POP2*5

過去にはてなダイヤリーで連載してた連載コラムのアーカイヴです。

優木まおみとカニチップ




 数日前、JASRAC DISCO氏がブログに書いていた「萌え現象とは、クラブのようなもの」という文章を読んで、「最近の萌えアニメのキャラクターは全部蟹顔だよな、たしカニ」と気づいた小生。昨晩さっそく「カニ萌えマンガ」を描いてみたけれど、舌の根も乾かぬうちにカニチップの話題に転じていくなど、なんと安直なのだろう。といっても、ある程度意図してのものであって、できるだけここのマンガは無意味でナンセンスであるべしという、理想を掲げてやってるところがありまして。だから、自虐ネタでマジ切れされても本当に困る(笑)。
 実を言うと、ある程度定期読者がついていた「POP2*0」という前身のブログを閉鎖して、URLも全取っ替えして始めようとしていたウェブコミック連載(ここでは仮に「POP3*0」とでもしておこう)にしても、「できるだけ書き手の素性、本音がわからないようなものにしよう」というのが、当初から持っていたヴィジョンであった。それがどういうわけか、ある宣伝をする必要に迫られて、中途半端なカタチで場つなぎ的に始まったのが現行の「POP2*5」。ありがたいことに、文章だけの「POP2*0」のときより読者層は広がって、ブログランキング的はアップしたものの、たまに義理で書く近況報告の文章のほうのブクマや星マーク率のほうが高いもんだから、それにつられて文章が以前のブログのようにだんだん増えていって、コミックブログになりきれないという、この有様。ふー。
 ウェブコンテンツの「匿名性」の理想。そんなことを改めて書いたのは、このところ興味深いエントリを続投している知人の音楽ライター、大山卓也氏の個人ブログ「TAKUYAONLINE」の“解題・ミュージックマシーン”という短期集中連載のエントリを読んだから。2001年から7年間、彼が個人的に続けていた「ミュージック・マシーン」という音楽情報サイトを運営していた時代の回顧録である。「ミュージック・マシーン」は運営者は個人でありながら、音楽雑誌よりもスタンスは業界紙に近いフラットな情報サイトで、とにかくネタの扱いを逡巡しないいい意味での無節操さ、多様性と物量パワー、即時性に圧倒された。普通、値段が付いている音楽雑誌と『bounce』のようなフリーペーパーだと、広告によって運営されている後者のほうの情報の質が落ちると思いがち。しかし、有料の音楽雑誌だって広告出稿で運営しているのは、『ロッキング・オン』の第一特集がどうやって決まっているかを見れば一目瞭然で、さらに編集者の恣意的な判断が入ってしまうことから、必ずしも欲しい情報がこちらのほうにあるとは限らない。「情報が全部ジャンル載っている」という、『bounce』のような全方位的な情報誌のほうが、「ボアダムズPerfumeを同等に聴く」なんていう、今のスーパーフラットなネット族にとってはフィット感も強いだろう。それは大山氏も同じだったようで、それまでの音楽ポータルの偏った在り方に不満を感じ、一音楽ライターの彼が自らの理想とする「全ジャンルを扱う音楽情報サイト」として始めたのが、「ミュージック・マシーン」だったのだ。
 実はここともちょっと関係がありまして、宣伝目的でこのブログを始めたそもそもの理由である、ワタシが発行人を務めた某週刊誌の臨時増刊号を出すにあたり、「音楽とネットの双方に強いライター」というのを探していて、知人のジャーナリスト津田大介氏から紹介されたのが、大山卓也氏だったのだ。当時ワタシが台本の構成を務めていた、高橋幸宏のDVD『高橋幸宏ライブ 1983 ボーイズ ウィル ビー ボーイズ』の副音声の収録現場に来ていただき、その雑誌のために現場レポートをお願いしたのだが、初お手合わせでありながら彼の書いた文章はとても正確で、こちらの発注意図を汲んだ見事なものであった。実はこういうフィット感を、音楽ライターの方と仕事をして感じる機会はそれほど多くない。実はその後、津田氏や同じく知人のばるぼら氏らが参加して、ある大規模な音楽ポータルを立ち上げることとなって、そのときワタシも参加したのだけれど、これが事情があってご破算に。ちょうどそれと入れ替わりに、津田氏が大山氏らと事業形態で始めた新しい音楽情報サイトというのが、「ミュージック・マシーン」の発展型としてスタートした、現在の「ナタリー」である。
 これ、もう時効だと思うから書いちゃうけど、実は昨年11月、活字の仕事に辟易して「コミックエッセイの仕事をしたい」と思ったとき、最初に相談に行ったのが彼のところでして。以前にもちょっと書いた「音楽版ホイチョイプロダクション」みたいなアイデアの草案と、サンプル原稿(「POP2*5」の第1回に載せている鳥居みゆきのマンガなど)を携えて、「ギャラはタダでいいので、なんか描かせて」と企画の持ち込みをしたこともあるのだ。大山氏は音楽に詳しいだけでなく、マンガ文化にも精通しており、結局果たせなかったが、『のだめカンタービレ』ブームのころにワタシが企画した「音楽好きのためのマンガガイド」という単行本を、いっしょにやろうと計画したこともあった関係。で、その持ち込み話は結局、やんわりとお断りされてしまったのだ(笑)。ワタシのまわりには彼以外、マンガを読む音楽ファンがあまりいないこともあってかなり落胆したのだけれど、今回、「ミュージック・マシーン」の回顧録を通して氏のウェブ運営の理想を知り、「断られた理由」について自分なりに整合性がついて、ちょっと安心したところがありまして(ま、画力や構成力が素人以下というのは、この際置いて……笑)。とにかく「ユーザーが使いやすい」を信条にした、フラットな音楽ポータルを運営していくために、彼がどれだけの犠牲を払ってきたかという、長〜い歴史があったのね。一度は「匿名性の高いコミックブログ」を立ち上げると決意したくせに、ついつい気がゆるんで、個人の美意識によっかかった中途半端なブログ(現在の「POP2*5」)になってしまったワタシなど、まだまだサイト運営者としても、絵描きとしてもアマチュアなんだろうな。と行っても、ここでロキノンQJ田山三樹四方宏明、チャーリーとかの批判をやってたりするのはウケ狙いで、あくまでネタとしてであって、感情的な動機は5%もないんだけどね。
 一昨年に書籍化された、メンバーに各10時間ずつ話を聞いてまとめたYMOインタビュー集『イエロー・マジック・オーケストラ』(アスペクト)には、ある時期に集中して取材させていただいた、細野さんと小生との質疑応答がまとまったカタチで収められている。だが、実はいちばん多く細野さんとお会いして話をする機会があったのは、92年のYMO再生以前のこと。大半は雑誌用のものなので、今見返すのはたいへんだが、独立して読めるものとしては、ワタシがプロデュースしたテレックスのリミックス・アルバム『イズ・リリース・ア・ユーモア?』のライナー用インタビューぐらいかな。ちょうど細野さんがクワイエット・ロッジというプライベート・スタジオを作られたころで、当時インタビューで窺っていた話というのは、もっぱらドイツ音響系などのアンビエントにまつわるものだったと思う。「テクノの無署名性に憧れている」という当時の細野さんの言葉は、テクノをそれほど聞いてこなかったワタシには、残念ながら響かない部分も多かった。むしろ細野晴臣という不世出なアーティストに対して、個性的な作家で、かつ強力なブランドと意識して心酔してきた自分には、アマチュアのように顔を隠すことを理想として考えていた、当時の細野さんのアンビエントへの傾倒が、あまりにももったいないというか。「殿ご乱心」というような気持ちで接しているところがあったのだ、正直。
 しかし、その後に個人名義で単行本を出して、こうしてブログなどを立ち上げ、アンチの方々と論争をしたりして思うのは、「ワタクシ」というものの重荷とか、読者などから抱かれる先入観というものが、いかに煩わしく、かつ逃れるのが難しいかということ。そんな気持ちが、前身のブログ「POP2*0」を閉鎖して、「匿名コミックブログ」に移行したいと思った理由だったのだ。とかなんとか言いながら、結局「POP2*5」をずるずるやっているというわけで、いくら理想を高く掲げてみても、ワタシ自身は「ワタクシ」から逃れられるような性格じゃなさそう。しょこたんではないが「生きた証」として、日々のストレスのガス抜きでやっている部分が実は大きい。まあ、なんとか「お洒落編集者のお買い物日記」みたいなものだけはすまいと、自分を律してはいるけれど、あれだけプライベートな感情を出さないと言ってたのに、今では個人的な性癖まで晒して、世界に発信してたりする有様だからな(笑)。
 今回、改めて「TAKUYAONLINE」のエントリを読んで、我が身を振り替えって思ったこと。それは、まったく方法論が真逆でありながら、既存の出版メディア以上のことがネットでできるとしたら、大山卓也氏の「匿名性」と、「生きた証」としての感情の記録、この2つしか正解がないのではという強い思いである。というのも、大山氏が語っている通り、そのどちらでもないものが、いまのネットコンテンツやブログの大半だったりするからね。


昨日の猫ケンカの一つ前の映像。この飼い主がうらやますい。