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過去にはてなダイヤリーで連載してた連載コラムのアーカイヴです。

冨田勲『NHK ON TOMITA』(コロムビアミュージックエンタテンメント)

TOMITA ON NHK〜冨田勲 NHKテーマ音楽集

TOMITA ON NHK〜冨田勲 NHKテーマ音楽集

 冨田勲氏が、『月の光』でモーグシンセサイザーによる創作を始める以前の20年間に作られた、子供番組、大河ドラマなどの曲を書き下ろした前期と、80年代初頭にいったんシンセサイザーによる創作にピリオドを打ち、久々の大河ドラマ徳川家康』で帰還にして以降の後期を併せて、NHKにマスターが残されていた曲を集めたコンピレーション盤。以前、 BMGジャパンで企画された、旧スコアを大友直人指揮のオーケストラで再録音した『新日本紀行/冨田勲の音楽』というアルバムがあったが、そこでも紹介されている代表曲『新日本紀行』などを、オリジナルテープから拾い出し、放送ヴァージョンのみを集めた初の商品化である。
 冨田氏のRVC時代の代表作『惑星』のニュー・レコーディングによる4.1chサラウンドによるリミックスが完成し、これを当時コロムビアが推し進めていた「DVD MUSIC」という規格で出すことになって、そのリリースに併せたものだったと記憶している(但し、『TOMITA ON NHK』のほうはCDフォーマット)。ちなみに「DVD MUSIC」というのは、CDに代わる新メディアとして登場した「DVD AUDIO」が、一般のDVDプレーヤーと互換性がないために普及が進まなかったため、その中継ぎとして考案されたもの。通常のDVDの音声トラックを利用した、いわば「絵のないDVD」である。ただし、映画のように音声圧縮収録ではないため音質は優れており、CD以上のダイナミックレンジを確保していることや、コピー問題に対してもDVDレヴェルの堅牢性があるために、一部のCCCDコピーコントロールCD)反対者から支持を受け、ソニーレコードの奥田民生などが実際にこの「DVD MUSIC」でシングルをリリースしている。
 週刊誌の音楽担当時代の知り合いがコロムビアの洋楽部におり、彼が再発セクションに移動したことから、『電子音楽 in JAPAN』での私の仕事を知って、この企画への参加依頼を受けた。私はライナーノーツを担当。以前、リリース時に各ブログなどで本作が取り上げられた際に、私の監修と勘違いされていた方が多くおられたようだが、選曲はコロムビア側による。但し、当初のリストには入っていなかった「空中都市008」を入れた方がいいなど、一部提案はしている。同時発売の『惑星』のライナーノーツは、元『スタジオボイス』編集長の松山晋也氏。ミュージック・マガジンから出た、松山氏監修による単行本『プログレパースペクティブ』の冨田勲についての原稿を読んでいたく感激し、勝手ながら私が推薦させていただいた。
 音源は冨田氏のサイドから提供いただくのではなく、コロムビアのスタッフがNHK音楽部の協力をあおいでマスターを集めるという作業だったため、当初予定していた音源が確保できなかったりといった、かなりの苦労があったのではと察する。基本的に70年代のモーグシンセサイザーによる創作期とは時期がずれるが、「ニュース解説」など、一部シンセサイザーによる小品も収録。「みんなの世界」は、シンセサイザー版ではない後期ヴァージョンで収録されている。「青い地球は誰のもの」のリメイク・ヴァージョン採用や、「きょうの料理」がオリジナルともうひとつ、デジタルシンセによるリメイク版を併録をしているのなどは、冨田氏の希望だったと聞いている。