POP2*5

過去にはてなダイヤリーで連載してた連載コラムのアーカイヴです。

エヴァ・メウレン・リスペクト!




 ブログを続けていると、いろいろ読者の無理解に悩まされることも多いのだが、一方でこうして継続していなければ、出会えない人の縁というものもある。ワタシが青春期から一方的に憧れているような各界の恐れ多い方々が、ブログを通して小生に一目置いていただくなんて身に余る光栄もあったりして、本当に救われる思いである。まだ成就してないので未だヒヤヒヤものだが、先日、生まれて初めて「絵の仕事」(CDのパッケージ・デザイン)の依頼を受ける機会もあった。これにはさすがのワタシも大コーフン。まったくの素人なのにいいんでしょうか……(笑)。音楽業界の人は本当に度量が広い。一方のマンガ業界の人にいくら持ち込んでも、ほとんどけんもほろろの扱いだったりするのに(笑)。とまれ、“なんちゃってコミックブロガー”のワタシを最底辺として、数ある絵描きがいる中でも、「音楽愛」や「楽器の知識」では誰にも負けない自負はあるので、ここはひとつガムバル所存である。ヒプノシスやキーフ、ワークショップMU!!、コンテムポラリー・プロダクションなどなど、レコード・ジャケット資料に関してはかなりの自慢の蔵書がある拙宅。そんな好きが高じての素人知識が、こうして役に立つことになるとは思わなんだ。
 ところで、「ワタシの好きなレコードジャケット」の中でも、イラストを使ったものに特化して「これだ!」という好みのデザイナー/イラストレーターと言えば、ベルギーのバンド・デシネ作家、エヴァ・メウレンにつきる。アメリカン・コミックとアールデコをミックスしたような作風で、カラフルなパノラマ画を書くこの御仁は、我々の世代には同じベルギーのテクノポップ・バンド、テレックスの一連のジャケット画で有名。80年代は、大瀧詠一『ナイアガラCMスペシャル Vol.2』のジャケット(ただし、なぜかノークレジット)や日本の雑誌広告など、頻繁に見かけることも多かった。テレックスについては、一度リミックス・アルバムのプロデュースでメンバーと関わった際に、先日亡くなったマルク・ムーランにインタビューをさせてもらったこともあり、そのときいただいたPV集も、彼らのジャケット画の通じるユーモアが満載だった。エヴァがジャケットを描いた『NEUROVISION』からのシングルカット「en route」のPVは、やはり同国の著名なバンド・デシネ作家、エルジェの『タンタンの冒険』の図版を使ったもの。これは本業が建築士、カメラマンのヴォーカリスト、ミシェル・モースと、機械操作担当のダン・ラックスマンのマンガ好きの趣味かららしい。以降、エヴァ・メウレンが離れた後のテレックスのジャケットも、そのテイストを受け継ぐメンバー・イラストが使われており、ワタシにとってテレックスは、実物写真より「シュガー・シュガー」のアーチーズみたいな、マンガキャラの絵のほうがしっくりくる。
 だが、エルジェ、メビウスなどバンド・デシネについて諸外国一ファンが多いと言われる日本であっても、エヴァ・メウレンに関しては資料が乏しく、10年ほど前にベルギー大使館が主催して、大阪だけで作品展が行われたぐらい。それがここ近年、細野晴臣氏も共鳴するオランダのレーベル「BASTA」から出ている、アンドレ・ポップの復刻CDボウ・ハンクスのレイモンド・スコット作品集などにエヴァの絵が使われて、再び身近な存在になってきた。ワタシのこのブログのタッチも、まあとても巨匠にはセンスも画力も及ばないながらも、見る人が見ると「エヴァ・メウレン好きでしょ?」と気付かれることもあったりする。マーケットの小さいベルギーはもとより、彼ら仏語圏のアーティストが活躍するフランスでもネット通販などが未整備なために、今でもエヴァ・メウレンに関する資料を手に入れるのはとても困難。ワタシも過去に出した作品集を2冊持ってるだけなのだが、これも日本の地方の古書洋書店でやっと手に入れたもので、インターネット時代になっても集めるのにはとても苦労した。で、せっかくだから今回はちょっと趣向を変えて、現在制作中のジャケット画の精神に通じるものとして、エヴァ・メウレンの画集からオススメの図版を少々紹介することにした。いまどき、ちまたでは「エヴァ」といえば今夏の「劇場版エヴァンゲリオン」と相場が決まってるが、たまには天の邪鬼にこんなエヴァを楽しむのもいいでしょ(つまんね)。



エヴァ・メウレンの代表作を網羅した2冊の作品集。『FEU VERT』(写真左)は刊行された87年までの初期作品を網羅。『VERVE』は半分以上カラーページという贅沢な作りで、『FEU VERT』以降の近作を集めている。どちらも残念ながら絶版。





 一つ目はおなじみ、日本盤CDも出た『NEUROVISION』のジャケット。下は作品集からの抜粋で、テレックスのシングル、および英語圏向けのベスト盤『MORE THAN DISTANCE』のためのオリジナル原画。下のモノクロは、その流用とも言える当時の個展のポスター。









『FEU VERT』、『VERVE』2冊の作品集からの抜粋。ロキシー・ミュージックの広告用のイラスト、オールディーズのオムニバス盤用のジャケットなど、どれもがキッチュで素晴らしい。



 ノークレジットだが、どうみてもエヴァ・メウレンが描いてる大瀧詠一『ナイアガラCMスペシャル Vol.2』の12インチのジャケット。『CDスペシャル』のほうも別のエヴァ図版が使われている。エヴァは当時、日本の雑誌広告などにも寄稿していた。


 せっかくなので、エルジェの『タンタンの冒険』の図版が使われたテレックス「en route」のPVをば。