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過去にはてなダイヤリーで連載してた連載コラムのアーカイヴです。

マリ・ウィルソン『ショウ・ピープル』(ハヤブサ・ランディングス)紙ジャケ復刻

ショウ・ピープル

ショウ・ピープル

 80年代ニュー・ウェーヴ世代には懐かしい、マリ・ウィルソンのデビュー・アルバム『ショウ・ピープル』が、コンパクト・オーガニゼーションのオリジナル仕様(曲順、ジャケット再現)で9月8日に初CD化される。トット・テイラーのロンドン・ポピュラー・アーツが日本のWAVEと契約していた時期に楽曲の初CD化が果たされて以降、数々のコンピ盤が海外でリリースされてきたが、意外にもオリジナル『ショウ・ピープル』のCD復刻はこれが初めて。96年にソニートット・テイラーの新レーベル、サウンドケークスと配給契約を結んだとき、ヴァーナ・リントのアルバム2枚が完全復刻されてやんややんやの盛り上がりがあったけど、なぜかこのときはマリのアルバムだけ『ジャスト・ホワット・アイ・オールウェイズ・ウォンテッド』と改題され、「Cry Me A River」のみ「Tu No Me Lores」というスペイン語ヴァージョンに差し替えに。同一CDに『ショウ・ピープル』全曲が収まったのは、2007年に英ライノから出た『The Platinum Collection』が初めてで、今回の復刻はこのときの最新マスターを素材に、曲順やタイトル、スリーブをコンパクト・オーガニゼーション盤『ショウ・ピープル』の形で完全復刻したものである。初回発売時の封入カレンダーも再現。レプリカのような紙ジャケットでの復刻は、当時からオマケがジャラジャラついていたコンパクト・オーガニゼーションのカタログにふさわしい形に。そして今回、有り難くも小生がライナーノーツを書かせていただいた。
 洋楽タイトルのライナーを書かせてもらうのは久々になる。以前、本作のプロデューサー、トニー・マンスフィールドが率いるニュー・ミュージックのライナーを書いていたことから、復刻担当者の方のお眼鏡に叶い、今回依頼をいただくことに。有り難いこってす。久々に資料として昔のアナログ盤を引っ張り出してきたのだが、FM雑誌、ファッション雑誌系のノリのライナーノーツが80年代っぽくて懐かしかった。実は『ショウ・ピープル』の日本盤は、イギリス以外の国で配給していたロンドン・レーベル(デッカ)のインターナショナル盤に準拠しており、「エクスタシー」をシングル「ボーイ・フレンド」に差し替えた内容違いのもの。いわば今回の復刻は、英国オリジナル仕様としては本邦初リリースになるのだ。当時のロンドン・レーベルの日本の発売元だったのがポリドール。バークレイと同じ洋楽セクションで扱われていたようで、日本だけはバナナラマ、ファンカポリタンなどのUKソウルと組み合わせたコンピレーション盤などもリリースされていた。ハンドメイドな他のコンパクト組と違って、メジャーのロンドンが配給していたマリ・ウィルソンだけは破格の扱い。おそらく『ショウ・ピープル』をヒット・メーカーだったトニー・マンスフィールドにプロデュースを依頼したのは、コンパクトとロンドンのジョイント・ヴェンチャー商品だったのではなかったかと。当時、クリエイションとワーナーの合同レーベル、エレヴェイション(エドウィン・コリンズetc)とか、モノクローム・セットのブランコ・Y・ニグロとか、勢いのあるインディにメジャーが出資するなんてケースもけっこう多かったのよ。
 マリ・ウィルソンの音源は、初期シングルのトット・テイラー(テディ・ジョンズ)・プロデュースと、『ショウ・ピープル』に始まるトニー・マンスフィールド・プロデュースの、大きく分けて二種類がある。トニー信者の小生だけれど、マリ作品についてはトット・プロデュースのほうに軍配があがる感じ。しかし、16トラックのガレージ・スタジオで作った他のコンパクト作品にはない、メジャー感がトニー・プロデュースにはある。実際、『ショウ・ピープル』は本邦初上陸時、「アレンジの教科書」と言われるぐらい、歌謡曲筋でセンセーショナルに迎えられており、ワタシの大好きなおニャン子クラブのアルバムなどに、秀逸なエピゴーネン作品が散見できたりする。先日、復刻に関わった清水信之『エニシング・ゴーズ』と同年代の作品だから、あのリン・ドラム・サウンドがモロ聞こえてくる、80年代的なレトロでデジタルな音にどう反応するかで評価が分かれるところがあるが、モータウンを当時の最新エレクトロニクス(フェアライトCMI)で処理したゴージャスなサウンド高橋幸宏のYEN時代のソロやYMO『浮気なぼくら』路線が好きな人なら、そのオリジンに出会えるコーフンがあるのでは? 是非一聴あれ。