POP2*5

過去にはてなダイヤリーで連載してた連載コラムのアーカイヴです。

ロジック・システム『Electric Carnaval 1982』(ブリッジ)12月28日発売。

Electric Carnaval 1982 Logic System

Electric Carnaval 1982 Logic System



 以前よりずっとライナーノーツを担当させていただいている、シンセサイザープログラマー松武秀樹氏のユニット、ロジック・システムの秘蔵音源が今月発売になる。のわんと、82年に青山学院大学の学園祭で密かに行われていた、ロジック・システム名義のライヴの初音盤化。81年に『ロジック』収録の「ドミノ・ダンス」が香港でクラブ・ヒットを記録し、同地の招聘でライヴを敢行していた件は知っていたが、同様のプレイバック主体の形式で国内でもライヴをやっていたのは、今回のリリースで初めて知った。ネタをあかせば、このイベントは大貫妙子プロデュースの名目で行われた3部形式のイベントのひとつで、当時、彼女のバッキングを務めていた松武秀樹氏、清水信之氏に、ゲストの大村憲司氏が加わったトリオ形式で行われたもの。時期的には『東方快車』リリース後で、同アルバムのナンバーを中心に構成している。ロジック・システムはアルファで復活した『TO・GEN・KYO』のころにもライヴをやっているが、当時はアジアン・ポップに傾倒していたフィジカルな演奏で、東芝時代と打って変わった歌モノ中心。もろエレクトロなインストで構成されるロジック・システムのライヴは、この回が国内唯一のものである。
 大きな聴きどころは2つ。大貫妙子のバッキングでバンマスを務めていた清水信之氏が、ポリフォニック・キーボードのバッキングから、ヤン・ハマーばりのショルダー・キーボードのソロを弾くなど八面六臂の大活躍。今春、小生の企画で復刻させてもらった清水信之ソロ『エニシング・ゴーズ』収録の、「OTAKEBI」のロジック・ヴァージョンを初披露している。2つ目は、大貫妙子ライヴではゲスト参加だった大村憲司氏がロジックではフルに参加している件。和製エリック・クラプトンで知られる本人の選曲で、クリーム「サンシャイン・オブ・ユア・ラヴ」のカヴァーを収録。先日、マイケル・ジャクソンが『スリラー』候補曲として録音していた、YMOのカヴァー版「ビハインド・ザ・マスク」が新作『MICHAEL』で初公開されたが、実はこの歌詞付きヴァージョン、マイケルのレコーディングで鍵盤担当だったグレッグ・フィリンゲンスが当時クラプトンのバンドに参加していた縁で、クラプトンのソロ『オーガスト』でも歌われていたもの。マイケル『スリラー』のプログラマーは、ロジック・システムヴィーナス』にも参加しているマイケル・ボディカーだが、グレッグ・フィリンゲインスがシングルで出した「ビハインド・ザ・マスク」のプログラマーも彼。というわけで、ロジック・システムエリック・クラプトンの妙縁を結ぶ、これもまたジグソー・パズルのピースのような、未公開カヴァーの初収録なのだ。
 YMO『増殖』、第2回ワールド・ツアーで知り合った松武氏と大村氏は、その後歌謡曲のレコーディングなどで親密な関係となり、そのコラボレーションが大村憲司初のテクノポップ・アルバム『春がいっぱい』に結実。『東方快車』にも曲提供し、ソロアルバムに通じるハンク・マーヴィン(シャドウズ)風のリードを弾いていた大村氏だが、このライヴは大村憲司の生涯唯一のテクノポップ・スタイルのライヴとしても、ファンには見逃せない内容になっている。また、最後のスプートニクスのカヴァー「霧のカレリア」には、加藤和彦氏がギターで参加。トノバンが他バンドのゲストでバッキングを務めるというのも、貴重な録音なのではあるまいか。
 ちなみに本作、ブリッジの特設ページでサンプルが聴けばわかるが、元は発売することを想定していないプライベート録音。カセット・マスターの商品化は、サディスティック・ミカ・バンド『ライブ・イン・ロンドン』と同様のケースになるが、本人立ち会いの下で修復作業を経てマスタリングが行われた。録音には難があるものの、ロジック・システムをフルコンプしているファンならば、これは持っていたい必携アルバムに仕上がっている。