POP2*5

過去にはてなダイヤリーで連載してた連載コラムのアーカイヴです。

「テクノ歌謡の真髄は“萌え声”にあり」の巻

テクノ歌謡 アルティメット・コレクション1

テクノ歌謡 アルティメット・コレクション1

 小生が制作進行を担当した、11月30日に発売される『テクノ歌謡ディスクガイド』(扶桑社)が無事入稿を終え、後は校了日を残すのみとなった。リリースまで1カ月を切ったわけだが、ここから発売日までが正念場。書店、問屋から注文をいただいて初めて、一般書店で普通にお客さんが手に取れる状況ができるかどうかが決まってしまうわけだから、制作時以上に発売までのカウントダウンの期間は気が抜けない。11月のPerfumeの初の武道館公演や、おそらく決定済みだろう12月の紅白歌合戦出場の話題など、「テクノ歌謡」的に追い風は十分あるものの、年末商戦といえばライバルも多い時期。ソニー・ミュージックダイレクトから先行リリースされる『テクノ歌謡アルティメイト・コレクション1』(11月26日発売)や、11月30日の新宿ロフトプラスワンのイベントなどと連動させて、盛り上げていく所存である。それと、くわしくは決定後に改めてアナウンスするが、『テクノ歌謡ディスクガイド』の一部ページをネットで先取りして読める、短期集中連載企画も準備中である。しばし待たれよ。
 音楽ポータル「ナタリー」で紹介していただいている通り、『テクノ歌謡ディスクガイド』にはメインのディスク紹介以外に、著名なクリエイターのインタビューが掲載されている。なかでも興味を惹くのが、巻頭のPerfume特集に登場している近田春夫氏の証言だろう(ロマン・ポルシェ。の掟ポルシェ氏との対談で収録)。Perfumeが所属するアミューズの創業時のアーティストであり、同社に所属していたヒカシュージューシィ・フルーツをデビューさせた辣腕プロデューサーでもある近田氏。ヒット曲「ジェニーはご機嫌ななめ」をインディーズ時代にPerfumeがカヴァーしている縁もあって、すでに雑誌で彼女らと対談済みであるが、今回の近田氏のインタビューはPerfumeの話題に特化して、アミューズ元会長の大里洋吉氏との出合い、彼女たちと会った印象、Perfumeサウンドがいかに素晴らしいかをじっくり語っていただいた。内容は発売日に本書を手にとって確認いただきたいが、ひとつだけこれはというエピソードを紹介してもよいだろう。 今回の対談の中で交わされた「テクノポップを支えている核になる要素とは何か?」というテーマへの問いかけに、近田氏が「声の表現」と答えていること。Perfumeサウンドの特徴が、プロデューサー中田ヤスタカ氏による、過剰なオート・チューンによるヴォーカルの加工であるのは周知のことであるが、実は近田氏が手掛けたジューシィ・フルーツ「ジェニーはご機嫌ななめ」をレコーディングした際も、本来の地声ではなくイリアにファルセットで歌わせて、当時の感覚でいう“テクノ音響”的なモディファイを施していたという話である。電子楽器のサウンドではなく、あえて「声」に着目したところに、テクノポップの「ポップ」たる所以がある。以前、当ブログでもフリッパーズ・ギターの本質は小山田圭吾氏の声にあること、ライバルだったピチカート・ファイヴとワールド・スタンダードの最大の違いはヴォーカリストの声質にあると書いている通り、テクノポップ、ニュー・ウェーヴの評価においてほとんど無視されてしまう「声」に着目してきた小生。改めて近田氏が、Perfumeのオート・チューン・ヴォーカルと「ジェニーはご機嫌ななめ」のファルセット・ヴォーカルに、共通項を見出していることに深い感動を覚えた。それを受けた掟ポルシェ氏の発言も、中田ヤスタカ氏がエフェクトをかける前のPerfume3人の声質が、たぐいまれなものであるのことを指摘している。小生も以前、次世代の「ポストPerfume」の一群をまとめてチェックする機会があったけれど、サウンドはいいセン行っていてもPerfumeの代わりとなる新しい才能を見つけ出すことはできなかった。あれは、やはり「声」の問題だったのかと。ルックスが飛び抜けてるというわけじゃないPerfumeの3人だが、それでもファンが夢中になるのは、やはりあの3人の声の「萌え成分」に殿方はやられているということなんだろう。特にかしゆかの声質は、魔的な魅力を感じてるし……。ううう、これ以上踏み込むと本が売れなくなってしまうので、ぜひ予約してでも購入して読んでいただきたいのだが、せっかくだから「声」に関連した思いつきを、今回は書いてみることにした。
 前回、フォークアイドル朝倉理恵を紹介してみたが、彼女が幼少時代、「桜井妙子」の名前で活動していたときの声質は、小生の中で「萌え声の基準」となっているものだ。朝倉理恵のファルセットのお姉さん声も、それはそれで魅力的なんだが、声変わりする前の鼻声の思春期特有の危うさというか(なんかエロイ発言)。常に音楽芸術がひとつの成熟を目指す中で、いつか手に入れられなくなってしまう一過性の危うさことがポップスの本質であることを暗示しているというか。以前、『ふしぎなメルモ』の作曲家でもある宇野誠一郎氏のインタビューで、例えば『ひょっこりひょうたん島』のヴォーカル録りのとき、「波をちゃぷちゃぷちゃぷかき分けてえ〜↑」の「え〜↑」の部分を何度もディレクションして歌い直しさせるものの、シンガーの女の子がどうしても恥ずかしくて歌いたがらなかったという話を聞いたことがある。堂々と歌うのではなく、その恥じらいが曲を魅力的にしてるというか。宇宙企画のAVとかに思い入れがある御仁なら、その例えわかってもらえるだろうか……(笑)。ちなみに「桜井妙子」としてレコーディングしていたのが、彼女が小学生時代のことというから驚き。その路線で黄金の輝きを持っている声といえば、服部克久の秘蔵っ子である『ワンワン三銃士』『トム・ソーヤーの冒険』の日下まろんもそうで、たった4曲で引退してしまった彼女も、それらを歌っていたのが小学生高学年のことらしい。
 テクノポップサウンドに限定して言えば、我が萌えヴォーカルの最高峰は、はにわちゃんの柴崎ゆかり嬢にとどめを刺す。「もうお笑いはやりたくない」と前任ヴォーカルの小川美潮嬢が引退を固辞し、はにわちゃんバンドにオーディションでゆかり嬢が加入して、あの美潮嬢が書き残したSMチックな歌詞を歌わせたことで、はにわちゃんサウンドは完成した。小生はそこに、神の采配を感じたものだ。ルックス的には3代目のつーちゃん(木元通子)のほうがアイドル風だが、やはり本来もって生まれた声質というのは、なかなか歌唱力などの技術でカヴァーできるものではないのだろう。ゆかり嬢本人はまったくアイドルを目指した時期はなかったそうだが、それでも音楽に選ばれる天性の声というか、伊集院光がクリエイトしたアイドル「芳賀ゆい」がたまたま、CBSソニーのはにわちゃんのディレクターだったM氏の担当となり、交際中だったゆかり嬢にシークレット・ヴォーカルが託されたという流れも、神が仕組んだドラマと信じて疑わないものがある。また、テクノポップ界で小生よりお姉さん世代で選ぶなら、スーザンが昔から大好きであった。私はPerfumeに至るまで、一貫してナチュラルな声質を好んでおり、中森明菜的な歌い上げ系のヴォーカリストがまったくダメなのだ。近田氏の言を借りるわけではないが、サウンドテクノポップであっても生々しいヴォーカルとの組み合わせでは興ざめ。スーザン「サマルカンド大通り」のような、ワンテイクで録って終わりみたいな、気負わないヴォーカルこそがテクノポップにもっとも相応しいと思っている。海外のアーティストだと、ちょっとマイナーだけどドイツのフンペ・フンペの妹、インガ・フンペのコーラスがそれに相当するかな。
 「萌え声」について考えていくと、とどのつまり小生は、それほどルックスにこだわっていないタチで、声のみに萌えを感じているんだなということに気づくことがある。以前、『吹替映画大事典』という本にも関わっている小生。ビデオがまだ普及する前、名画を見るのではなく、カセットに録った吹き替え版で何度も聞いて覚えた世代だからなおさらだ。ここんところ、なぜか頻繁に登場させている『ふしぎなメルモ』にしても、オリジナルの武藤礼子の吹き替えがあったから「萌えアニメの元祖」と言われるようになったわけで、申し訳ないのだが声を新人声優を入れ替えたリニューアル版は、絵は同じでありながらまったくの別物である。アニメ『のだめカンタービレ』ののだめちゃんにしても、声がまったくイメージと違っていて、それだけで2週目から見るの止めてしまったぐらい。「萌え萌え言ってるのに、まったく絵にこだわらないのか?」と問われれば、ひょっとして人ほどにヴィジュアル重視ではないのかもしれない。ホラ、仕事であった人とかで、ルックスが地味で目立たないのに、妙に心象に残る人がいたりして、思い返してみると声が可愛かったりするのってあるじゃん。Perfumeのハマる前後の自分を思い出してみても、やはり声を知ったことでその評価が180度代わったぐらい、小生の中の評価が声を基準にしていることがよくわかる。
 声優とかラジオDJで言えば、前にも紹介した『GROOVE LINE』の秀島史香あたりが、思春期からの永遠の好みである。知らない人なら、『ねるとん紅鯨団』のナレーターや『YAWARA!』の柔ちゃんやってた皆口裕子なんかをイメージするとわかるんじゃなかろうか。いわゆる喉声というタイプで、腹式呼吸のはりのある声というよりは、か細さにこそ魅力があるというか。このタイプにも刷り込みがあって、小生が中学生時代に『みんなのうた』で聞いた、思春期に感銘を受けた1曲「道」の広谷順子なんかが、萌えヴォーカルが基準になっている。実はこれ、同世代には知る人ぞ知る名曲なのだが、なんと作曲は村井邦彦氏。友人の元土龍団・濱田高志氏が監修した数年越しの企画『The Melody Makerー村井邦彦の世界ー』というBOXに収録され、今春、見事に初CD化を果たした。予備知識なくなにげにBOXを聞いていて、「なんと!? これは!?」と、20数年越しの驚きの再会を果たした奇跡の1曲だった。シンガー・ソングライターとして知られる彼女がアルバム・デビュー前、他の作家の曲を歌ったイレギュラーの作品なので不本意なものだったのかもしれないが、『みんなのうた』の歴史に残る1曲だと小生も思っているので、知らない人はぜひ聞いてみてほしい。


The Melody Maker -村井邦彦の世界-

The Melody Maker -村井邦彦の世界-




前回紹介できなかった朝倉理恵関連アイテムの中から、桜井妙子時代に歌った『アンデルセン物語』のアルバムと、朝倉理恵時代のレアシングル「つる姫じゃ〜っ!」。前者は宇野誠一郎作品の中でも、『小さなバイキングビッケ』と並ぶ名曲揃い。後者はジャケットが興ざめだが、坂田晃一が作曲したB面「月になった恋人」がなかなか名曲である。

実を言うと現役時代をよく知らない日下まろん。今夏の一連の日本アニメーション名作劇場主題歌マイブームのときに発見して、かなりのめり込んでしまった。おそらく単独作品としてはアルバムは『トム・ソーヤーの冒険』は唯一か? 服部克久が『音楽畑』などに取り組んでいた野心的な時期の作品ゆえ、珍しくシーケンサーなどを多用したエレクトロなサウンドが耳に残る。

ここの読者の方にはもはや説明はいらんだろう。はにわちゃんの唯一のアルバム『かなしばり』。CD化で初収録された4曲以外にも、同クオリティの未発表曲が10曲近くあるのだが、いつか日の目を見ないものだろうか。シングル倉庫を探っていて出てきた、はにわオールスターズの珍しいシングルもあったので、せっかくだから載せておく。

スーザンは2枚のアルバムと、シングル・オンリーの3曲を収めたコンプリートCD BOXが出たので、今では気軽に聴けるようになった。実を言えば、元は1枚ものの2 in 1で出るはずだったスーザン復刻を、「いや、絶対コンプリートで出すべき」とディレクターに働きかけたのは小生なのだ(ちょっと自慢)。それ以前も、スーザン・ノザキ名義で3枚のシングルを出しているほか、プレ・スーザン時代に出ているのが77年リリースのスージー・白鳥名義のこのシングル。2曲とも、拙著『電子音楽 in the (lost)world』でも紹介している『みごろたべごろ笑いごろ』のアルバムにも未収録のレア曲で、東海林修の弾くコルグ800DVのPファンクみたいなドロドロのシンセが気持ちいい、見事な「テクノ歌謡」に。

我がシングル倉庫は、一種の萌えヒストリーを形成しており、こんなのもあったので載せておく。ああ〜、好きでした浅野真弓。美人なのだが太ったりやせたりヌードになったりが極端な人で、20代は可愛いバイプレーヤーとしてユニオン映画系ドラマを飾った。ドラマのセリフでは地声は低い印象があるが、2枚のシングルが出ていて、実は歌声はかなり可愛い。もともと音楽好きだった縁で、その後、柳ジョージと結婚している(その後、別れたとか)。

ええい、これも紹介しておく。高橋洋子といっても『エヴァンゲリオン』の人ではなく、小説『雨が好き』の作者のほう。この人も浅野真弓と似てて、美人なのに太ったりヌードになったりする個性派女優として、小生らの世代のハートをわしづかみにしていた。こういう俳優、いなくなったなあ。