POP2*5

過去にはてなダイヤリーで連載してた連載コラムのアーカイヴです。

『大人の科学別冊 シンセサイザー・クロニクル』、ロジック・システム&アート・オブ・ノイズ復刻など近況報告

 約半年更新してなかった当ブログだが、その時期に小生が関わったものがやっと一通りリリースを終えた。今回はその中で主だったものを紹介しておく。
 まず古い順番から、『大人の科学別冊 シンセサイザー・クロニクル』(学習研究社)。電子ブロックの復刻などのユニークな事業展開を行ってきた学研が、「小学生時代に読んだ雑誌『*年の科学』シリーズの付録の感動を今」ということで、「冊子+本格実機」で2000円台というパッケージの定期刊行誌として創刊させたもの。プラネタリウム、ベルリナー式蓄音機、鉱石ラジオ、パンチカード式手回しオルゴールなど、買えば数千円もしそうな実用ホビーを毎回おまけに付ける人気ムックシリーズとして、現在、30〜50代の「科学・学習」世代のハートをわしづかみにしている。なぜそんなに安価で出せるのかと言えば、付属の冊子に広告が入れられるからだが、その冊子もアリバイ的に存在するのではなく、分冊で売られたとしても十分と思えるような読み応えのあるものになっているのが素晴らしい。同業者だから、このような特殊商品の場合、かなりの発行部数を作らなければこの単価で出せないことを知っているのだが、実際の売り上げ部数を聞くととんでもないヒット状況で、30〜50代向けのレトロ市場はけっして小さいものじゃないらしい。シンセサイザーのルーツ的電子楽器、テルミンが付録の号が出たときは、小生を含む回りの元祖宅録少年皆が驚かされた。このテルミンの号がシリーズ中でも特に記録的なヒットとなり、「電子楽器」の路線で続編が作れないかということで生まれたのが、今回の『大人の科学別冊 シンセサイザー・クロニクル』であった。レギュラーの『大人の科学』より高価になったために別冊扱いとなってはいるが、わずか数千円でアナログ・シンセサイザーが1台付いてるっていうんだから感動もの。実は小生、昨年末に東京カルチャーカルチャーでやったイベントの会場で知り合いになった、ミュージシャンELEKTELpolymoog氏の推薦で編集部に紹介いただき、かなり早い時期からこのムックに関わらせていただいていたのだ。
 テルミン石橋楽器が廉価版を出したこともあったから、雑誌のオマケとして付けるのもさもありなんと思ったが、しかし、「今度はアナログシンセの実機を付けたい」という話を最初に聞いたときには、本当にそれが実現できるのかと、当初は半信半疑であった。「鍵盤を付けると、どうしてもコスト割れするよね?」「MIDIへの対応はどうするの?」などなど、初期段階ではあらゆる可能性が検討されていたわけだが、最終的にトータルコストから部品数を絞り込み、実にアナログシンセらしいロケテスト版があがってきたときには思わず感動したものだ(その顛末は学研『大人の科学』ブログでぜひお読みくだされ)。コントローラー部にリボン・コントローラーを採用したのもなかなかフェティッシュでよいし、LFOの周波数特性をあえてレンジ幅を持たせて、ノイジーなフリーケンシー・モジュレーション系の音が出せるようにしてあるのも、「リボン・コントローラーがついてれば、絶対誰もがキース・エマーソンをやりたがるだろう」という、変態サウンド好きのシンセ小僧への、編集スタッフの深い配慮があってのことである。つまみ一つ、電子パーツ一つ増やすだけでトータルコストが変わってしまう条件下で、大胆にVCAを省略してゲートのオン・オフで代用させてしまうという独創性は、まるで創業時のコルグのよう(笑)。無論、アナログ・シンセサイザーの素晴らしさを世に広めるべく作られたムックであるから、VCO+VCF+VCA+EGというアナログ・シンセの原理を逸脱するのは苦渋の選択というところもあり、最終的には冊子にある「音作りの原理」を学んでもらうために、付録本体とは別に、本来のアナログ・シンセの原理に則したWindows用のヴァーチャル・シンセを無料で提供するという太っ腹な企画も用意された。編集主幹のN氏は小生と同い年で、一通り各メーカーのシンセもいじったというテクノポップ世代ゆえ、細かなニュアンスをふまえた戯れ言さえほとんどの話が通じるという、その編集作業は楽しいものであった。実際に目次を見てみれば、何度もお会いして話をしたほどには貢献できてないのが心苦しいのだが、拙著『電子音楽 in JAPAN』でも取材させていただいたことがある、元TPOの安西史孝氏がレクチャーを務める「シンセ・トリビア」のページの構成などを小生は担当させてもらっている。取材は安西氏の有名なアナログ・シンセ・コレクションの置かれたスタジオで行われ、実際に付録のアナログ・シンセ「SX-150」をモーグIII-Cに接続してラン・テストするなど、なかなか普段見れない貴重な取材となった。元祖エレ・キット少年である安西氏が、本書に啓発を受けて立ち上げた、付録「SX-150」の改造法を紹介したブログもかなり読み応えのあるもので、ぜひ覗いてみてほしい。


Logic

Logic

Venus

Venus

東方快車

東方快車

TANSU MATRIX

TANSU MATRIX

 『大人の科学別冊 シンセサイザークロニクル』の企画はそもそも、テルミンの号の取材でコンピュータ・プログラマーの草分け、松武秀樹氏に取材した際に、「今度はシンセで一冊作ろうよ」と松武氏から話を持ちかけられて実現したものらしい。松武氏の尽力で付属のブックも、日本の3大メーカー、ヤマハ、ローランド、コルグがそろい踏みし、冨田勲御大やYMOの3人がインタビューに登場するという豪華なものになった。ところが小生、本書とは別に、ちょうど同じころ松武氏に頻繁に会っていたのである。それが一足先のリリースとなった松武秀樹氏のグループ、ロジック・システム東芝EMI3部作のブリッジからの復刻、新作『TANSU MATRIX』のライナーノーツの仕事である。リアル・フィッシュBOX『遊星箱』に続きブリッジの仕事を受けたのは2度目だが、ブリッジ社長のI氏は元YMOマネジャーとして有名な方で、今回の取材で初対面を果たすことができた(実際は、クラブチッタ川崎の808STATEの来日のとき、招聘元の代表としてご挨拶をしていたものの、いつもだいたいI氏はお酒を飲んでおられて、じっくり話ができたのは今回が初めてであった)。ロジック・システムのCD化は実は3度目になるのだが、松武氏の監督の下、今回初めてデジタル・マスタリング技術を施した本格的リマスター作業を行い、紙ジャケットもかぎりなくオリジナルに近いものを再現をするという力の入ったものとなった(元々お金がかかっているセカンド『ヴィーナス』の再現度はすごいよ!)。EMIミュージック直営のテラ・スタジオにある最高級の設備で、できあがったばかりのリマスター音源3枚を連続して聴くという体験は、学生時代に愛聴盤として聴き込んでいた小生にとっても格別のものだった。拙著『電子音楽 in JAPAN』で一度、松武氏の全ヒストリーを伺った身分とは言え、ロジック・システムに限定して話を掘り下げていく作業は初めてのもの。名盤の誉れ高い3枚でありながら、リリース当時から今日まで、あまり的を得た紹介のされ方を読んだことがなかったので、アスペクトから出ている小生が構成を務めたYMOインタビュー本ばりに、緻密なプロットを用意して取材に臨んだ。長年テクノポップ愛好家をやっている小生にとっても初めて聞くエピソードも多く、それらを割愛するのは忍びないとディレクターに嘆願して書いてみた結果、とんでもないライナーノーツ量になってしまったため、各CD付属のライナーにはインタビューのみを掲載し、それ以外に書いたものは3Wを買うともらえる特製ブックに掲載されることとなった。担当さん、面目ない(笑)。こちらは、ロジック・システム以前の松武氏のディスコグラフィーも掲載された、なかなかの読み応えのあるものになっていると思う。しかし、9月に発送されると書かれていたために、方々で関係者にお会いする度に「特製ブックレットはいつ完成するの?」と訪ねられてハラハラするのであった。実は小生もまだ手にしておらず、入稿はすでに夏の時点で終わっているので、いつ完成するかは神のみぞしると言ったところである。


ダフト(紙ジャケット仕様)

ダフト(紙ジャケット仕様)

リコンストラクテッド(DVD付)(紙ジャケット仕様)

リコンストラクテッド(DVD付)(紙ジャケット仕様)

 そして最後に、先週発売されたばかりのアート・オブ・ノイズのZTT時代の紙ジャケット復刻の件を紹介しておこう。HASYMOも出演したソナー・ジャパンの主催や、セニョール・ココナッツなどをリリースしているレーベル、サード・イアがなんと、あのトレヴァー・ホーンのZTTレーベルと契約。第1弾の808STATEの紙ジャケ復刻のヒットに続き、第2弾としてアート・オブ・ノイズの初期2作品、再結成後の後期2作品の初の紙ジャケ化が実現。併せて、当ブログでも以前紹介したBOXセット『神よ、私の身体に何を・・・』の本邦初リリースが叶った。前回の808STATEは、先行リリースされたイギリスでのリマスター復刻がベースになったものだったが、今回のアート・オブ・ノイズの復刻はサード・イア主導の日本先行企画。前に紹介したアート・オブ・ノイズのデモ作品集CD-R『Bashful』でしか聴けなかった未発表曲、「Resonance」、『Memory Loss』が、それぞれ『誰がアート・オブ・ノイズを…』『ダフト』の日本限定ボーナストラックとして初お目見えすることとなった。99年の再結成盤『ドビュッシーの誘惑』は、プロモーション用として作られた入手困難なリミックスCD『Reduction』との2枚組。当時SACDのみでリリースされたライヴ盤『リコンストラクテッド』は、DVD 5.1サラウンドディスクとセットになった今回の2枚組で、世界初のCD化となる。このうち、小生はデビュー作『誰がアート・オブ・ノイズを…』のライナーノーツを担当させていただいた。サード・イアの社長H氏もまた、小生が15年前にやっていたイベント「史上最大のテクノポップDJパーティー」を毎回手伝ってもらっていた、元アルファレコードのプロモーター。こうして15年越しでいっしょにお仕事させていただくようになったことを、心から嬉しく思っている。