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過去にはてなダイヤリーで連載してた連載コラムのアーカイヴです。

大野雄二『24時間テレビ 愛は地球を救う』、『生命潮流』(ブリッジ)の紙ジャケ復刻、1月20日発売決定!

Love Saves The Earth 愛は地球を救う (紙ジャケット仕様)

Love Saves The Earth 愛は地球を救う (紙ジャケット仕様)

  • アーティスト: 大野雄二,大野雄二&ユー・アンド・エクスプロージョン・バンド
  • 出版社/メーカー: BRIDGE-INC.
  • 発売日: 2018/11/01
  • メディア: CD
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LIFETIDE-生命潮流

LIFETIDE-生命潮流



 年明け早々、宣伝で申し訳ない。12月の情報公開日に、Twitterでも一度告知させていただたが、改めて。今月20日にワタシが復刻監修した、ジャズ作曲家・大野雄二の80年代の代表的アルバム2タイトルが、ブリッジより紙ジャケでリリースされる。過去にビクターから発売されていた、日本テレビ制作のテレビ番組のサウンドトラックで、『24時間テレビ 愛は地球を救う』(78年)、『生命潮流』(82年)の2タイトル。ともに初CD化となる。
 『24時間テレビ 愛は地球を救う』は、78年にスタートした、日本テレビの恒例のチャリティ番組のサウンドトラックで、音楽総監督を大野雄二が担当。番組開始年のこの年だけ、大野が書いた各コーナーのテーマ曲、手塚治虫の2時間アニメの劇中音楽(抜粋)を集めた形で、アルバムがリリースされている。クレジットは代表作『ルパン三世』と同じ、大野雄二とユー&エクスプロージョン・バンド。同世代の大野ファンなら、番組のオープニング・テーマは「『ルパン三世』の次に重要な作品」、あるいは「マニア人気の高い『大追跡』のテーマを加えたベスト3に入る」というほどの人気曲である。初代プロデューサーが視聴率不振を理由に91年で降板するまで、ずっと毎年使われてきたものなので(その翌年から、加山雄三サライ」が象徴的な曲となる)、一回り下の世代にもおなじみだろうから、これが初CD化と聞いて意外に思うかも。
 大野は91年まで同番組の音楽総監督を務めており、オープニングを含む数曲は、そのままシリーズを通して使われている。翌79年は手塚アニメ『海底超特急マリンエクスプレス』の主題歌(トミー・スナイダー)、オープニング曲をAB面に収録したシングルが、日本コロムビアからリリース。大野の推薦もあって、ゴダイゴが歌ったキャンペーン曲「トライ・トゥ・ウェイク・アップ・トゥ・ア・モーニング」もシングル・カットされている。本来、ユー&エクスプロージョン・バンドは日本コロムビアのサトリル・レーベル所属なので、79年に関連シングルが同社から出たのはむしろ妥当なのだが、前年にアルバムがビクターから出ているのは、その年のキャンペーン曲だった、アルバムの目玉となるピンク・レディーが歌うテーマ(これのみ都倉俊一作曲)を収録するための、便宜的措置だったのだろう(出版はすべて日本テレビ音楽出版。原盤は曲によって異なる)。今はなきディスコメイトから出ていた代表作『大追跡』をCD復刻した功績もあるA&Rの高島幹雄氏が、未発表音源を含む『大野雄二ベスト〜コロムビア・エディション〜』を日本コロムビアで手掛けた際にも、マスターテープがビクターにあるために同曲が収録されなかったため、まさに待望のリリースといった感がある。
 今回も復刻に際し、ビクターからの原盤貸し出しを申請する際に、ピンク・レディー曲の扱いをどうするか検討された経緯もあった。同曲を外して、彼女らのイラストを使わない改訂ジャケットでの復刻案もあったのだ。だが、ディレクター氏のオリジナル復刻へのこだわりがあり、交渉に時間がかかったものの粘り勝ちといった感じで、曲構成もそのまま、オリジナル・ジャケットでの復刻が叶った。人気エアブラシ作家だったイラストレーターの山口はるみ浅葉克己がアート・ディレクターを手掛けたジャケットも、大野のサウンドとともに、あの時代の雰囲気を伝えてくれるだろう。
 著書もあり、ファンキーな筆致でおなじみのブログもある大野氏だが、意外にも取材嫌いとのことで、こちらも一度断られたのをなんとか粘ってお願いし、最新インタビューをライナーノーツに収録することができた。『犬神家の一族』(77年)のサウンドトラックで、ジャズ界の新鋭として登場。『ルパン三世』では、アニメ界では異例のインストゥルメンタルのテーマ曲を書いて、アルバムをオリコンチャート入りさせるなど、当時の大野雄二の存在はコンポーザーとして群を抜いていた。こうしたフュージョンをベースにしたサウンドを、日本人で実践していたアーティストはそれほど多くはない。音楽大学出身ではない氏の足跡は、村井邦彦石坂浩二佐藤允彦といった、慶応大学のOBネットワークから広がっていったもので、劇伴界でキャリアを築いてきたという、ジャズ・メンとしてはかなり独特なもの。まるでブロードウェイ・ショーのオープニングような、豪華絢爛なあのテーマ曲はいかなるアイデアから誕生したのか? YMOインタビュー本のときみたく、取り調べもかくやの心境で迫っており、ライナーノーツも我ながらなかなかの読み物になったのではと思う。ちなみに、大野氏の一連のフュージョンサウンドは、デイヴ・グルーシンの劇伴仕事が手本になったもので、このころの大野サウンドには、東海岸のジャズ・シーンで70年代末に起こったディスコ・ブームが影響を及ぼしている。ミーコ『スター・ウォーズ』メイナード・ファーガソン『征服者~ロッキーのテーマ』などが、その時期の代表作品。『スター・トレック』のメイナード・ファーガソンのヴァージョンは、『アメリカ横断ウルトラクイズ』のテーマ曲に使われているのでおなじみだろう。ついでに言うと、勝ち抜き組が次のエリアに移動するときに使われているチャールストン風の曲も、ミーコのアルバム『スター・トレック〜ブラック・ホール』に収録されている曲。70年代の日本テレビと言えば、即「=フュージョン」と連想させるほど、あの時代の同局のテレビマンには、モダンな音楽センスがあったんだな。
 70年代末期の、各ジャンルで起こった「ディスコへの接近」は興味深い現象で、細野晴臣も同じくミーコやオーガスト・ダーネルに注目したのを発端に、ディスコ・サウンドのメッカ、ミュンヘンからドイツに注目。ジョルジオやクラフトワークをヒントにして、YMOが結成されるに至っている。大野雄二の未CD化音源もまだまだあって、日本テレビ音楽出版の創業25周年記念に出た非売品の2枚組LPを再編集した、オムニバス『アワ・フェヴァリット・ソング』に収録されている『ベルサイユのばら』(ミッシェル・ルグラン作曲)のディスコ・ヴァージョンもかなりの秀作。実はルグラン自身も、『シェルブールの雨傘』をメドレーでディスコ・アレンジした企画盤があったりする。サントラ界の名匠が70年代に出したディスコ作品って「不遇期の企画物」って一蹴されることが多いんだけど、現象として捉えるとなかなか面白いのな。マジックショーの定番曲である、ポール・モーリア楽団「オリーブの首飾り」、「ペガサスの涙」なんてのも、コルグのPS-3100などのシンセサイザーが駆使された、あの時代のイージーリスニング+ディスコの化学的結合の産物なんだし。
 もう1枚は、その3年後にリリースされた『生命潮流』のサウンドトラックで、拙著『電子音楽 in the (lost)world』でも紹介している、シンセサイザー・インストの秀作。ライアル・ワトソンの同名の著書に材を取ったテレビマン・ユニオン制作のドキュメンタリー番組のために作られたものだが、本編の劇伴で使われたオーケストラ版とは別に、大野が只一人、ドラム・マシンやシンセサイザーで多重録音を試みた、同番組のイメージアルバムとして作られた異色作なのだ。生涯、大野雄二がトッド・ラングレンみたいにワンマンで制作したのはこのアルバムだけ。大自然ドキュメンタリー映像に異色のエレクトロニクス・サウンドを付けて話題を呼んでいた、ヴァンゲリスタンジェリン・ドリームに対抗して(大野氏いわく「半ばバカにして」)やってみた実験作品とのことで、大野編曲のジャズ・スコアを電子楽器に置き換えると、こんなにも奇妙なサウンドになるのかと思うほど、ポスト・モダンな音響に。楽器はリン・ドラム、プロフィット10、初代シンクラヴィアなどのMIDI以前の名機。ハンマーレーベルの森達彦氏の先輩格に当たる、『水木しげる/妖怪幻想』などで有名な浦田恵司氏がプログラミングで参加している。ジャングルSEなどもご丁寧にシンセで音色合成したりと、クラシックなシンセ・レコード的構成がたまらないのだが、その聴感はまるで、細野晴臣フィルハーモニー』や、テストパターン『アプレ・ミディ』の兄弟のようと言ってもいいほど、YENレーベル作品に近いのだ。実際、インタビューで話を伺ってみると、大野氏がフェヴァリット作品として挙げる、ドナルド・フェイゲンナイト・フライ』などの影響があったのではと聞いて、思わず納得。レコーディングが行われたのは、俳優の西郷輝彦のプライベートスタジオで、あの方も業界随一のオーディオ・マニアでアップルのコア・ユーザーとして有名。そういうディレッタント精神、お遊びでやってみた感がサウンドの隅々にも感じられて、少し音を加えても引いても成立しない、絶妙なアンサンブルになっているのが素晴らしい。
 復刻が決定し、推薦コメントを誰に依頼しようかという話になって、『生命潮流』を聞かせてみたいコメンテーターとして真っ先に名前を思い付いたのが、漫画家の江口寿史氏。テストパターン『アプレ・ミディ』を誰よりも愛する江口センセならば、きっと気に入ってもらえるだろうとコンタクトをとってみたら、のわんとLPでリリースされた当時から、『生命潮流』は愛聴盤だったんですと! ちなみに『24時間テレビ 愛は地球を救う』のほうの推薦コメントは、70年代の大野雄二作品を愛してやまない、元ファンタスティック・エクスプロージョンの永田一直氏が担当。考え得る最良のコメンテーターを揃えて、やっと発売日を迎えることができた。
 トータルで60万枚近くのセールスした記録を持つ『ルパン三世』のアルバム人気にあやかって、その10分の1ぐらい売れてくれるといいんだけどな(笑)。知名度はそれほど高くない作品も含まれるが、騙されたと思って、ブリッジの特設ページレコード店の視聴機でぜひ聴いてみてほしい。ワクワクするようなサウンドが、きっとアナタを青春時代に誘ってくれるはず。