私的「猫マンガオーディション」
- 作者: 関由香
- 出版社/メーカー: ミュージックマガジン
- 発売日: 2009/03/13
- メディア: 雑誌
- クリック: 15回
- この商品を含むブログ (13件) を見る
実はワタクシ、これだけ「猫マンガ」ばっかり描いているのに、猫を飼ったことが生涯で一度もないのだ。描くことになったいきさつも、模索中にたまたまファミリー向けのほのぼのマンガを描いてたら、「猫のサブキャラが面白い」と言われてそれをスピンアウトさせただけという、まるで赤塚不二夫のニャロメを彷彿とさせるエピソードも。しかし、田舎にいたころはよくウチに遊びに来ていた近所の猫をかわいがっていたし、町田康の猫エッセイなどを面白がって読んでいたクチだから。まったく白紙から取り組んだ「猫マンガ」も、案外自分には適性があるとわかって、1日2、3本は軽く4コマのアイデアが出てくるほどのめり込んでしまった。猫の写真集、猫マンガなんかも研究のために買ってきて、編集者生活20余年にして初めて、猫マスコミがこれだけ活況を呈していることに気付いた次第。最近は、一週間でいちばん楽しみなテレビ番組が『天才!志村どうぶつ園』っていうぐらい(笑)。こないだの「赤ちゃん動物特集」はよかったなー。NHK-BSでやってたBBCの『決定版ねこ大百科』の再放送もなかなか見応えがあった。『BS夜話』の「“にゃんダフルナイト”スペシャル」も実にアジャストなタイミングだったね。
猫マンガといっても、現在人気を集めているような飼い主兼マンガ家による「ペット観察モノ」じゃないので、実に展開が些末。しかしその分、猫マンガの大家の方々とは違う変化球を、我が武器と考えたいところ。こないだ書いた「エロマンガ家があえて童貞を死守してテンションをキープする」って話じゃないけど、これだけ猫が好きなのに猫を飼うのを我慢してる猫ガマン汁野郎はいないと思うし(笑)。ありがたいことに今は、YouTube、ニコニコ動画など、潤沢なリファレンス映像があるから、生態描写のヒントはそこからいただき、あえて「猫ドーテイ」を貫きながら「猫マンガ」道を極めて行きたいものだ。
本当のことを言えば、時間が最近空いたから子猫の里親にでもなろっかなと一瞬考えたこともあったのだけれど、なにかとハウツーから入ってしまう小生は、猫飼育にまつわるさまざまな現代の社会問題を先に書物で研究してしまったために、自分のような性格で一人暮らしでは飼い主として分不相応だと悟って、飼われる猫がかわいそうだから早々と諦めてしまった。知人の音楽ライター、湯浅学氏も書いてたけど、絶対レコード棚のアルバムの背表紙で爪研ぎされるの目に見えてるしね(笑)。「お前にレコード貸すと、猫の毛だらけになるから絶対貸さない」っていう学生時代の話、自分も心当たりあるから。去年の韓国映画マイブームのときに、ニュースで観た韓国の猫事情を知ったショックな記憶が残ってるってのもある(韓国では、狂犬病などの恐れのない猫も保健所で処分するのだ)。
とまれ、「猫マンガ」と一口にいってもさまざまな模索の跡があったりするので、解説を付けながら時期ごとに作品を紹介していければと思う。
■子猫と弟
■子猫と弟その2
「弟とワタシ」という姉弟のファミリーもののショートショートを書いていたときに、たまたま思い付いて、初めてマンガに猫を登場させたときの2編。資料も見ずに記憶だけで猫を描いてるからフォルムもめちゃくちゃ。
■猫とワタシ
■子猫が来た
猫と「姉=ワタシ」の交流にテーマを移したころのもの。後者で子猫が初登場しているが、まだ「サイズの小さい成猫」みたいな感じ。これを描いてずいぶんしてから、YouTube、ニコニコ動画などを見て、「子猫の魔性」に気付き、「猫と子猫は別の生き物」と思うようになる。
■私は女優
これは「私は女優」という、荻野目慶子が出ていた東海テレビの昼メロのパロディみたいなシリーズを描いていて、そこに猫を登場させた一編。シュールを狙いますた。猫が出てくる続編もあるけど割愛。
■猫とワタシ2
前回の「猫とワタシ」の続きなんだけど、この2つは間があいていて、猫の写真集とかを資料用に買ってきて、より正確な猫の生態を描くべしと思い始めたころの続編。可愛さを狙って、ここだけ耳折れのスコティッシュ・フォールドになってるのが、かなり卑怯(笑)。実際、反響もけっこうあった。
■椎名林檎と斉藤猫
猫ならなんでもよいのかと思って、得意の音楽ギョーカイマンガにも猫ネタをむりやり注入。ネコさんのことは猫よりくわしいワタシですから。ネコさんルートでキリング・タイムを出してるのは完全に趣味だけど、マタタビに引っかけてドラッグネタを描いてるのはキリタイファンとしてかなり不謹慎。自重汁! これで猫マンガファンが少し離れた(涙)。
■泣く猫
■笑う猫
猫マンガとして、というよりも、やっててよくわかってなかったマンガの描き方が少しずつわかり始めて、ちょっとストーリー展開が技巧的になり始めたころ。
そしてこの後、「そういえばYouTubeとかニコ動に、猫の画像とかありそうだな」と思って、魔が差して観てしまったことがパラダイムシフトを巻き起こす。
■子猫に敗北
YouTubeやニコニコ動画で「猫動画」をウォッチングし始め、猫、特に子猫の映像にノックアウトされてしまい、「子猫は天使だ」の名言を実感。自分の画力では革新的な猫マンガは描けないと、筆を折って猫マンガ界から勝手に失踪してしまったワタシ。「猫なべ」で有名な東北地方あたりに心の旅をさまよった1週間後に、この謎の子猫メモを投稿して、いそいそと帰ってくる。
■子猫と暮らしたい
自分なりに猫マンガのレトリックを確立しつつあったようで、ここから幼猫(ねずみこねこ)の描写が念入りに。作品も観念的というか、トリュフォー風にフェティッシュになってる。
■子猫に生まれ変わりたい
もう完全にビョーキだと思う(笑)。
■ワタシの妄想猫劇場
■子猫のウンチ
完全にディテール主義になってる。
■悲しい猫のふみふみ
練ったストーリーもの、マルチアングルなハリウッド映画的コンテ風マンガが、萌え萌えな「pi●iv」ではさっぱりウケず、自分なりにアンビエントマンガという、禅のコンセプトを取り入れた展開をしていたころの一編。キム・ギドク監督の映画『春夏秋冬そして春』のような無常観を感じる。
■ハロゲンヒーター
■ハロゲンヒーター2
暴走しすぎて、一時はパゾリーニの映画『王女メディア』ばりのギリシャ神話のような格調高い猫マンガまで思いつき、「いかんいかん」と頭を冷やしてコミック路線に帰還。猫のタッチもリアル指向ではなく、こっから突然ドラえもんみたいにどーでもいいカタチになる。どっちも1コマなのは、「pi●iv」ユーザーのコママンガへの評価が低いためで、実際に1コマで投稿すると、投稿してすぐにいい点が入る。小生がこれを観て、東浩紀が言っていた「動物化するポストモダン」で語っていたオタクの脊髄反射のことを思い出したというのは、こないだ書いた通り。吹き出しに文字が入るだけでダメみたい。猫のウンコが臭いのは本当で、肉食だしマーキングもするので、カワイイ顔して人間の親父のウンコばりのくたびれた異臭を放つ。
■笑うキスシーン
ショートショートだけど、未発表のなかではいちばん最後の「猫マンガ」。
「pi●iv」でユーザーの逆鱗に触れるような挑発マンガを描いてるのも同じ理由なんだけど、猫の描写を通して「心がざわざわする」「心に波風を立てるような」マンガを描きたいと思っている小生。相手が読んで怒るのも、カワイイ絵にポッとなるのも、感情の導火線に火が付いたという意味では、自分にとっては同じだけ値打ちがある。「色塗りがキレイでうっとり」路線の「pi●iv」の自慢のランキング作品をバカにしちゃってゴメンナサイなんだけど、技術に溺れて、そういうマンガ本来の可能性みたいなものにまったく無頓着なものを尊敬することはできないよ。申し訳ないけど。
まだ20本ぐらい紹介しきれない「猫マンガ」があるんだけど、まあこれくらいで。一時は本当に「猫マンガ家」専業を狙おうと考えたくらいフィット感を感じた小生なのだが、「猫マンガ専門誌」ってのを何誌か買って見たものの、マンガ雑誌の巻末の目次あたりによく載ってる新人の持ち込み募集の告知みたいなのが「猫マンガ専門誌」にはないんだよね。どれもだいたい、飼い主のエピソードだけ毎月募集していて、それをプロのマンガ家が劇画、4コマに仕上げるという欽ドン方式が多くて。もともと原作者志向の小生だから、「猫マンガ原作者」も一瞬、2秒ぐらい考えたけど、猫飼ってない「猫マンガ原作者」ってのもなあ。