シリーズ「萌え絵変遷史」4話連続掲載!
このところ某SNSで毎日更新しているマンガの傑作選(笑)を勝手気ままにお届けしている「POP2*5」である。某SNSというのは最大手「Pi●iv」のことなのだが、やや特殊なここのユーザー傾向をご存じの方からは、「あそこは萌え系だから向かないんじゃないの?」と、心配する声を寄せていただいたりして。実を言うと、前身のブログ「POP2*0」を始めるときにもアドバイスをもらった、有名なITジャーナリストで友人のT氏に今回も助言を仰ぎに行って、「ここがいいんじゃないの?」と勧めてもらったところに何の迷いもなく、手続きして入っただけというていたらく。最初に登録したのは昨年12月の初旬だったが、そのころ会員数40万人ぐらいだったのが今では70万人に近づこうとしているというほど、ここは数ヶ月で爆発的に会員数を増やしている。今日のプレスリリースを見たら、エンターブレインとのジョイントベンチャーも始まったらしくて、快進撃はまだまだ終わらない様子だ。
ヤフオクにしてもYouTubeにしても、バイヤーやギャラリーの立場で利用するのではなく、実際に売り手送り手として能動的に参加してみないと、サービス内容の奥深いところにある真価に気づかないことが多い。「Pi●iv」に登録したときも、とにかく事前の周辺取材もせずに「習うより慣れろ」で始めてみたんだけど、実際は思ってた以上にアニメ風の絵ばっかりだったのにはちょっと閉口してしまったな……。ちょっと居心地が悪いので早々に引越を考えて、同様のサービスをいろいろ調べ、実際にいくつかのライバル的SNSに登録してみたのだこともあるのだ。
萌え萌えワールドから一歩でも逃げ出したかったので、第一候補はアート寄りの「DeviantART」(アメリカのサービスなので英語)だったんだけど、投稿作を2つ3つ描いてみて、自分の描くマンガがいかに文章に依存し、なおかつ日本人の特殊性を肴にした複雑なネタをやっているかを痛感したことがあって、考えを改めて純国産サービスから選ぶことに。最初に入ってみたのが「P」で、当時アンチ「Pi●iv」派がドドッとなだれ込んだと言われ、ライバル最右翼と目されていたとこなんだが、実は会員数が異常に少ないことが判明。どの投稿サイトにも、読んで面白かった作品をユーザーが投票して人気作品を決めるランキングがあるんだけど、10点ぐらい点数が入るだけでベストテン入りしてしまう寂れた状況に、居たたまれなくなってすぐに退会してしまった(笑)。「マンガを仕事にしたい」という思惑ありきの小生だったので、次は某大手出版社直営の「D」も研究してみた。一見、出版社主宰の公募サイトゆえにデビュー最短コースのように思いがちだけど、さにあらず。出版社の新事業開発室のような傍流セクションが立ち上げるサービスというのは、けっこう社内で嫌われている傾向があって、そういうルートで入ってきた才能を疎んで使いたがらない編集部が多いのは、小生自身が長い間出版界で働いているからよくわかる。実際、コンペで優秀作品に選ばれてもまったく雑誌に載る気配がないために、どうなってるんだというクレームや告発も出てるみたいで、ここも結局登録はしたけどそれっきりになってしまった。最後に、イラスト投稿系SNSとしては最古参にあたる「T」にも登録。ここは他のSNSが会員数を増やすときの隠れた切り札になっている「成人向けポルノ投稿」を一切禁じているために、女性ユーザー中心と言われている老舗中の老舗。登録したあと、様子を見るためにかなり長い間利用してみたんだけど、なんとなく見通しが明るくないことに早々と気付く始末で。ここは素人のイラスト系ブログのリンク集というか、その手のアマチュアクリエイターの情報を集めたポータルサイトが前身だそうで、同人誌即売会などの季節になると、一気に投稿が増えて各自が勝手に宣伝合戦するという盛り上がり方をしてきたらしい。別にコミケとかやる予定もない小生は、淡々と投稿を続けていたんだが、なんか変だなあと思い始めたのは1カ月ぐらいしてから。ここも他と同じ投票ランキングシステムがあって、そんなユーザーの応援が描く側のモチベーションになってたりするんだけど、この「T」だけは評価がやたら辛くて。そもそも、プロデビューを真剣に考えているユーザーが「T」には多いかららしいんだけど、まあ意地の悪い言い方をすれば、何年も投稿してて一向にデビューできないような人が巣くっているわけで、ある種独特のイヤ〜な「他人の作品にやたら厳しい」空気がありまして。小生はわりと気楽に読んで、面白かった人の作品にバンバン投票してたんだけど、古くからの住人たちはコミケの宣伝だけして消えるだけで他人に投票なんてしないらしく、ワタシのところだけずっと「0点」が続くという寂しい状況に涙……。もちろん、面白がってくれる人もいたことはいたんだが、なぜか意固地に点数入れたがらないのなー。そういう妙なこだわりというか頭の硬い人が、10人中9人ぐらいいるみたいなとこだったので、アホらしくてとっとと退会してしまった。なんだかんだ言っても、ちょろっと萌え絵やエロ場面描くだけでご祝儀の点数入れてくれる「Pi●iv」のユーザーのほうがずっと素直でわかりやすい。そんなこんなで引越の計画は果たせず、行き場のないままユーザーを続けているという、かなり消極的な理由で今に至っているという状況なのだ。
ともあれ、とりあえず描いて、人に見せて反応を知る、ウォーミングアップの場所と割り切って、ここ数ヶ月「Pi●iv」を使わせてもらっている。外から見ると「イラスト&マンガ投稿サイト」と言われれば、比率は50:50ぐらいのような印象があるかもしれないが、実際入って見てみた印象としては、イラスト比率が9割8分ぐらいで、ほとんどマンガなんてありゃしない。小生のように絵コンテから入ってなんとなくマンガ風にデッチ上げてる、絵はテキトーで物語作りがメインという人間はかなりの少数派。昔、小学生に「将来なりたい職業は?」と聞くと、1位パイロット、2位野球選手と言われてたもんだが、ここ数年はずっと、1、2位をマンガ家、ゲームクリエイターが独占している状況があると聞く。そういうマンガ熱が「Pi●iv」70万人突破という実数に結びついてたりするんだろうけど、こうもまあアニメ風一枚絵のイラストばかりが投稿されるのを見ると、「物語が作れないマンガ家くずれがいかに多いか」と、ついつい批判的な言葉が口をついてしまいそうになる。萌え絵が盛り上がるのはけっこうなんだけど、その手の絵だけで占拠されているランキングがこうも毎日続くと、第三者から見てすごく頭の悪そうな感じがするので、運営側ももう少し配慮したらいいのにと思ったり……(余計なお世話か)。下手な専業の人よりも今ではずっとイラストレーターらしい江口寿史さんが、それでも「俺はマンガ家である」とキッパリ宣言したりするのは、手塚治虫などの名作を読んで大人になった、マンガ世代らしいコンプレックスというか矜持があるんだろうけど、そういう「後ろめたさ」みたいなものは、今のマンガ描きの人にはないのかもしれないね。
「Pi●iv」でいちばん人気があるのは、アニメのセル画風の美少女のポーズの絵である。それを見てギャラリーが「塗りがキレイでうっとり」とかコメントしながら点数を入れたものが、毎日ランキングの上位を飾っている。イラストレーションというものに自分なりに一家言を持ち、その種のクリエイターに対して畏敬の念を感じている小生にしてみれば、まるで塗装技師の技能オリンピックで競っているみたいに滑稽に見えて、そこから「知的な刺激」を受けることなどほどんどない。「オリジナル探求は?」だとか「没個性であることの恐怖は?」なんて古い文言を投げかけられても、「それって美味しいの?」と返されてオシマイ。昔、渋谷陽一が「なぜクイーンが日本人に人気なのか」について書いたコラムの中で、「味覚のわからない日本人は、やたら幕の内弁当をありがたがる」と語っていたが、そんなシュールな名言をなんとなく思い出してしまった。
日本のアニメ史をちょっと勉強するとわかるんだけど、東映動画に始まるアニメーションの歴史の最初のころから、複数の絵描きが参加する劇場作品では、描き手のクセの違いによる絵のばらつきをできるだけなくすために、元々アニメのキャラクターデザインというのは、上手い人が描いても下手な人が描いても同じになるようシンプルに造型するという習わしがある。宮崎駿と大塚康夫の絵が似ているとかいうのはもっともな話で、そういうアニメーターならではの文化圏があるのだ。ディズニーも手塚治虫も大局的には同じ。色がのっぺりしたセル画のカラーリングというのも、作業効率的な理由があって、そういう簡略化の考えの下に生まれたものだ。アニメーターというのは、『魔法使いサリー』の少女マンガ絵も、『タイガーマスク』のような劇画も、カワイイ動物の絵もかけてこそプロという、いわば徹底して作画家としての個性を剥ぎ取ったところで「表現」に関わるという、かなり特殊な芸術家というか職人のような商売なのだろう。だから「Pi●iv」ユーザーが、セル画の一場面を抜き取って模写して、それを額縁に入れたものを“イラストレーション”と呼んでいる光景には、かなり歪なものを感じてしまう。つか、そもそもそれってイラストじゃなくてただのセル画なんじゃないの? アニメーションのあのシンプルな絵、セル画塗りという省略画法は、動きなりストーリーなりを付けるという大前提があって存在しているものだと思うので、こうしてなんの迷いも自己批評もなく、アニメ風の萌え絵がイラストレーションと称して、ありがたがられている昨今の風潮にとてもおかしなものを感じる。
そんなことを指摘している小生などすっかりアナクロで、いまどき「Pi●iv」に限らず、他の投稿サイトもほとんどアニメの萌え絵ばかり。誰かが意図してそうなったわけじゃないと思うので、おそらく大半の人が横尾忠則だのぺーター佐藤だの宇野亜喜良だのの築いたイラストレーションの歴史の先に、自分たちのアニメ絵があると本当に思っているのだろう。だが一方で、そういう偏向状況に気持ち悪さを感じている人は、もちろん小生以外にもたくさんいるようで、ある種のパロディめかした表現で、投稿作品の中にメッセージを盛り込んだものもよく見かける。ところが、「萌えマンセーはいかがなものか、諸君!」みたいに文章で訴えかけているものが大半で、ちょっと芸がない。萌えイラストばかりに人気が集まって、自分の作品を見てもらえないことに耐えかねた人が、「私が退会するという行動に出たことを、一つのメッセージとして受け止めてじっくり考えてほしい」なんて書いて大マジメに宣言して勝手に自爆してる特攻隊みたいな人もいて、こちらも鼻白む。気分としては小生もアンチ側に与する立場だけれど、そういう「私を構ってくれない」的なナルシスティックな意見には賛同しないからね、ワタシは。「萌えイラスト人気」の状況に憂いている人々の側が、どうしてこうもユーモア精神のない人ばかりなのかが不思議。
まあそんなようなことを日々感じながら、小生なりに昨今の萌え文化をマンガで批評してみたという、2月初旬ぐらいに連続投稿していたシリーズがあるので、それを読者の方に読んでいただけたらと思って、ここに掲載することにした。シリーズは全部で4回。最初は美術史のテキスト風にかなり衒学的に展開していったんだけど、基本的に描きながら次のコマの内容を考えるフリージャズみたいな描き方をしてるから、ほとんど尻切れトンボで終わってる。かなり長いものが多いんだけど、マンガに関しては本当に無手勝流で、基本的に下書きを一切せずにいきなり描くので、わりと描くのは早いほうだと思う。描かれる側からすれば、聞きたくもない小言を親から聞かされるみたいなもんだから、掲載当時は相当荒れて、匿名掲示板などでやり玉に挙がったりしましたな(笑)。「マンガ描く人には性体験の乏しい人が多いんだろうか?」とか、わざと怒らせるようなことも書いてたもんだから、よほど腹に据えかねるところがあったのか、毎日来ては1点ずつ入れて帰る(マイナス評価の意)ご丁寧な人もいた。でも、こういうのって大人のたしなみとして、当事者も心の奥ではコノヤローと思いつつニヤリと笑って受け流すというのが、プロパーの風格というか大人の余裕だと思うんだけどな。
■第1話「ブラック!萌え絵変遷史」
■第2話「ビターテイスト!萌え絵変遷史PART2」
■第3話「ダークネス!萌え絵変遷史PART3」
■第4話「火星人・ゴー・ホーム!(萌え絵変遷史外伝)」