POP2*5

過去にはてなダイヤリーで連載してた連載コラムのアーカイヴです。

『少年宝島』用不採用プロット大公開の巻

 今から20年前にJICC出版局(現・宝島社)から創刊された『少年宝島』という漫画雑誌があったのをご存じか? 永井豪が巻頭連載を飾る、同社初の本格漫画雑誌として鳴り物入りで登場したのだが、結局大手出版社の人気漫画誌には勝てずにわずか数ヶ月で休刊となってしまった。80年代初頭に、渡辺佑氏ら『宝島』編集部員が作った1号きりの別冊『マンガ宝島』や、有名な『ハチミツとクローバー』を連載スタートさせた『キューティー・コミック』など、JICC出版局〜宝島社は何度がマンガ誌にトライしながら、いつも体力負けで敗退してきた歴史がある。このへん、私も漫画出版業界に詳しくないから無責任なことしか言えないのだが、メインの連載誌を赤字運営できるぐらい、コミックスで儲けるという長期的なヴィジョンがないと、なかなか素人には手が出せないジャンルのよう。今日、仕事でマンガ家のコーディネーターの人と会う機会があって、いろいろ話を窺ったけれど、いやはや、新人から育ててメディアミックスでブレイクさせるなんて、先行投資ばかり必要になって、なかなかオイシイ商売ってわけにいかないのね。
 ところで、その『少年宝島』には、わずかながら小生も関わったことがある。当時所属していた編集プロダクションのOBに、『宝島』編集部に移籍した町山智浩氏という名物編集者(『映画秘宝』のスーパーバイザーとして有名)がいて、その縁から同社はJICCから懇意にしてもらっていた。その流れで、会社に入ったばかりのころ、JICC出版局で新しい漫画雑誌を創刊するという計画が持ち上がり、私も含めた数人がその新連載企画コンペに参加させられたことがあるのだ。もともと映画好きだった私は、いくつかしょうもないプロットを書いて提出したのだが、かなり編集部的にはウケたものの、結局は採用されることはなかった。本格的な漫画バブルが起こる前の話だから(86年ぐらい)、そのままもし原作で採用されて漫画原作者にでもなってたら、今頃もっとリッチになっていたと思うんだけどなあ。で、けっこう笑えるアホなアイデアもあって眠らせておくのももったいないなと思い、以前紹介した「ギャグノート」の時みたく、主なものをかいつまんで紹介してみることにした。
■ロックン西遊記
 「そこに行けばロックの秘密がわかる」、そう言い残して母が亡くなった、主人公ロッくん。母の手ひとつで育てられたのだが、会ったことのない実の父は、有名なロック・ミュージシャンだったがある事件に巻き込まれ失踪してしまった謎の人物だった。やはり血は争えず、思春期にロックを体験。バンドを結成し日々オリジナル曲創作に励む彼だったが、行き詰まって立ちゆかなくなったある時、亡き母のその言葉を思い出す。どうやら、ロックのエルサレムは東の方角にあるらしい。そこで、原宿のホコテンを起点に旅立ったロッくんらバンドメンバーは、数々のロックの神話的な人物と出会い、時には戦い、時には励まされながら、そのゴールを夢見て珍道中を繰り広げるという話。
 あほらしいなあ。当時バンドブームがピークで、「お前、音楽に詳しいだろう」ということでオーダーされたネタなのだが、敵の怪人を考えるのに夢中になって、本筋はどうでもよくなってしまった。その中で、音盤仙人というキャラクターのネタだけ紹介してみる。山奥で隠遁生活を送るその仙人は、楽器を使わずに名曲を生み出す秘術の使い手だ。彼が持っているのは彫刻刀だけ。塩化ヴィニールの原盤に直接「シュッ、シュッ、シュッ」と彫刻刀を走らせ、作品が完成してそれをプレーヤーにかけると、この世のものとも思えぬ名曲が聞こえてくる。




 アホだよね(笑)。この他、白土三平の『ワタリ』みたいな、不気味なキャラクター「小沢ハモニカ兄弟」が最大のライバルとして登場。ロッくんのバンド仲間、ロットンくんがなぜか、幼少期に受けたトラウマでハモニカの音を聴くと怯んでしまうなどの裏設定も考えてみた。

 長いハーモニカって本当にあるんだよ、5人乗り自転車みたいなやつ。他にもバリ島から来たケチャの使い手“茶々丸”とか、アイルランド紛争の苦い想い出を持つバグパイプ奏者、犬笛みたいな高周波やラジオの音を体内変換して聴くことができる男“ミスター・トランス”とかいろいろ思いついたんだけど、だんだんロックから離れてきて『万国ビックリショー』みたいな話になってしまった。

 これは主人公の基本設定。いざというとき、ロッくんの懐刀のギターを鳴らすと、そこから発せられる超高周波によってコンクリートなどの建物の分子構造を破壊し、敵のアジトを崩壊してしまうという裏ワザを持っている。「うー、やー、たー」って書いてるから、もろ『少年ジェット』のパクリなんだけども(笑)。

■科学消防隊ファイヤー
 20世紀末、文明が進んだ結果、犯罪組織も様々な化学テロによって世の中を恐怖に陥れていた。そこで、まったく役立たずの自治体の消防団に替わり、化学火災などにサイエンスの力で立ち向かう民間消防団「ファイヤー」が結成された。主人公の炎シュンペイは、下町の由緒ある火消しの家庭の一人息子。厳格すぎる父に反発して父の後を継がず、海外留学から帰国後、その知識と明晰さを買われて「ファイヤー」のメンバーとなった。だが、東京を恐怖に陥れる化学犯罪集団“ケミカル・ブラザーズ”は、あの手この手の化学犯罪で挑戦状を叩き付ける。新開発の化学物質による放火など、従来の放水車では太刀打ちできない局面で主人公たちを苦しめる。そんな中で、仲間の研究者、化学くんなどと連携しながら、毎回アイデアを武器に消火活動に取り組んでいく。

 「なにが民間消防団だ、ケッ!」と、息子の進路に不満をこぼす父。だが、主人公がツライ局面に立たされた時など、ボソッと解決のヒントを与えてくれたりする優しい一面も。

 “ケミカル・ブラザーズ”というネーミング力などは我ながら未来を予知していて凄いと思うが、基本的に漫画のパロディにしかなってない、アホなアイデアばかり。そういうとんちの能力って、漫画原作の才能とはちょっと違うみたいだな。失敬!