POP2*5

過去にはてなダイヤリーで連載してた連載コラムのアーカイヴです。

『けいおん!』を観た。

けいおん! 1 [DVD]

けいおん! 1 [DVD]

 先日書いたエントリを読んだという友人から、久々にメールが届く。「ようつべに『けいおん!』って新作アニメがアップされてるから、観てみなはれ」と一言。で、観ましたよ……愕然。今、落ち込んで仕事もなにも手が着かない状況に。4月からBS衛星放送と地方局でスタートした新作アニメらしいんだが、こんな企画が水面下で進められていたなんて……。私の内面的ダメージについてはくわしくは書けないが、ま、似たようなことを昨年から考えていたわけですよ。自分の音楽知識やアイデアを提供して、萌えアニメのみなさんの力を借りたマンガみたいなアニメみたいなことができないかという、今考えりゃ戯言のようなことを。しかもそれが「萌えアニメ界の信頼のブランド」、京都アニメーションの新作というじゃないですか。正直、ジェラシー感じてしまった。
 といっても、アニメーションの内容にというわけじゃなくて(ファンの方すいませぬ)、挿入歌に村井邦彦の「翼をください」使ってるとか、些末な部分ですが。音楽コーディネーターは、尾崎亜美バンドのベースだった人。あえて地方都市・京都のロケーションを舞台にしてるというのは、山下敦弘監督の映画『リンダリンダリンダ』を意識してたりするんでしょうな、きっと。そういうところが悔しい。切ない。『リンダリンダリンダ』は好きすぎて、小生が昔、編集長を務めた『Digi@SPA!』という臨時増刊誌のグラビアページで、「リンダリンダリンダリンダ」(リンダが一つ多い)ってタイトルで、山下監督に無許可でスピンアウト企画を勝手にやったことがあるぐらいだから(笑)。ちなみにそれは、『リンダリンダリンダ』で主人公の前田亜季らのバンド、パーランマウムのライバル的存在だった、クール・ビューティーな丸山凛子役を演じた三村恭代を主人公にしたサイド・ストーリーでして。彼女が東海テレビの昼メロに出てた、ブリブリの美少女だったころに撮ったものなんだけど、たぶん三村恭代のグラビアが載ったのって、この雑誌しかないんじゃないのかな? 彼女が『リンダリンダリンダ』の撮影日誌で語っていた、「バンドのメンバーとして参加できなかったのが寂しくて現場で涙を流した」というエピソードに心を打たれ、子役時代から注目していた小生が親心から、彼女主演のバンドもののグラビアをオファーしたというもの。ストーリーボードなどを提供したりして、我ながらなかなか良質なグラビア企画であった。
 あと、主人公の女の子の名字が平沢というから、「ひょっとして」と思ってネットで調べてみたらやっぱり(笑)。バンドの各メンバーの名字は、P-MODEL黄金期のラインナップ(『イン・ア・モデル・ルーム』〜『ランドセル』)からの拝借。アニメ界に於ける平沢進の浸透度はこんなところまで届いていたのか、と思わず納得。キーボードの田中靖美だけことぶき光(役名の表記は“琴吹”)に変えてあるのは、原作者のこだわりだったりするのかな? それとも、短期間で終わった3人+サポート時代の『ポプリ』の再現だったりしたらオソロシイ。あ、こっちは高校生ベーシスト菊池クンの時代か。ちなみにこのブログの読者で「P-MODELって何?」と言われる方がおられましたら、詳細なグループ・ヒストリーを載せてますんで、ぜひ拙著『電子音楽 in JAPAN』を買って読んでくだされ。
 で、メールくれた友人が言わんとしてるのは、こないだの「pi●iv」にまつわるエントリで書いた、「アニメ美少女にレスポール持たせるなんて、アイデアに芸がない」、「どうせ『BECK』の孫引きだろ」という私の批評が、とんでもないお門違いで、ユーザーのオリジナルキャラでもなんでもなくて、単なるこの作品のファンの投稿だったという話。お恥ずかしい……(笑)。改めて「pi●iv」を覗いて、番組名で検索してみたら、すごい盛り上がりになってました。でも、主題歌はデジ・ロックみたいな曲調だし、キャラクター役の声優が歌ってるってことはステージで歌わせる劇中歌なんだろうから、レスポールって楽器選びはミスマッチすぎやしないか? 元々ギブソン社のレスポールって、ジャズ・ギターだし。劇中で「“ジ”で始まるギタリストが多い」とかって、ジミー・ペイジの名前が出てくる会話があるから、レッド・ツェッペリンから連想してレスポールを持たせたんだろうけど。でも、ベースは左利き用でポール・マッカートニーだったりとか、イメージの統一性がわからん。レスポールのくだりは、なにか心憎い演出があったりするのかと思ったら(「実はおじいちゃんが伝説のギタリストだった」とか、春を売ってあえて高額なヴィンテージ・ギターを手にするというロック的生き様の実践とか※)、第2話であっけなく25万円を5万円に負けてもらって手に入れていた。そんなことでロックマンガとしていいのかよ!? あ、原作は4コママンガなのね……それじゃ仕方ない。参考までに『リンダリンダリンダ』の場合は、香椎由宇が持ってるギターはESPが輸入している安物の香港製のストラトのコピーモデル。山下監督は赤犬の人たちと共同生活送ってるような人だから、そのへん現代考証も抜かりないのだ。
 小生がこの作品を観て“ジェラシー”と言っているのは、音楽を題材にした映画、アニメーションの最大の武器である「音楽の魔法」が使えること。残念ながら、いくら『電子音楽 in JAPAN』などで小生が詳細にアーティストの心のひだを焙り出そうとも、活字本ではそこから音楽が聞こえてくることはない。この作品はおそらく、『デトロイト・メタル・シティ』なんかに続く、アニメ界の最新モードになっていくんでしょう。心底うらましい。『NaNa』、『BECK』、『のだめカンタービレ』、『デトロイト・メタル・シティ』など、近年、音楽をトリガーにして物語が進行するマンガが隆盛を極めているが、この手の作品のほとんどがその後、レコード会社のサポートを得て映画化され、音楽との幸福な結婚を成就しているから。大型CDショップなどにある、各アーティスト別売り場の角にある「島」というコーナーは、あんまり知られてないが、実は視聴機枠などといっしょにレコード会社にセルアウトされてたりするんだけど。それでも音楽を愛するフランチャイズですから、月に何枠とか、入荷担当者が自由にレイアウトできる担当裁量枠というのがあって、音楽もののマンガなどの関連コーナーが、その恩恵に預かっている光景をよく見かけるけど、本当にうらやますい。『のだめカンタービレ』ブームのころ小生が見たときは、クラシックフロア内で4つですぜ、「島」が『のだめ』コーナーで占拠されていたのは。
 それだけじゃない。昔、『世にも奇妙な物語』かなんかで観た一編の話なんだけど、ひどいなーと思うような脚本の作品だったのに、そこに安直にもビートルズ・ナンバーがかかったりすると、小生なんか条件反射的に涙腺がゆるゆるになってさ。それだけで作品として説得力が生まれたりするマジックがあるのだよ、音楽には。ソフィア・コッポラの監督デビュー作『ヴァージン・スーサイズ』への小生の評価が大甘だって人に言われたりするのは、多分にこの音楽のマジックのせいであることは十分に自覚してる(笑)。トッド・ラングレンの「ハロー・イッツ・ミー」をここぞとばかりに使うとか、元ローリング・ストーン誌の常連ライターだった『バニラ・スカイ』の監督キャメロン・クロウでもできない大ネタ使いは、女流監督だからこそ許される(実際の選曲は元レッド・クロスのドラマーの人)。実は今、とある音楽ドキュメンタリー映画のお手伝いというかサポートをしてまして、打ち合わせの席とかで「サンダンス映画祭に出品しよう」とか、勝手なアイデアで盛り上がったりしたんだけど、これもサンダンスのドキュメンタリー部門が『テルミン』とか『悪魔とダニエル・ジョンストン』とか、音楽ドキュメンタリーびいきだからなんだよね。予算の少なさが仇になりやすいドキュメンタリーだからこそ、使う既成曲の効果が絶大なのだ。
 とまれ、『けいおん!』もまだ番組が始まったばかり。「きっと『翼をください』は劇中でパンク・アレンジして使うんだろう」とか、ちょっとイジワルで勝手な想像などしながらも、自分なりに番組を応援できればと思っている。もし、万が一アニメがヒットして実写映画化されるなんてことになったら、あのー、そのー、小生にもぜひ声をかけてもらえると嬉しいな……。いやホント、最近はもう年がら年中、マンガと音楽との幸福な結婚のことばかり考えているワタシですから(笑)。



 Yahoo!のエイプリルフールのエヴァネタに対抗して書いてみますた。そういや、あっちのは現実化するらしいがマジか?