 07月号 [雑誌]

 同じ20日に発売された雑誌をもうひとつ。ワタシとしては初参戦になる老舗雑誌『CDジャーナル』で、7月号の特集「電子音楽の世界」に2ページほど書かせてもらった。クラシック、ジャズからJポップまでを抑える総合誌らしく、現代音楽からジャズ、子供番組、歌謡曲からPerfumeまでを一望できる20ページの大特集。小生はそのうち、前半部の「日本の電子音楽」を担当している。「現代音楽」「ジャズ」「アンビエント」「童謡」「テクノポップ」などにジャンル分けされたカテゴリの一つなのだが、いわばワタシの担当ページはそこから漏れた全史をフォローする役回り。わずか2ページでそれをまとめるのはなかなか骨が折れる作業だったが、落語の三題噺みたいに、『スイッチト・オン・バッハ』から冨田勲の時代、Perfumeまでの歴史をコンパクトに、必然の帰結みたいなプロットでまとめてみたので、ぜひチェックあれ。
 して、実をこの特集で初めて、「文章とマンガ」という立場で雑誌デビューを飾らせていただきまして。「まんが冨田勲」をテーマにした挿絵もワタシ自身が執筆。勢いで描いたものなのでお恥ずかしい限りだが、「絵も描く音楽ライター」っていう存在はけっこう珍しいと思うので(イメージとしては映画評論家の野口久光先生なのだが、育ちが悪いので、悪口をエンタテインメントへと昇華した、尊敬するナンシー関氏の音楽版を目標にがんばれればいいなと)、これを読んでご興味いただいた方がおられれば、ぜひ使ってやっていただけると嬉しいです。
 近々リリースされる『TV Bros.』の音楽特集でも声をかけてもらいまして、「文章とマンガ」で同誌に初寄稿。こんなおぼつかないセミプロ絵師を使っていただける、度量の深い雑誌界の皆様には頭があがりませぬ。以前報告した、ワタシがデザインを担当するCDジャケットも現在進行中でありまして(プレスリリース用の挿絵のみ入稿済み。ショップには近々配布される予定)、こちらも発表の目処が経ってきたら、当ブログでご報告できれば幸いである。なにとぞ、よろしく。



小生担当ページはこんな感じ。モノクロで描いたイラストがカラーで印刷されているマジックは、まるでフーリエ変換(違うか)。別ページには大野松雄氏のインタビューもあるでよ。