ロジック・システム『Electric Carnaval 1982』(ブリッジ)12月28日発売。
Electric Carnaval 1982 Logic System
- アーティスト: Logic System,ロジャー・パウエル
- 出版社/メーカー: ブリッジ
- 発売日: 2010/12/28
- メディア: CD
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以前よりずっとライナーノーツを担当させていただいている、シンセサイザー・プログラマー松武秀樹氏のユニット、ロジック・システムの秘蔵音源が今月発売になる。のわんと、82年に青山学院大学の学園祭で密かに行われていた、ロジック・システム名義のライヴの初音盤化。81年に『ロジック』収録の「ドミノ・ダンス」が香港でクラブ・ヒットを記録し、同地の招聘でライヴを敢行していた件は知っていたが、同様のプレイバック主体の形式で国内でもライヴをやっていたのは、今回のリリースで初めて知った。ネタをあかせば、このイベントは大貫妙子プロデュースの名目で行われた3部形式のイベントのひとつで、当時、彼女のバッキングを務めていた松武秀樹氏、清水信之氏に、ゲストの大村憲司氏が加わったトリオ形式で行われたもの。時期的には『東方快車』リリース後で、同アルバムのナンバーを中心に構成している。ロジック・システムはアルファで復活した『TO・GEN・KYO』のころにもライヴをやっているが、当時はアジアン・ポップに傾倒していたフィジカルな演奏で、東芝時代と打って変わった歌モノ中心。もろエレクトロなインストで構成されるロジック・システムのライヴは、この回が国内唯一のものである。
大きな聴きどころは2つ。大貫妙子のバッキングでバンマスを務めていた清水信之氏が、ポリフォニック・キーボードのバッキングから、ヤン・ハマーばりのショルダー・キーボードのソロを弾くなど八面六臂の大活躍。今春、小生の企画で復刻させてもらった清水信之ソロ『エニシング・ゴーズ』収録の、「OTAKEBI」のロジック・ヴァージョンを初披露している。2つ目は、大貫妙子ライヴではゲスト参加だった大村憲司氏がロジックではフルに参加している件。和製エリック・クラプトンで知られる本人の選曲で、クリーム「サンシャイン・オブ・ユア・ラヴ」のカヴァーを収録。先日、マイケル・ジャクソンが『スリラー』候補曲として録音していた、YMOのカヴァー版「ビハインド・ザ・マスク」が新作『MICHAEL』で初公開されたが、実はこの歌詞付きヴァージョン、マイケルのレコーディングで鍵盤担当だったグレッグ・フィリンゲンスが当時クラプトンのバンドに参加していた縁で、クラプトンのソロ『オーガスト』でも歌われていたもの。マイケル『スリラー』のプログラマーは、ロジック・システム『ヴィーナス』にも参加しているマイケル・ボディカーだが、グレッグ・フィリンゲインスがシングルで出した「ビハインド・ザ・マスク」のプログラマーも彼。というわけで、ロジック・システムとエリック・クラプトンの妙縁を結ぶ、これもまたジグソー・パズルのピースのような、未公開カヴァーの初収録なのだ。
YMO『増殖』、第2回ワールド・ツアーで知り合った松武氏と大村氏は、その後歌謡曲のレコーディングなどで親密な関係となり、そのコラボレーションが大村憲司初のテクノポップ・アルバム『春がいっぱい』に結実。『東方快車』にも曲提供し、ソロアルバムに通じるハンク・マーヴィン(シャドウズ)風のリードを弾いていた大村氏だが、このライヴは大村憲司の生涯唯一のテクノポップ・スタイルのライヴとしても、ファンには見逃せない内容になっている。また、最後のスプートニクスのカヴァー「霧のカレリア」には、加藤和彦氏がギターで参加。トノバンが他バンドのゲストでバッキングを務めるというのも、貴重な録音なのではあるまいか。
ちなみに本作、ブリッジの特設ページでサンプルが聴けばわかるが、元は発売することを想定していないプライベート録音。カセット・マスターの商品化は、サディスティック・ミカ・バンド『ライブ・イン・ロンドン』と同様のケースになるが、本人立ち会いの下で修復作業を経てマスタリングが行われた。録音には難があるものの、ロジック・システムをフルコンプしているファンならば、これは持っていたい必携アルバムに仕上がっている。
電子書籍『MUSIC LIFE plus』(シンコー・ミュージック)12月15日より無料ダウンロード公開中!
以前よりTwitterで告知していた、ワタシが編集者として参加したiPad(iPhone)向け電子書籍形態のフリーマガジン『MUSIC LIFE plus』がやっと完成。12月15日より、iTunesストアで無料ダウンロード公開中である。ページ数トータルにして500ページ。創刊号特集はザ・ビートルズで、貴重なシンコー・ミュージックのアーカイヴ写真がふんだんに使われて、なんと値段は無料! いかに大盤振る舞いなのかは、実際にダウンロードして中身の充実ぶりを見ればわかるはず。記事、写真のみならず、インタビュー音声、映画予告編のムービーなど、電子書籍のサンプルらしい仕掛けをいろいろ講じているので、ぜひお試しいただきたい。
5月のiPad発売以降、電子書籍については個人的にいろいろ研究してきたが、ハードは売れてるのにも関わらず、オリジナル電子書籍形態の雑誌はほとんど出てこないというサビシイ状況が。そこで一計を案じ、どこよりも先にインパクトのある新雑誌を刊行して、世間をあっと言わせればということで、無料誌として刊行した次第。「これ、どういうふうにマネタイズしてるの?」という質問もあろうが、すべては採算度外視で、まずは作ってみようと始まったもの。話題作りでファンを集めて、ここから何か新しいムーブメントを起こせればと考えての策である。これが成功しなければ次はないのが世の常でして、もし読んで気に入ってもらえたら、iPad(iPhone)ユーザーの友人にどんどん布教していただければありがたい。
ご存じ『ミュージック・ライフ』は、かつて日本最大の発行部数を誇った国民的洋楽誌。ザ・ビートルズの単独取材を日本で初めて成功させた栄誉で知られる同誌だが、その後も、クイーン、ジャパン、チープ・トリックなど、本国で人気がくすぶっていたグループを発掘し、世界に紹介してきた「ロック黄金時代」を支えたメディアである。その電子書籍版として作られた『MUSIC LIFE plus』は、同社の貴重なアーカイヴをふんだんに使用し、あの時代の証言者たちのインタビューを盛り込んで、トータル500ページというボリューミィな内容に仕上がった。無料で出せたのは、ひとえにご協力いただいた出演者、ライター陣のおかげ。ありがたや。想定読者は、70〜80年代に『ミュージック・ライフ』読者だった40代の男性、女性。大人になった現在の視点から、「ロック黄金時代」を懐かしんでいただければ本望である。
ワタシはこのうち、写真構成の「ザ・ビートルズ・ミーツ『ミュージック・ライフ』」、「星加ルミ子インタビュー」、「ビートルズ・リマスター音源再入門」、立川直樹×森永博志「シャングリラ2.0」、ノーナ・リーヴス西寺郷太「マイケル・ジャクソン×ザ・ビートルズ」、「ザ・プロデューサーズ 石坂敬一」、「倉本美津留インタビュー」、ディスクレビューなどの執筆を担当。サエキけんぞう氏のコラム、ピーター・バラカン氏のインタビュー、本秀康氏のコミック「ビートルさん」(なんと『レコスケくん』のスピンアウト企画!)などの編集、フォノシートのリッピングなど、もろもろで半分以上のページの実作業に関わっている。一冊のうちこれだけの量のページを手掛けたのは、昨年編集で関わった『DS-10 PLUS』限定版の付属冊子以来かも。
ちなみにこれ、iTunesアプリとして刊行されたもので、iPad、iPhone用のOSでしか見れないのは申し訳ありませぬ。シンコー・ミュージックの謹製ブラウザで読む仕掛けで、ここから『ミュージック・ライフ』のバックナンバー(広告入りのフルページ)を購入できる、キオスク形式になっている。
blue marble『ヴァレリー』(乙女音楽研究社/9月15日発売)の衝撃!
- アーティスト: ブルーマーブル
- 出版社/メーカー: 乙女音楽研究社
- 発売日: 2010/09/15
- メディア: CD
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アルバム『ヴァレリー』の全体の印象を伝えるのには、どう言えばよいだろう。一言で言えばブラジル、ミナス系の流れを汲む渋谷系クラブ・サウンドなのだが、メロディーの展開は従来のバンドより、2ひねり3ひねり多いところがあなどれない。どこまで行くんだという転調傾向は、プリファブ・スプラウト『スゥーン』か、はたまたストロベリー・アラームクロックか。あるいはチャクラ『さてこそ』『南洋でヨイショ』で聞ける、ブラジル由来の板倉文のサウダージ・スピリットがプンプン臭うような……と思ってたら、本人そのへんがど真ん中のルーツだという。これは恐ろしい。
人懐っこいメロディーに対して、ジャケットのマッドなイラストが聴き手に挑戦状を叩きつけてくるが、それもそのはず。リーダーのショック太郎氏はその筋では有名なホラービデオのコレクター。自らのサイトで紹介されている記事を見ても、ハーシェル・ゴードン・ルイスなどの米国ショッカーBムービーから、イタリアン・モンド、イギリスのゴシック系など研究対象も多岐にわたり、分類もアカデミック。こうしたカルト映画をちゃんと評価できる人には、中原昌也くんなど愛すべき人々が多いという持論がワタシにはあって、ご本人は変人どころか、いたってジェントルな人であった。ジャケット・ディレクションも本人。なんでも鈴木さえ子『緑の法則』が生涯のベスト・ディスクらしい。書く曲のポップさや美形のルックスから、しばしばシンガーソングライター路線への転向を薦めらたというさえ子さんも、実は大のホラーマニアで、『緑の法則』にはジャケット画、歌詞にオカルト色がプンプン。フランス近代音楽のようなお洒落なサウンドと、一見ミスマッチと思えるカルト映画への偏愛は、こんなところでもつながっている。
自分ぐらいギョーカイ歴が長くなると、デモテープを聴いただけである程度相手のキャリアはわかる。「これは素人ではないだろ!」と気付いて本人に質してみたら、やはりプロ経験が。90年代後半にあのグレイティスト・ヒッツ(ピチカート・ファイヴの事務所)に籍を置き、ピチカート周辺の新人バンドのサポートなどを務めた時期もあったという。現在は本業を別に持ち、余暇活動として作曲、音楽制作をやっているとのことだが、ここ数年でレコーディング環境も大幅に進化して、プロ時代にできなかったこともリーズナブルに行えるようになり、スタジオ・クオリティのデモをコツコツ完成させる現在のスタイルを確立。ゴフィン&キングのような、ブリル・ビルディング風の男女作曲チームがその正体で、blue marbleと名乗る以前からユニット活動は15年間も続けられていたとか。一部関係者に配られたデモテープは評判を呼ぶ内容で、実際、過去に何度かメジャーデビューへの誘いがあったというから、推して知るべし。たまたま、フレネシのバックにキーボードでサポート参加していた折、オーナー氏に対バンライヴで見初められて、今回、初CDが乙女音楽研究社から出ることになったのだという。収録曲はデモで発表されていた曲に新作を加えたもので、その作業は「未完成だった『スマイル』を完成させるようなつもりで」臨んだというから、ブライアン・ウィルソンの『SWEET INSANITY』のような熟成されたコクがあるのは当然なのだな。
して、この『ヴァレリー』。ワタシが腰を抜かすほどの衝撃を受けた理由がもう一つ。フィーチャリング・ヴォーカルとして全曲を歌っているのが、あのオオノマサエ(大野方栄)さんなのだ。唯一のアルバム『マサエ・アラ・モード』(83年)は生涯の愛聴盤。『ひらけ!ポンキッキ』のレコードだって持ってる。過去に再発に動いたことがあるものの賛同を得られず、本人には不名誉かもと心配しつつ、拙者監修のVA『テクノマジック歌謡曲』に収録曲「Eccentric Person, Come Back To Me」を選ばせてもらったこともある。ムーンライダーズ『イスタンブール・マンボ』時代のコーラス嬢としても有名で、CMソングの女王と呼ばれるほど吹き込んだ曲多し。ジャズ・ヴォーカリーズの名手で、スタン・ゲッツなどのソロフレーズに歌詞を乗せて早口で歌うという、黒テントの斉藤晴彦のジャズ版のような活動をしていたところを、放送作家の高平哲郎氏にスカウトされ『マサエ・アラ・モード』で正式デビュー。発売時には“女タモリ”との定評を受けたほどだが、後の清水ミチコ、あるいは平原綾香「ジュピター」みたいな注目の存在になるかと思いきや、期待の第2作を聴くことはなかった。メンバーと大野さんとの出会いはたまたま偶然。大のジャズ、ラテン・フリークだった彼女の作家性と合致し、15年前からゲスト・ヴォーカリストとしてともに創作活動を続けていたという。ギョーカイでも熱心な『マサエ・アラ・モード』布教者だったワタシと、blue marbleの出会いもまた必然だったのかもしれぬ。『ヴァレリー』でのデビューまでに、15年の歳月があった事実は気の遠くなるような話だが、時代がちょうど一回りしたのも功を奏したか。去年の話題作だったマリ・ペルセン(ロイヤレッツ)のソロ・アルバムと並べて聴いても違和感がない、今っぽいモードの音になっている。
板倉文、鈴木さえ子、はたまたShi-Shonenの大ファンだったという、ショック太郎氏と好みはドンピシャ。ポップなメロディーへの求道と、転調好き、変態サウンド好きの同居には、そのへんの趣向が根っこにあるらしい。音楽ライター界でも、ワタシと趣味が合う人はほとんどいないから。むろんYMOの大ファンで、しかも初期サウンドが好みというのが嬉しい。『千のナイフ』で教授の流麗なコードワークに心酔。細野さんのSSW仕込みの曲展開にも驚かされたし、幸宏さんもフランシス・レイやバカラックを作曲のルーツに挙げてるように、3人の作品の真髄は転調にあり。ところが現在のYMOファンの多数派は、テンション・コードを否定した『BGM』『テクノデリック』を名盤にあげる人ばかり。その続きにクラフトワーク原理主義だのニューロマ好きのような「音がエレクトロなら曲いらね」的な流れにつながっているというのが、コアファンに距離を感じる最大の理由なのだが、ちゃんと楽理分析的にYMOの魅力を語れる人がいたことにも興奮を覚える。販売元が元YMOのマネジャーI氏の経営する、ワタシも復刻仕事でお世話になっているブリッジというのも運命の導きのよう。
なんと今回のリリースには、あのHMVも大プッシュしてくれており、特典ライブCD-R付きのキャンペーンも展開するとか。まったくノーブランドだった友人のグループ、microstar『マイクロスター・アルバム』が楽曲のよさで系列店で評判を呼び、HMVが選ぶトップ100にメジャー作品と肩を並べて堂々選ばれた件以来の話題作になりそう。このブログの読者なら、視聴しなくても内容はいいに決まってるので、ぜひレジに走ってお買い求めくだされ。
blue marbleのファーストPV「街を歩くソルジャー」。拙宅の近所で撮影してるところにも心打たれる。
完成したばかりのセカンドPV「懐かしのバイアーナ」。レコード会社CMのパロディのようなPVという、わかりにくさもまた心を揺さぶる。
ハルメンズ『ハルメンズの近代体操』『ハルメンズの20世紀』ボーナストラック入りで復刻(ビクター)
- アーティスト: ハルメンズ
- 出版社/メーカー: ビクターエンタテインメント
- 発売日: 2010/10/20
- メディア: CD
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ヴォーカルのサエキけんぞう氏とは24年前、パール兄弟時代に『Techii』編集者としてお会いして以来の関係で、拙者企画のイベント「史上最大のテクノポップDJパーティー」では、ハルメンズ・ナンバーを中心としたライヴをお願いしたことも。今回のリマスターの音を、誰よりも先に聴かせていただく栄誉に預かれたのは感無量である。『ハルメンズの近代体操』『ハルメンズの20世紀』は、91年に初CD化された後、一度スカイ・ステーションから紙ジャケ復刻されるも、今は廃盤状態。今回の復刻は最新リマスターが施され、なんとボーナス・トラックに当時のデモ、スタジオ・ライヴ音源が収録されている。ハルメンズの青写真としては、『少年ホームランズ』のデモ集がすでにリリースされているが、今回のデモはビクターからのスカウト後、『近代体操』がリリースされるまでの約1年間の準備期間に録られたもので、ほとんどが初公開というもの。以前、『電子音楽 in the (lost)world』で、ヒカシューのデビュー・アルバム『ヒカシュー』とデモ集『ヒカシュー1978』との関係について言及したことがあるが、当時のメジャーレコード会社はまだ、ほとんどが歌謡曲中心の時代。後のローファイなどのムーブメントが起こる気配もなく、多くのニュー・ウェーヴ、パンク・バンドの音が、一度メジャー・スタジオのトリートメントを経て世に出ることが多かった。前出のヒカシューのデモは近田春夫プロデュースの手にかかる前のオリジナル音源で、創作時のパッションを感じるこちらのほうが、ドキュメントとしても歴史的意義性は遙かに高かった。今回のハルメンズのデモも、まるでジョイ・ディヴィジョンを聴いてるような張り詰めたテンションを感じるもので、これまで「チープな味わい」と評価されることの多かったハルメンズに、新しい視点を加えるものになった。また、最新リマスターが施されたスタジオ・ヴァージョンのほうも、こうした新しいハルメンズ観に乗っ取っており、「昆虫群」の羽音などやオルガンなどのディテール再現より、リズム・セクションが前面に浮き立つようなグルーヴ主体に変貌。過去のCD盤を持ってる人にも、新たな発見が多いリマスターになっている。
今回の一連のハルメンズ復刻は、30周年の節目を迎えてのものだが、実は昨年、知人のばるぼら氏が執筆した『NYLON100% 80年代渋谷発ポップ・カルチャーの源流』発売時の、代官山ユニットでのサエキ氏のライヴが伏線になっている。このときの出し物は、博多出身の若手バンドBoogie theマッハモータースをバックに、サエキ・ヴォーカルで少年ホームランズ曲をカヴァーするというものだったが、この新鋭の解釈による旧作のリメイクに触発され、同メンバーによる『21世紀さん sings ハルメンズ』という新録作品が同時発売。これ、後に戸川純が『玉姫様』でカヴァーした、「隣りの印度人」「森の人」などのハルメンズ後期のスタジオ未録音だった作品をリメイクした、幻のサード・アルバムの再現編。「電車でGO」「昆虫群」「レーダー・マン」の再演も含め、野宮真貴、桃井はるこ、浜崎容子(アーバンギャルド)などのゲスト・コーラスを交えた、見事な21世紀ヴァージョンに仕上がっている。これに加えて、すでにニコニコ動画などで発表済みである、ヴォーカロイド初音ミクが歌うトリビュート『初音ミク sings ハルメンズ』、ハルメンズが実質制作に関わった野宮真貴『ピンクの心』のジャケット・リニューアル版もお目見え。先日、リリース記念番組がustream放送されたばかりだが、野宮真貴と桃井はるこ、渋谷系とアキバ系の歌姫2人が並ぶヴィジュアルも画期的であった。新録作品のジャケットのほうも、新世代のゴスロリ系イラストレーター、ピアプロで公募したCGを使うなど、80年代ニュー・ウェーヴと現代のネット文化をつなぐようなものになっている。
マリ・ウィルソン『ショウ・ピープル』(ハヤブサ・ランディングス)紙ジャケ復刻
- アーティスト: マリ・ウィルソン
- 出版社/メーカー: SPACE SHOWER MUSIC
- 発売日: 2010/09/08
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洋楽タイトルのライナーを書かせてもらうのは久々になる。以前、本作のプロデューサー、トニー・マンスフィールドが率いるニュー・ミュージックのライナーを書いていたことから、復刻担当者の方のお眼鏡に叶い、今回依頼をいただくことに。有り難いこってす。久々に資料として昔のアナログ盤を引っ張り出してきたのだが、FM雑誌、ファッション雑誌系のノリのライナーノーツが80年代っぽくて懐かしかった。実は『ショウ・ピープル』の日本盤は、イギリス以外の国で配給していたロンドン・レーベル(デッカ)のインターナショナル盤に準拠しており、「エクスタシー」をシングル「ボーイ・フレンド」に差し替えた内容違いのもの。いわば今回の復刻は、英国オリジナル仕様としては本邦初リリースになるのだ。当時のロンドン・レーベルの日本の発売元だったのがポリドール。バークレイと同じ洋楽セクションで扱われていたようで、日本だけはバナナラマ、ファンカポリタンなどのUKソウルと組み合わせたコンピレーション盤などもリリースされていた。ハンドメイドな他のコンパクト組と違って、メジャーのロンドンが配給していたマリ・ウィルソンだけは破格の扱い。おそらく『ショウ・ピープル』をヒット・メーカーだったトニー・マンスフィールドにプロデュースを依頼したのは、コンパクトとロンドンのジョイント・ヴェンチャー商品だったのではなかったかと。当時、クリエイションとワーナーの合同レーベル、エレヴェイション(エドウィン・コリンズetc)とか、モノクローム・セットのブランコ・Y・ニグロとか、勢いのあるインディにメジャーが出資するなんてケースもけっこう多かったのよ。
マリ・ウィルソンの音源は、初期シングルのトット・テイラー(テディ・ジョンズ)・プロデュースと、『ショウ・ピープル』に始まるトニー・マンスフィールド・プロデュースの、大きく分けて二種類がある。トニー信者の小生だけれど、マリ作品についてはトット・プロデュースのほうに軍配があがる感じ。しかし、16トラックのガレージ・スタジオで作った他のコンパクト作品にはない、メジャー感がトニー・プロデュースにはある。実際、『ショウ・ピープル』は本邦初上陸時、「アレンジの教科書」と言われるぐらい、歌謡曲筋でセンセーショナルに迎えられており、ワタシの大好きなおニャン子クラブのアルバムなどに、秀逸なエピゴーネン作品が散見できたりする。先日、復刻に関わった清水信之『エニシング・ゴーズ』と同年代の作品だから、あのリン・ドラム・サウンドがモロ聞こえてくる、80年代的なレトロでデジタルな音にどう反応するかで評価が分かれるところがあるが、モータウンを当時の最新エレクトロニクス(フェアライトCMI)で処理したゴージャスなサウンド。高橋幸宏のYEN時代のソロやYMO『浮気なぼくら』路線が好きな人なら、そのオリジンに出会えるコーフンがあるのでは? 是非一聴あれ。
『YELLOW MAGIC ORCHESTRA×SUKITA』(TOKYO FM出版)にコメントを寄稿しますた。
Yellow Magic Orchestra×SUKITA (TOKYO FM BOOKS)
- 作者: Yellow Magic Orchestra+鋤田正義,熊谷朋哉(SLOGAN)
- 出版社/メーカー: エフエム東京
- 発売日: 2010/07/24
- メディア: 単行本
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もっとも愛着のある初期YMOのポートレート中心に編まれた本ゆえ、ページをめくるたびに中学生時代のトキメキを思い出して溜息が出る。結成時は細野さんが30歳なりたてで、教授と幸宏さんが25歳だもの。デヴィッド・ボウイ、マーク・ボランなどの公式写真で知られる、鋤田氏が収めたメンバー写真はまるで海外アーティストのようで、同地のポストパンク連中と並んでもフレッシュさでは引けを取らない。鋤田氏がオフィシャル的にYMOを記録していたのは、79〜80年とわずか2年のことだが、YMOにとっては激動の時期であった。まだブレイクする前夜で、氏の捉えたYMO像を端的に言い表せばディレッタント的。とにかく気品があるというか、構図の切り取り方もユニークで、アートなYMOの姿を捉えている。翌年、第1回ワールドツアーに同行した鋤田氏に代わって、第2回ツアーのオフィシャル撮影を務めたのが三浦憲治氏。おそらく『写楽』縁からの抜擢だと思うが(後に『OMYAGE』というヴィジュアルブックも刊行された)、篠山紀信の弟子筋である三浦氏の写真はメジャー誌出身らしくアイドル然としており、後の『浮気なぼくら』〜チェッカーズを彷彿とさせるものがあった。リアルタイムでYMOファンが熱心に読んでいた雑誌『ロッキンf』のリポートは、大半がヒロ伊藤氏のもので、こちらはロック・バンドとしてのYMOやオーディエンスの熱狂を伝えていた。記録されるYMOの姿も、カメラマンによって実に多種多様なのだ。また、編集氏のこだわりで、ワールドツアーの楽屋に訪れた海外アーティストとのバックステージショットをふんだんに盛り込んでいるのが楽しい。同業者だから、肖像権クリアなどかかった手間を想像するとゾッとする(笑)。
後半ページは当時のスタッフやファンからのコメントで構成されており、おそらく肖像権の許諾で連絡を取った際に答えたとおぼしき、珍しい海外アーティストのYMO評も載っている。ユニバーサル・ミュージック会長の石坂敬一氏のコメントが刮目すべきもので、東芝EMI時代にYMOに先駆けて世界マーケットに売り込んだ、クリエイションの苦労時代のエピソードが綴られていたのが興味深い。ヒカシュー担当としてニュー・ウェーヴ界にも関わりが深かった人だから、氏が語るYMO評の続きの話も読んでみたい。実は以前、元徳間ジャパンの三浦光紀氏にもYMOメンバーとの関わりについて話をいろいろ聞いたことがあって(ベルウッドレコード〜矢野顕子ほか、安田成美、伊藤つかさなど、エグゼクティヴ・プロデューサー時代にもYMO参加作品が多いのだ)、当時のライバル会社のプロデューサーから見たYMO評というのが、実に興味深いのだ。一方、YMOの育ての親的存在である元アルファレコード社長、村井邦彦氏の今回のコメントもふるっていて、キッシンジャー博士との当時の交流について触れている。実にハリウッド的というか、ロバート・エヴァンスの伝記みたい(笑)。YMOの世界進出計画が果たせたのも、村井氏の華麗な社交界との交流に連なる、アルファレコードの伝統だからね。
特殊なパッケージ仕様になっているのは狙いなのだろうが、amazonなどの評価はなかなか手厳しい。普段は版ズレにも細心の注意が払われるような写真家の公式作品集なのに、パルプ雑誌風の造りが取られている。いろいろ想像を巡らせてみたのだが、拙者が以前、YMOのDVDを構成させてもらったときのことをちょっと思い出した。メーカーから「映像版ベスト」という要請があって作られたDVDだったが、YMOは初期、中期、後期とスタイルが激変しており、ライヴ映像はまるで別バンドのよう。それを通常のベスト盤のように映像をつないでいくと、ただ散漫な印象になってしまうため、副音声をDVDのサブトラック入れるなど、そのときはただの寄せ集めでないものを作ってみた。YMOをヒストリカルにまとめるには、こうした配慮が求められる。おそらくは初期からリユニオンに至る四半世紀に及ぶ、バラバラのマテリアルをかき集める際に、一つのトーンに統一していくような演出として、こうした仕様が取られたのでは。
以前、「アルファ商法」と呼ばれる復刻ビジネスに関わっていたおなじみの3人組がいて、彼らによって鋤田氏の写真の多くは何度も書籍化されていた。未発表音源のCDをメンバー無許可で付録に付けたり、YMOの復刻は彼らのやり放題状態で、許諾どころか撮影クレジットもあやしい、こうしたファンブックの刊行が許されている時代があったのだ。その後、98年に東芝EMIに発売元が移ってからは、CDはメンバー監修のスタイルになって今に至るが(拙者はここから参加)、本書もメンバー了承の下で刊行にたどりついたもの。上質コート紙にプリントしたのを自慢げに語っていた前出のゲリラ出版物を、YMOファンは大絶賛していたわけだから、カメラマン公認の本書が非難される構図は複雑な感情を抱かせる。ニュー・ウェーヴ系愛好家の中でもYMOファンは、ビートルズシネクラブ的というか、かなり保守的な層で構成されるからね。AKB48とかのアイドル写真集ぐらいオーソドックスな作りにしたほうが、歓迎されたかも知れないな。
清水信之『エニシング・ゴーズ』(ブリッジ)8月20日発売
- アーティスト: 清水信之
- 出版社/メーカー: Independent Label Council Japan(IND/DAS)(M)
- 発売日: 2010/08/20
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大貫妙子、EPO、飯島真理のサウンド・プロデューサーとして80年代中期の傑作を手掛けてきた清水信之氏は、YMOの一世代下に当たる、テクノポップ・サウンド普及の立役者。プロフィット5の使い手として知られ、その嚆矢というべき高見知佳「くちびるヌード」(拙者選曲のVA『テクノマジック歌謡曲』に収録)の編曲は、「東風」「中国女」を思わせるチャイニーズ・エレガンスな作風が、初期YMOの継承者のような印象を抱かせるものだった。鍵盤のみならず、ギター、ベース、ドラムスなんでもござれのマルチ・プレイヤーで、トッド・ラングレンのような多重録音でサウンドを構築するスタイルから「1人でYMOのようなサウンドを作る男」の異名を取ったことも。
シンセストとしてのデビューは、ディスコヒットとして知られるスピニッヂ・パワー「ポパイ・ザ・セーラーマン」。ビーイング創設者の長戸大幸がプロデュースした、若き日の笹路正徳、鷺巣詩郎、氷室京介(BOφWY)などが名を連ねたこの覆面プロジェクトに、当時19歳の最年少メンバーとして参加していた。その才能を見抜いた長戸プロデューサーの要請で、早くも初のソロ『コーナー・トップ』を79年発表。和製ボブ・ジェームス的フュージョン・サウンドを披露して、後の編曲家仕事進出への布石を作った。
テクノポップ系リスナーの認知を得たのは、YMOがバッキングを務めた加藤和彦『うたかたのオペラ』、『ベル・エキセントリック』、大貫妙子『ロマンティーク』、『アヴァンチュール』への参加だろう。アルバム半々に分け、YMOが制作したもう一方のサイドを担当。シンセ・アレンジの健闘ぶりは見事なもので、その後の加藤和彦プロデュース作品および、大貫妙子のレコーディングに欠かせない存在になった。82年にリリースされたソロアルバム第2弾となる本作『エニシング・ゴーズ』は、名盤の誉れ高き『ベル・エキセントリック』、『アヴァンチュール』の制作時期にレコーディングされたもの。当時、清水信之の存在に注目していたリスナーも多く、小生など予約して発売日に買ったほどだ。
前作でディーヴォのパロディなどに一部参加していたプログラマー、松武秀樹がここではフルに関わり、前出の参加作品のような濃厚なシンセ・ダビングを展開。欧州風オーケストレーションが施されたコンピュータ・サウンドは、ラジ『キャトル』、高橋幸宏『サラヴァ!』のころの坂本龍一編曲が好きなリスナーなら、心をわしづかみにされるだろう。初期YMOのようにインスト主体で構成されたアルバムだが、竹内まりやツアーの開幕曲だった「HOW ABOUT A LITTLE PRELUDE?」や、大貫妙子がコーラス参加した「ELENE」など、ポップス愛好家にも聞き所は多い。「マンハッタン・トランスファー『エクステンションズ』を日本風にやってみた」という、荒川児童合奏団に歌わせたコーラス曲「COSMIC LULLABY」などは、AKB48「桜の栞」の先駆けみたい(笑)。サンディー「ジミー・マック」、高橋幸宏「ストップ・イン・ザ・ネーム・オブ・ラヴ」など、モータウンのテクノ編曲カヴァーには傑作曲が多いが、本作にもホランド=ドジャー=ホランドが書いたシュープリームス「I'LL TURN TO STONE」を収録。今剛と大村憲司という珍しい組み合わせのツインリードで、パラシュートファンあたりにグッとくる曲調に仕上がっている。
プロデューサー・クレジットに載っている“トーマス・シンプソン”の正体は、当時、清水氏のマネジャーだった小川英則氏こと、現・コーザ・ノストラの桜井鉄太郎。本作で多重録音の面白さに味をしめて、裏方を辞めてアーティストに鞍替えしたという痛快なエピソードもある。拙著『電子音楽 in JAPAN』で一度、清水氏にはかなりディープなインタビューをさせていただいたことがあるものの、今回は初CD化に際し、改めてインタビューを敢行。またまた規定枚数の4倍という、掟破りな文量のライナーノーツを掲載しておりまする(笑)。80年代のYMOと90年代の小室哲哉ワークスを繋ぐ、清水信之が果たした役割を検証する貴重な話ももりだくさん。今回も全国レコード店に普通に入荷されるか怪しいので、ぜひショップで予約して、一人でも多くの方に聞いてもらえるとありがたい。
参考までに、80年代テクノ歌謡史を彩る清水信之ワークスの中から、特に人気の高いEPOとの共作をYouTubeから紹介しておく。
高見知佳「くちびるヌード」
香坂みゆき「ニュアンスしましょ」
島田奈美「内気なキューピッド」