POP2*5

過去にはてなダイヤリーで連載してた連載コラムのアーカイヴです。

実録! ustream試験放送パート2「80年代テクノポップ映像祭」の技術報告

 昨晩(4月9日)深夜に放送した拙者企画のustream試験放送第2回をご覧になった皆様、お付き合いありがとうございますた。前回は日曜日深夜だったため翌日が平日ということで、甚だ迷惑な日程での放送だったが、今回は週末に切り替え。第1回の最大のライバルだった常盤響氏の「レコ部」に変わって、『タモリ倶楽部』の恒例「空耳アワースペシャル後編と時間帯が重なるというアクシデントに見舞われたが、それでも150人近くの視聴者にアクセスいただいたのはありがたい。同様のイベントはリアル会場でここ5カ月続けてきたわけだが、参加できなかった非関東エリアの方々に観ていただけたのはustreamのおかげ。感謝しておりまする。
 実は1回こっきりで終える予定だった試験放送をもう一回やってみたのは、前回使えなかった中継用アプリを試してみたかったから。動画にアバター(イラスト)を登場させるなど、前回できなかった技術テストのために今度はムービーをフィーチャーしたものをやることとなり、昨年11月11日に新宿ロフトプラスワンでやった「秋のテクノポップ大感謝祭」の使用素材を再編集した、「80年代テクノポップ映像祭」をテーマに選んだ。マンガ家の江口寿史氏とミュージシャンの戸田誠司氏をゲストに迎え、店内の大型プロジェクタに当時の映像を映しながらDVDの副音声みたく、バンド解説や当時の思い出を語っていただくというそのイベントは、珍しい形式だったためたいへん好評をいただいた。そのとき集めた膨大な映像データを使ったのは一回こっきりで、もったいないなと思っていたので、ちょうと新技術のテストにおあつらえの素材になった。ロフトプラスワンでのショーは3時間半に及ぶもので、昨晩流したものはそこから約半分を落としたダイジェスト編。「YouTube、ニコ動でも観れない映像ばかりを集めた」をうたい文句にやったイベントだったから、普段YouTubeをまめにチェックしている人でも、初見の映像が多かったと言っていただけたのは光栄である。
 実は11月11日のイベントも、もともと予定されていた「松武秀樹vs.森達彦プログラマー対決」という企画が開催日2週間前に出演者の都合でNGになり、代替企画として急遽立ち上げたもの。使われた素材は93年にやった渋谷での映像上映イベントのために、各レコード会社から非公式に貸し出してもらったレア映像ばかり。約15年眠っていた素材を復活させたのは、そういうハプニングがあったからというのが本当の理由で、当初からゲリラなイベントという自覚があった。事情があって封印されているPSY・Sの初期PVなどを、当時のディレクター氏の観ておられる前で流してるんだから冷や汗もの(笑)。それらの映像は今日なかなか観られる機会が少ないのだが、ソフト化されていない素晴らしい映像が80年代にはたくさんあることを、昨晩の放送でご覧いただいた方々ならおわかりいただけだろう。このところ「テクノポップvs.テクノ」みたいな議論でTwitterが炎上したこともあって、テクノポップを擁護したい気分もあったし、コスチュームやステージングに見られる過渡期の映像こそ、復刻CDではわからないテクノポップ最大の魅力。90年代に勃興したテクノのドラッグ映像とはまた違った、学芸会的なヴィジュアルの面白さがあの時代のバンドにはあったのだ。昨晩もセレクトした、P-MODEL、アーバン・ダンス、立花ハジメをフィーチャーした「フジAVライヴ」なんて、その1夜のためにブラウン管モニタ何十台も搬入して積み上げて、シンクロなどできない初期の映像装置でオールマニュアルでやってたんだから、舞台裏の苦労はたいへんなもの。小型のノートブック1台あれば映像すべてができてしまう、今の世代が観れば笑うだろうが、失敗が許されない会場のテンションは、記録映像からでもなんとなく伝わってくるんじゃあるまいか。
 ただでさえ著作権や原盤権問題で、曲を使うことだけでもウルサ方を刺激するustreamで、映像まで使ってやるんだから非合法極まりない(笑)。しかし映画『パイレーツ・ロック』じゃないけれど、海賊放送にもユーザーの声に応えた海賊放送なりの精神があるつもり。「法整備が整うまでは何もしないべき」という方々の姿勢も高く評価しているワタシだけれど、こと映像関係については日本の法体系では、たぶん永遠に許可を取って流すことなど無理だろう。そういう意味でustreamの数ある放送の中でも、もっともゲリラチックなプログラムになったのかもしれない。ま、一回こっきりってことでお許しを(笑)。
 さて、映像をつかったのはあくまで技術テストのためで、今回の主たる目的はPC上の画面をそのままustreamで生中継する、スクリーンキャスト用のアプリ「ManyCam」の使用実験。前回使ったMac用の「CamTwist」はプロ機材を技術を移植したシンプルなものだが、こちらはライヴカム中継などアマチュア向けの多彩な機能が盛り込まれている。いずれも無料なので一度試してみてもらうとわかるけど、内蔵カメラで撮影した自分の顔の背景に『巨人の星』みたいな炎メラメラのアニメーションを追随させるなど、ナニコレ的な付加モードがたくさん付いている。このうち、Objectsというムービーに手書きイラストなどをレイヤー合成するモードを試してみたくて、第2回を企画したというわけ。そこで今回も前エントリに引き続き、中継に使った技術を解説しておくことにする。今回も送信用に使ったのはMacBook1台である。





 これは放送時の送信側のMacBookのデスクトップ画面。映像の再生は前回同様iTunesを使っている。画面キャプチャ用の「ManyCam」でムービー画面部分をトリミングして、これを専用の送信アプリ「ustream producer」を通してustreamのサーバに送る。プロセスの処理は以下の通り。


iTunesでデータ化されたムービーを流す

ManyCam」でムービー部分のみを画面トリミング

ManyCam」上で文字、イラストをレイヤー合成

合成画面を「ustream producer」経由でustのサーバに送る


 前回使った「CamTwist」とやれることはほぼ同じだが、「ManyCam」のテキスト入力はチャットのように打ち込んで即反映されるために、日本語環境だと誤変換などがそのままテロップ合成されてしまうのが難点。そこで今回はエディタを別に立ち上げて、そこで打ち込んだネームをコピペして、その都度「ManyCam」のテキストフレームに貼り込むというメンドくさい作業をしている。一度表示させたテロップは、自由にオンオフできる。
 また「CamTwist」と違って、「ManyCam」の画面トリミングは自由に設定できない。一応、ハイヴィジョンなど画面サイズを選択できるWindows版より、さらに機能が限定されているMac版は、画面のアスペクト比は固定になっている。





 ソースモードでトリミングを選ぶと、写真のようにグレーのトリミングパッドが表示される。これをiTunesの再生映像に重ねるだけで完了。





 これはレイヤーで別の静止画(動画プログラムも可)を重ねられるObjectsモード。進行役のうさぎDJのさまざまな表情を描いておき、TBSの『CDTV』みたいに、アバターの表情をリアルタイムに切り替えることができる。Objectsは別フォルダを作ってそこに画像を登録すると、2枚以上の絵を重ねることもできる。
 うさぎDJのイラストは、いつも使ってる「ComicStudio」でちゃっちゃっと描いたもの。背景を透明にするのは、「Photophop」などアルファデータを扱えるグラフィックソフトならどれでも可だが、自分はいちばん簡単なフリーソフトGIMP2」を使っている。読み込んで、マジックハンドで背景を選択→選択部分を透明化、これで一発で終わり。





 これは最終的な映像配信用の「ustream producer」の選択画面。上記フレームに写っているのが送信中の最終画像。下のサムネイルは選択候補画面で、無料版は3つまで登録できる。いちばん左は「ManyCam」からのダイレクト出力。中央のは今回の放送用に作ったオープニングマンガのムービー。いちばん右はトイレ休憩用のアイキャッチ(静止画)で、ザ・バード&ザ・ビーのニューアルバムの音を10分程度にメドレー化した音が貼り付けてある。オープニングマンガは、開始2時間前ぐらいに「iMovie」で即席で作ったもので、あそこで使ってオシマイのしょーもないものなののだが、簡単にできる実例としてYouTubeに上げておく。





 最終的にどんな放送になったか、その雰囲気を伝えるためのサンプルムービーを作ってみた。例によって無音声なのであしからず(生放送で跡形なくゲリラなことができるのは、ustreamだけの世界なので)。





 事前に「iTunes」用のムービーデータを仕込んで臨んだとはいえ、曲飛ばしなどは空気を読みながらリアルタイムで操作。アバターの切り替えやテキストジョッキーを同時にやるのはさすがにたいへんな作業で、テスト受信用のデスクトップPCに立ち上げてあった、Twitterでの視聴者との掛け合いも今回はほとんどできず。トホホ。もう一度やるとしたら、ムービーものをやらない限りは、やっぱシンプルな「CamTwist」のほうが便利だな。打ち込んだ日本語を確認後にエンター→画面表示、これができない「ManyCam」では作業は繁雑になってしまうのだ。
 と言うわけで、「レア映像祭」のインパクトにやられてほとんど話題にもならなかった、イラスト合成、テキストジョッキーのプロセスを技術解説をしてみた。さすがに映像だけを「ダダ漏れ」させるのは、制作の仕事もやってる立場なので心苦しく、画面合成などの処理込みだからできる放送ってことでご理解いただければありがたい。
 7000人近くがアクセスしてもサーバが落ちない、セミプロ仕様の環境が無料で使える「ustream」は本当に素晴らしい。その技術を体験してみたいという好奇心があくまで先で、今後こういうゲリラなものをやるかどうかはムムムなのだけれど、もしこのエントリを読んで興味を持たれた、あまり宣伝予算がないという(笑)ギョーカイ関係者がおられたら、応用術などいくらでもアドバイスできますんで、お声がけいただければ幸いである。


今後のustream活用方針は上記エントリの通りだが、CamTwistを使ったテキストジョッキーの味も忘れられずw DJ形式のやつは近々やると思われ。予告しないと思うのでhttp://www.ustream.tv/channel/ugtktv/をフォローよろ! 深夜番組がつまんない日などに神出鬼没するので、徹夜作業やおやすみのBGMとして使っておくんなはれ。