POP2*5

過去にはてなダイヤリーで連載してた連載コラムのアーカイヴです。

ロック飛び出す絵本『The Rock Pack』

The Rock Pack

The Rock Pack

 原稿が長〜い!
 お叱りを受けてしまった。確かに長すぎて読みにくい。つい書き始めると延々たらたら書きつづってしまうのは私のクセみたい。本当は簡潔に短く書くのがプロなのだ。これと同じ内容を、半分に要約することは技術的には不可能ではない。そういえば、今年の頭、ソースネクストから出た『ズバリ要約』というソフトが面白かった。短く簡潔な文章を書くのが苦手な人向けのもので、とにかく思いの丈を発揮して長文で書けば、それをAI技術を駆使して要約してくれるというもの。自動翻訳ならぬ「自動要約」ってわけで、実際これに使われているのも翻訳エンジンそのものである。つまり、英英辞典みたいなものか。要約ボリュームはスライダーで可変できるようになっているところがミソで、レバーを動かして90%、80%、60%……と動かしていくと、本当に長文がみるみる要約されていく。仕事の記事用にいろいろやってみたが、パソコンのマニュアルのたぐいは、元々性格上英文法的にできているためか、要約はかなりイケてる。一方の雑文とかは、コンテクストの要約は難しいからなのか、「……」とか「(ちなみにナニナニであった)」などの装飾文から削っていくので、ちょっとズルイと思ったが、このへんのズルい感じがまたAIっぽいじゃないの。
 で、長文に退屈してしまう方向けに、短く読めるコンテンツも用意してみた。拙者の家は、部屋の中が仕事の資料コピーと書棚とレコード棚、ビデオ& DVD棚しかないという、極めて殺風景なところ。フィギュアとか彩りのあるものは一切ない。昔はここに、唯一立体物らしいものとして楽器やエフェクターがあったのだが、DTMに移行してからはプラグインで自己完結する形に慣れてしまって、結局思い切って全部売ってしまった。
 まあ、そんな中で、なにか絵で見せて面白そうなものがないかと思って探してみたら、ありました。『The Rock Pack』という、一時話題になった洋書なのだが、ご存じか? 端的に言えば「ロック飛び出す絵本」で、ロックンロールの誕生から現在までの潮流をカラー写真で構成しながら、その全ページを、豪華な飛び出す絵本に仕上げているのだ。オマケに各所にポケットがあって、そこにはミニブックが計15冊ぐらい刺さっている。往時の『冒険王』並みではないか。ギターフェチ用に紙製のレプリカのミニギターもついてたりするのだが、いちいちゴムの弦が張ってあったりして芸が細かい。この手間のかかり方は尋常じゃない。どれだけの数の女工さんが仕事して完成するのか。
 で、以下、ちまちまと撮影してみました。


 これは50年代編。中央の後ろ姿でレコーディングしてるのはプレスリーで、セロファン越しに映っている技術者らしいのは、メンフィスのサンスタジオのプロデューサー、サム・フィリップス。左下のテレビ画面は、ベロを出し引きすると画面が変わる仕掛け。モータウンのビリー・ゴーディのコラムは、歯車をくるくる回すとレーベルのスターが絵合わせで出てくる。

 60年代前半のフィレスほか黒人系ソウルレーベルの台頭とビートルズ編。開くと左側にピースの箱サイズの小型ラジオが立ち上がる。その右にあるのは、世界一短いフィル・スペクターの本。

 60年代末期のサイケデリック時代。俄然、色彩感あふれる素材で埋め尽くされている。写真では見えにくいが、左上のジェスロ・タルのミニブックは、これまた飛び出す絵本になっていて、飛び出す絵本 in 飛び出す絵本に(だからどうした)。中央にそびえ立つのはジミヘン。ほか、各ページに挿入されているレプリカのミニギターを一同に介したのがもう一つの写真だが、弦の部分に1本だけゴムが貼ってあるという芸の細かさ。1本弦ならユナイテッド・ステイツ・オブ・アメリカなんかも出てりゃよかったな(あれは2本弦だっけか)。


 70年代はPファンクとハードロックの時代。左がパーラメント時代のジョージ・クリントンで、右がアリス・クーパー。クーパーのほうには処刑台のギロチンが付いていて、小さな穴に何か挿入して、ゴムでギロチンを上下できるようになっている、かなり不毛な凝り方をしている。右上のミニブックは『ローリング・ストーン』誌の表紙傑作選。ニュー・ウェーヴ関係では、立体フィギュア化されたミニ・モーグがかなりイカす。

 最終ページは80年代から現在まで。さすがにグラフィティアートとライヴ・エイドの同居は見苦しく、時代が拡散してきたことを物語る。ディスクマンを開くとちゃんと回転するディスクが入っていて、内容はピーター・ガブリエル。さすが、わかってらっしゃる。

 で、実はこの本、表紙のところにくぼみがあって、CDが埋め込まれているのだ。収録内容は、シアトルにあるロック・ミュージアム(拙者も昔、サルティンバンコの取材のついでに覗いたことがある。確かに凄かった)に所蔵されている資料から抜粋した、ピーター・ウルフやレイ・デイヴィス、レイ・マンザレクなどのインタビューを挿入し、作者のジェームズ・ヘンケがロックの歴史を語りで紹介している。曲が使われてないのがつくづく残念だが、昔の飛び出す絵本でよくあった、ソノシートを聞きながら「ポンと鳴ったらページをめくってください」みたいな、ナレーションを聞きながら本書を楽しむ仕掛けになっている。
 出た当初、限定版と聞いていたのだが、amazonで調べてみたらまだ扱いがあるみたい。ご興味のある方はぜひお求めあれ。