POP2*5

過去にはてなダイヤリーで連載してた連載コラムのアーカイヴです。

『Visual YMO:the Best』と楽しい副音声DVDの世界

 私は映画DVDの副音声が大好きである。給料日の直前で手持ちが厳しい時に、欲しいDVDがいくつもあって迷う場合などは、まず副音声が入っているほうのタイトルを先に買う。最近、映画館に新作を見に行かなくなったのも、副音声入りDVDのせいと言ってもいいかも知れない。新作をDVDで見終わって、名作を見つけたという感動に浸りながら、ちょっとコーヒー呑んで一息ついてから、余韻さめやらぬ中で副音声付きで最初っから見直す時の気分は格別である。映画DVDはレンタルではなくてもっぱらセル派である。なぜかレンタル版は仕様が変えてあったりして、副音声が割愛されている作品も多いのだ。
 だから、ソニーから私にYMOのDVDの監修の依頼をいただいた時点で、本作に副音声が入るというのは必然だったと言ってもいいかも知れない。ちなみにその時調査をしているのだが、この『Visual YMO:the Best』はなんと、世界初の副音声入り音楽DVDなのである(それを知った時はトッド・ラングレンのような気分であった)。「音楽DVDの副音声なら、名作のあれがあるじゃん」と指摘される方もおられるだろう、マーティン・スコセッシ監督のザ・バンドラスト・ワルツ』は、あれは映画である。また、ディーヴォが副音声で当時の内幕を暴露しているPV集『The Complete Truth About De-Evolution』は、現在はDVDでも手に入る初期の傑作だが、元々レーザーディスク用として作られたもので、アナログ/デジタル音声の切り替えトラックを使った、ちょっとイレギュラーな仕様であった。
 YMOでDVDを出したいという話が来たのは、坂本龍一氏選曲のベスト『UC YMO』と同じタイミングのころで、最初から「映像でベストを作りたい」という話であった。私もファンの端くれなので、どうせなら既発映像ソフトをコンプリートでしょっぱなからDVD BOXで再発したほうが、ファンも文句を言わないし、いいのではという話もしていたのだが、「これはYMO入門編として安価な商品としてリリースしたい」というのがディレクター氏の意見であった。で、YMOの歴代のライヴやPV素材を使って、クロニクルな構成でまとめたいという希望をいただいたのだが、ご存じのようにYMOは時期によってパフォーマンスの形態がバラバラ。初期はフュージョンだし、中期はかなりアヴァンギャルドだったりする。サザンオールスターズの映像集などのような統一感はどうしても計れないから、ベストに詰め込むと、いかにも素材をつないでみただけになってしまうだろう。それで、なにか一本筋を通すような新規コンテンツを入れないと商品になんないんじゃないのと話をして、副音声を入れてもらったのだ。
 その時点で私は、相当数の映画DVDの副音声を観ていたので、最初にアイデアが口をついて出た時には、ほぼディテールは固まっていたと思う。音楽ライターの人全員が映画に詳しいってわけではないだろうし、私ではない別の方が監修をされたCD BOX『L-R TRAX』(私のほうは、キング、ソニー連動のメンバーソロのライナーノーツ10wをやらされていたのだ)など見ても、やはり監修者によってずいぶんアプローチが違う。ベーシックな曲の粗選びの準備のころから、選曲者である高橋幸宏氏の黒子に徹していたつもりだったが、できあがった商品は、かなり自分の主張が反映されたものになった。すれっからしYMOファンにしてみれば、寄せ集めって何だよとのご意見をあるかも知れない。だが、DVD BOXになると、全部のディスクに副音声を入れるのは予算的、時間的にかなりキツイ。というか、メンバーがやりたがらんだろう。とはいえ、よくある洋画ドラマDVDみたいに1話だけ副音声が入っているみたいな、特定の会場のライヴだけに副音声を入れるアイデアは、ファンから見るとちょっと寂しい。副音声を楽しみたいオーディエンスにとっては、結果、このクロニクルな構成が最適なものになったのではないかと思っている。
 まだ参考になるような副音声入りの音楽DVDがなかったから、ディレクター氏もピンとこなかったようで、私が進行台本まで書くことになった。といってもエピソードを語るのは本人の意思優先だと思うので、バラエティの台本みたいに「ここでひとつギャグをよろしく」みたいな、いわばキューシートである。それと、副音声が入ってるのに気付かないという購買者もきっといるだろうから、幸宏氏のナレーションは主音声にも入れて、副音声トラックに誘導してもらう構成にした。今の『トリビアの泉』の“影ナレ”解説みたいにである。なにしろ最初の試みであったから、仕上がった商品には、メニュー画面に主音声/副音声の切り替えスイッチがついてなかったなど、私の説明がおぼつかなかったところもあるが、時間がない中で作ったものとしては、なんとか入門編らしいものになったと思う。
 ちなみに、これはもう時効だと思うのでお許し願いたいが、当初は幸宏氏ともう一人、別を方を対談相手に希望していたのだ(想像にお任せします)。だが、その方と幸宏氏が組み合わさると別の会社に所属するアーティストになってしまうために、実現化は難しいということで、急遽幸宏氏のマネジャーS氏に聞き手役を務めてもらうこととなった。ご本人は躊躇されていたが、構成者としては心強い。S氏は私も愛読者だった雑誌『ビックリハウス』の元編集者であるから、裏方の気持ちを察していただいて本当に感謝している。結果、大久保林清(景山民夫)がパートナー役をやっていたころの、幸宏氏の『オールナイトニッポン』のような雰囲気が出せたのではと思っている。
 ちなみに、7月27日に発売される『高橋幸宏ライブ 1983 ボーイズ ウィル ビー ボーイズ』『新青年』の2枚のDVDも、私が副音声パートの構成を担当した。前者には、幸宏氏に、83年の国内ツアーのメンバーだった鈴木慶一立花ハジメを加えた3人、後者は幸宏氏とディレクターの川崎徹氏の2人がコメンタリーを務めている。今回も進行台本を担当しているのだが、後者のスケジュールがギリギリだったため、前者のみ立ち会わせていただいた。当初イメージしていたのより、気心の知れた3人ということこともあってか、かなりユルユルに進行しているので、お酒でも呑みながらゆったりとご覧いただくのがベターかも。
 なお、この時の模様は、音楽ポータルサイトミュージックマシーン」を運営されている音楽ライター、大山卓也氏に取材してもらっており、拙者が発行人を務める雑誌『Digi@SPA!』にスタジオ現場の写真入りでレポート記事を掲載中。その情報ページのタイトルも「POP2*0」で、本ブログはそれを自分自身がパクったものなのだが、もしブログを気に入ってもらえたら、ぜひぜひぜひぜひ、購入してチェックいただきたい。
 ちなみに、記事作成のために大山氏に後で調べてもらったのだが、すでに副音声入り音楽DVDって百花繚乱の賑わいなのね。コブクロ『LIVE at 武道館』など、本人からどうしてもファンにいいわけしたいと、たっての願いで副音声収録に臨んだっていうものまであって、これは逆に新しい音楽表現なのかと思ったりして……(拙者未見だが、トロマ・フィルム作品のDVDは、若気の至りだったと監督が全編反省し通しという、公開懺悔みたいになっている驚愕の内容らしい)。
 大瀧詠一山下達郎などの“自曲解説名人”の副音声入りDVDなんかあったら、どんなに楽しいだろう。大瀧氏のなんかは、2004年版、2005年版とか、副音声もヴァージョンがいろいろ作られたりしそうだな。実際、『ラスト・ワルツ』なんかも、スコセッシとロビー・ロバートソンの組み合わせと、残りのリヴォン・ヘルム、ガース・ハドソン、ロニー・ホギンズらメンバーの組み合わせという2ヴァージョンの副音声が入っていて、選べるようになっている。ところがこれ、ロビー・ロバートソンが他メンバーと仲が険悪なので別録したって話らしい。そういう裏事情が垣間見れるのも、副音声の魅力である。

VisualYMO:the Best [DVD]

VisualYMO:the Best [DVD]

 さて、こっから先はいつもの長い余談である。
 映画DVDの副音声で、最初のメルクマール的作品になったと言われているのが、フランシス・コッポラ監督の『ゴッドファーザー』である。20世紀アメリカの暗黒街の年代史を「省略の美学」で描いた作品であるから、その隙間を埋める登場人物の淡い感情などの移り変わりを、監督自らの言葉で補ってくれるのは本当に勉強になる。また、20年代の街並みをニューヨークにそのまま再現してしまったディーン・タラボリスの奇跡的な美術や、撮影監督のゴードン・ウィリスのカメラワークなど、ディテールを観ながらの解説はどんなメイキング本よりも説得力がある。
 だが、洋画のDVDの副音声が全部『ゴッドファーザー』のように素晴らしいというわけではない。コッポラは監督デビュー前、売れっ子の脚本家でラジオドラマなども手掛けている“語りの名人”なので、元々構成力はピカイチなのだ。それに比べると、ウィリアム・フリードキン監督などは、『フレンチ・コネクション』『エクソシスト』『LA大捜査線』など映像演出は神レヴェルなのに、どれもコメンタリーの仕上がりは最悪。この人、画面を観たまんまをト書きみたく読み上げるのである。DVDの副音声というのは、画面を見ながら、そのシーンの撮られた当時の出来事などその都度走馬燈のように思い出し、とっておきのこぼれ話を開陳して聞かせるという「語り芸」の世界。慣れてない人だと画面を追うのに精一杯で、語りのほうがおそろかになってしまっている作品も多いのだ。だから最近は『ファイト・クラブ』や『ターミネーター2』みたいに、コメンタリー慣れしていないキャストの声を別録りして、メインのコメンタリーにパッチワークして埋め合わせているようなものも多く、あれは酷いもの。また、アカデミー賞で俳優が会場をジャックしたりする政治の国なので、中には結構過激なステートメントを披露しているものもあったりして、最近では、DVDをトレイに挿入後すぐに立ち上がる初期画面で「コメンタリー内容はあくまで各人の発言であり当社に文責はない」みたいなテロップがでるようになったのも、あれもかなり興ざめである。
 むしろ最近は、邦画DVDの副音声のほうがいろいろ発見が多いかもしれない。犬堂一心監督の『ジョゼと虎と魚たち』のコメンタリーは、監督と主演の池脇千鶴妻夫木聡の3人の掛け合いで進行していくのだが、プライベートでも本当に仲がいいらしい池脇と妻夫木の天然なやりとりが実に微笑ましい。コメンタリー内容を聞いても、妻夫木、けっこうイイヤツっぽいのだ。また、この映画は池脇千鶴が初めて脱いだことで話題になったものだが、そのヌードが映る場面になると、男性陣が遠慮してシーーーーンと無言になるところなど爆笑ものである。一方、映画自体は神レヴェルな中島哲也監督の『下妻物語』の場合、すごく期待してコメンタリーを見ちゃったことも原因だが、本編では堅い友情で結ばれた主演2人が、実際はあまり仲がよろしくないようで、ムードぶちこわしである。無言が続いて、ほとんどしゃべらないし。
 副音声目的で何か一本ということであれば、『リンダリンダリンダ』の山下敦弘監督の一連のDVDの副音声が楽しい。初期の『ばかのハコ船』『リアリズムの宿』など、基本的にこの人の副音声は撮影クールでもある大阪芸大のOB軍団の雑談で構成されており、中には飲み屋のお座敷とかでアルコール呑みながら収録しているものまである。『リンダリンダリンダ』では、現場でかなりアドリブで画を作ったことを素直に吐露してるし、小津安二郎アメリカン・ニューシネマなど、オマージュを捧げた映画のタイトルを実名まで上げていて、素直というか学生の映画サークルの発言まんまなのである。また、『リアリズムの宿』は、ロケ先の鳥取県で天候に相当祟れた作品であるらしく、オリジナル脚本の設定をどう改訂していったかを画面に併せて説明してくれたりするのは、映画の現場を知りたい人には勉強になるだろう。今年から規制緩和で、早稲田や多摩美など4月から映画学科や芸術学科が新設された大学も多いけれど、DVDの副音声って、すごく実践的なカルチュアル・スタディのツールになるんじゃないかと本当に思うな。
 テレビドラマのDVDにも面白いものがある。2クール24話とかボリュームがあるから、原則、副音声は1話だけ収録とかそういう形式が多いのだが、なにしろキャストは半年以上同じ釜の飯を食っているわけで、仲のよさは映画以上。映画DVDの副音声は監督主役のものが多いが、ドラマDVDのほうはキャスト同士のトークのほうが圧倒的に面白い。『24-TWENTY FOUR-』だと、トニー・アルメイダ役のカルロス・バーナードなんか、ああ見えて実際は相当ファンキーな人で、トークもかなり達者みたい。先日来日してフジテレビのコント番組に出て、ボケ倒して満足して帰っていったけど、あれはまんま地の性格らしい。
 日本のドラマDVDのほうはなかなか数自体が少ないんだが、『王様のレストラン』という神レヴェルのDVD BOXがある。さすが洋画ドラマファン代表の三谷幸喜、全12話すべてに副音声が入っていて、ラジオ番組みたく毎週ゲストが入れ替わりに呼ばれるみたいな構成になっている。鈴木京香などは、普段ラジオ番組にゲストに出たという話を聞いたことがないが、喋り方やその発言内容の聡明さに惚れ直してしまった。また、唐沢寿明との結婚後、半引退状態が続いている山口智子が、唯一出た仕事ってのもこの副音声。メイクをしなくても出れるという副音声のメリットが、逆に役者の素顔を映し出していて興味深い。放送終了後、アメリカに旅立ってしまった梶原善との友情の話なんかウルウルする。唯一ここに参加していない、亡くなった伊藤俊人を偲ぶ場面では、キャストの結束が堅かったのがよくわかる。それと、松本幸四郎だな。この人のアドリブはほとんど凶器(笑)。ずっと関係ないエロビデオの話を話し続ける独演会になっちゃって、三谷を困惑させる様がかなり笑える。